新潟県の離島 粟島の未来創生事業から考える小規模・超高齢化地域の産業の未来像

周囲に島が無い「孤立型離島」で、日本で4番目に人口が少ない自治体であり、高齢化率が日本で最も高い離島の1つと考えられる新潟県粟島浦村。粟島浦村の、高齢社会に対応する観光サービス提供の仕組みの構築、教育と産業の連携による地域経済活性化の実践を通して、小規模・高齢化する地域の産業の将来像について考察してみます。

上田 嘉通

上田 嘉通 主任研究員

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目次

日本は6,852の島で構成されている島国です。そのうちの本州、北海道、九州、四国、沖縄本島の5島と418の離島が人々の暮らす有人島です。日本全体の人口は1955年から現在まで約4割増加してきましたが、離島地域の人口は同期間で5割以上も減少しています。高齢化率は離島地域では37.0%と、全国平均25.1%(平成26年版高齢社会白書)、過疎地域の平均33.0%より高くなっています。まさに離島地域は国の人口が増加し、経済が右肩あがりだった時代から既に過疎・高齢化が進んでいた「課題先進地」ということができます。

本レポートでは、離島地域のうち、周囲に島が無い「孤立型離島」であり、日本で4番目に人口が少ない自治体であり、高齢化率が非常に高い日本で最も条件の厳しい離島の1つと考えられる新潟県粟島浦村を対象に、高齢社会に対応する観光サービス提供の仕組みの構築、教育と産業の連携による地域経済活性化の実践を通して、小規模・高齢化する地域の産業の将来像について考察してみます。

新潟県の地図:粟島の位置

1.日本の離島の中の課題先進地域 粟島

新潟県には2つの離島があります。1つは佐渡島、もう1つが粟島です。粟島は、新潟県の北東に位置し、かつて村上藩の城下町として栄えた村上市にある岩船港から、高速船で55分、フェリーで90分の距離に位置します。人口364人、高齢化率42.9%(2015年12月時点)、産業別就業人口は、第一次産業98人、第二次産業64人、第三次産業127人と第三次産業が主産業の小規模離島です。行政単位は粟島浦村で、日本で4番目、新潟県では最も小さな自治体です。

島の主産業は観光と漁業です。年間2万人以上の観光客が訪れ、ゴールデンウィーク時の島びらき、あわしま牧場、オオミズナギドリ・ウミウの繁殖地(天然記念物)、伝統的な漁師料理「わっぱ煮」など、島内には多くの観光資源があります。漁業は、定置網漁、底引き網漁などが盛んで、タイ、イカ、タラなどが岩船漁港を通じて県内各地に出荷されています。

漁港に停まっている漁船

粟島との出会いは2014年9月の国土交通省の委託調査がきっかけです。このとき、役場の産業振興課と観光に関する課題について話をしました。
地域の状況を調べると、観光協会だけでなく、観光産業、農水産業、教育などさまざまな問題が見えてきたため、一般財団法人地域総合整備財団(ふるさと財団)が実施する新・地域再生マネージャー事業を活用して、小規模・高齢化する地域における産業の維持・活性化に向けた総合的なコンサルティングを引き受けることになりました。この事業の中からここでは、主産業である観光産業を支えるためのワークシェアリングの取組、教育と連携した特産品開発の取組を紹介します。

2.粟島の観光産業と農水産業の課題と解決に向けた取組

離島のような小さな経済圏では、島外、つまり外需しかありません。そのため、主産業である観光産業、農水産業におけるサービスと物を活用した島外からの資金獲得方策が有効と考えました。粟島の観光客は、平成4年の57,000人をピークに年々減少し、現在は20,000人程度で推移しています。民宿は33軒ありますが、ピーク時の70軒と比べると半数以下まで減少し、宿泊希望者の受け入れ体制が脆弱化しています。また既存の経営者の高齢化・後継者不足も深刻な問題であり、いかに廃業を防ぐかが喫緊の課題です。そのため、民宿の負担となっている作業を可視化し、島内の人々がサポートする仕組みを構築することで廃業リスクの低減を試みることにしました。
農水産業については、漁業者の平均年齢が70歳を超えており、10年後の漁業の存続が危ぶまれる状況にあります。農業は、農産物の大部分が自家消費、もしくは物々交換を通じて島内消費されていて産業規模としては非常に小さいのが現状。こうした産業にどのように付加価値を付けていくことができるかが課題です。一方、粟島には高校がありません。若者たちは中学校の卒業とともに島を離れなければならず、粟島に誇りを持って島を離れ、将来、担い手として戻ってきてくれるような教育のあり方も課題となっていました。そこで、島外に出荷されていなかった農産物を、中学生のアイディアを活かしながら商品化し、島の特産品として売り出すことにしました。これにより、商品の付加価値化はもとより、中学生のキャリア教育、地域への誇りづくりを同時に実現する取組としました。

(1)観光産業におけるワークシェアリングを軸とした高齢従事者の負担軽減

粟島の観光客の減少要因を調べるために、民宿全軒を対象にヒアリングを実施し、過去の民宿の廃業要因をはじめ、現在負担になっている仕事、廃業を考える主要因等を把握しました。この結果、粟島ではこれまで経済的な厳しさを事由に廃業をしたこところはなく、高齢化と後継者不足による廃業がほとんどであることがわかりました。粟島の観光客数の減少は、民宿の廃業に伴う観光客の受入容量の減少が主要因と推察されます。そこで今回は観光プロモーションよりも、民宿の廃業リスク低減と事業継承に力を入れるべきと判断しました。
このヒアリングを通して、民宿運営のなかでの作業の洗い出しも行いました。その結果、高齢化で食材仕入れ、部屋掃除、布団の上げ下ろしなどが負担となっていて、経営者自身の体力が衰えと共に廃業を考えることがわかってきました。そこで、これらの負担を、他の島民の手が空いている時にサポートできる仕組みを作り、民宿の運営における負担を島全体でシェアすることとしました。これにより、民宿の廃業リスクを低減することができると考えています。今回は試行的な取り組みですが、このワークシェアのマネジメントは観光協会が行うことにしました。
粟島の観光協会は、村から独立している任意団体であり、専任の事務局長1名、パート職員2名の3名体制です。主な収入源は村からの委託で、収益事業等による自主財源が乏しく、自立的に経営ができていないことが課題だったため、収益事業を強化し、自立的に経営できる組織にすることが求められていました。このワークシェアの仕組みを、将来的には観光協会が人材派遣業登録をして実施することとし、観光協会の収益事業として確立させていく予定です。
民宿に直接従事しない島民2名が、部屋掃除、布団の上げ下ろし等を試行的に行ってみました。しかし、民宿が部屋掃除、布団の上げ下ろしを行う時間は概ね共通しており、局所的に人数が必要になること、また、その時間帯に活動できる若い方が少ないことから、規模の拡大は難しいことがわかりました。今後は、役場職員がこの取組に参画することも含め、官民連携して島の民宿を支える仕組みをつくりたいと考えます。

ワークシェアの仕組みは、民宿のサポート以外にも、漁業の忙しい時期に島民が水揚げを手伝い、観光が忙しい時期には島民がガイドを行い、雑草が生えた道路は島民が草刈りをするなど、島民の多業化を認め、島全体の仕事量を平準化することで、高齢社会に対応した働き方の実現に応用できないか考えていきたいと思います。
現在、移住者などの後継者を受け入れ民宿の事業継承を促進するため、廃業した、もしくはしそうな民宿を観光協会が借受け、リノベーションを行った後にサブリースする仕組みも検討しています。移住者が民宿を借りることは、民宿所有者にとっては、きちんと活用されるのか不安が大きく、移住者にとっては、地域の信頼が無いために直接建物を借りることが難しい状況です。そこで、地域で信頼のある観光協会が仲介し双方の不安を軽減することで、民宿の建物の活用を促進することを目指しています。

(2)「農水産業」×「教育」による、特産品開発

これまでの粟島の特産品は魅力に乏しく、観光客アンケートの満足度は、自然環境、街並み、食事、島民との交流などと比べ、最下位に近いものでした。これは、作り手の考えだけで作っており、消費者の声を聞いていないためでした。そこで、消費者に最も近い小売業と連携し、商品開発チームを構築しました。小売業者にとっては事業者の認知度向上、イメージアップが図れるメリット、島側としては、特産品の販路づくりと双方にメリットがあります。新潟県内で販路を持つ新潟県総合生活協同組合と連携し、商品開発のアイディア検討を行いました。その結果、中学校のキャリア教育と連携し、中学生のアイディアを活かした高付加価値の商品を作ることとしました。商品は、中学生が喜ぶアイスクリームとし、島の名産でありながら、これまで流通していなかった在来の枝豆「一人娘」を原材料として使うこととしました。
その後、新潟県総合生活協同組合を通じて、新潟県内のアイスクリームメーカーと、アイスクリームメーカーを通じて、枝豆を餡に加工するメーカーと連携し、商品の開発を進めていきました。島民が生産した枝豆を島の直売所が買取り、餡製造メーカーに出荷、アイスクリームメーカーが商品を製造します。在庫管理はアイスクリームメーカーが行い、生産調整や発送の指示は島の直売所が行うことにしています。できあがった商品は、島内の直売所、飲食店で販売、民宿で食後のデザートとして提供するほか、生協の通販ギフトなどで販売することとなり、現在に至ります。このように、販路から逆算する形でつながりを作ることで、スムーズなチーム構築ができます。

メーカーが協力して作ったアイスクリーム

今回、中学生のキャリア教育との連携し、島の新しい特産品を生みだした背景には、教育面での狙いもありました。中学卒業とともに島を離れる子どもたちに、以下の3つを学んでほしいという思いです。
1.島の資源の商品化を通じて、島に誇りを持ってほしい
2.お金を稼ぐ大変さを知り、高校進学後の親の仕送りに感謝できるようになってほしい
3.「仕事がないから島に帰れない」ではなく「仕事を作りに島に帰る」と考えられる人になってほしい
具体的には、中学校の総合学習の時間を活用し、7月~10月までに全4回、島の魅力探し、商品企画、メーカーとの商談、味の検討、価格検討、ネーミング、パッケージデザインなどをワークショップ形式で検討しました。こうして中学生の思いとアイディアが詰まったアイスクリーム「大事につくった娘です。」が完成しました。2015年11月12日(木)、生徒たちが新潟県庁を訪れ、泉田新潟県知事への商品贈呈を行いました。その後、スーパーマーケットと生協の店舗での販売実習も実施しました。
中学生の教育のための取組は、島の人々の共感を呼び、15名が「一人娘」の栽培に協力してくれたほか、島内の民宿、飲食店、売店が商品を扱いたいと申し出てくれました。子どもたちには、地域の大人たちを一つにまとめる力があると分かったことも大きな収穫でした。
中学生による商品開発は話題性もあり、商品は現在品薄状態になっています。費用をかけなくとも、新しさや独自性などで人々に興味を持ってもらえれば、効果的なプロモーションが可能であるという良い事例となりました。

中学校の総合学習にて話し合い

3.まとめ

今回の事業を通じて、高齢化により民宿など観光事業者の事業継承の困難さが地域の観光産業の衰退を促している実態を目の当たりにしました。消費のけん引者としてシニアは注目されていますが、観光サービスの提供側の高齢化はまだあまり注目されていません。その意味では粟島は課題先進地域の中の先進地域といえるでしょう。高齢化による廃業リスクの低減のため、担い手が不足した仕事を地域全体でシェアするワークシェアリングの仕組みの構築は、他地域、他産業でも汎用可能な検討すべき取組と考えられ、今後の重要なキーワードになると思われます。
今後の展開として移住者による民宿の事業継承のための促進策として、観光協会が中間支援組織として建物を仲介することを検討しています。粟島のような小さなコミュニティでは、移住者が不動産を借りようとする際には、施設の貸し手も借り手も不安が大きいものです。だからこそ、双方が信頼できる中間支援組織が不安を取り除くことが重要です。
島の在来の枝豆「一人娘」を使用したアイスクリーム製造では、「作りたい商品を作る」のではなく「売れる商品を作る」という考えのもと、販路からメーカーを紹介してもらうことで、スムーズな体制を構築することができました。学校との連携は、子供の地域への理解や思いの醸成といった教育効果への期待とともに、商品の付加価値を高め、費用をかけずに話題作りを行うことができました。また、子どもを商品開発の中心におくことで、多くの島民の応援を受けることができ、島民を一体化させる効果もみられました。
日本で4番目に小さい村であっても、アイディアとネットワークによって様々な取組が実践可能です。孤立型離島は、地政学的にも重要と考えますが、過疎化、高齢化は私たちの想像以上の速さで進んでいます。一刻も早く、外の力を借りながら、住民が活力を持って取り組むための環境作りが急がれます。