地域社会における神社・仏寺が目指す方向性

近年、地域コミュニティの核として機能していた神社や仏寺の物理的・心理的なハブ機能が失われつつある。一方で、「美坊主図鑑」や“御朱印集め”をする若年女性が出現している。地域活性化の方策を模索する社寺とともに、文化・文化財の継承、地域コミュニティの中で社寺が担うべき機能、人的交流を通じた地域経済への貢献の方策を事例とともに考える。

河野 まゆ子

河野 まゆ子 主席研究員

印刷する

目次

~観光・交流をフックとしつつ、“観光地”になってはいけない社寺の宿命~

近年、地域における人口減少に伴って、古くからある地域コミュニティの衰退や「界隈」の空洞化といった課題が浮き彫りとなっている。その中で、これまで地域コミュニティの核として機能していた神社や仏寺といった物理的・心理的なハブ機能が失われつつあるという声も聞かれる。

そのような社会環境のなか、生活者が、自身の生活圏で、あるいは旅行先で社寺に期待することは、時代に応じて変化していくものと推測される。「美坊主図鑑」なる僧侶にスポットを当てた写真集が売上を伸ばしたり、“御朱印集め”をする若年女性が社務所に列を作ったりする最近の動きは、10年前には想像できなかったことだ。とはいえ、社寺も、本来の命題である信仰や伝統文化の継承という命題から抜け出すことはできない。観光や人の交流という切り口から地域活性化の方策を模索する社寺とともに、文化並びに文化財の継承、地域コミュニティの中で社寺が担っていくべき機能、人的交流を通じた地域経済への貢献の方策を事例とともに考える。

1.はじめに ~神社・仏寺(社寺)が置かれている状況~

日本の人口減少は急速に進み、2020年頃を境に、東京などの都市部でも人口は減少に転ずると言われている。人口減少や単身世帯の増加等に伴い、仏寺は檀家減少が顕著なうえ、檀家を持たない「御祈祷寺」、神社においても御祈祷ニーズの減少などを経て、経営に苦しむ社寺も多数生まれている。更には、人口の都市圏集中という社会構造の変化の中で、地方の神社、仏寺における跡継ぎ不足や、祭事を担う地域住民の減少などの課題も色濃くなっている。

一方で、生活者の旅行に対するニーズは多様化の一途を辿っており、若年女性を中心としたパワースポットブームや、伊勢神宮の式年遷宮などを契機とした御朱印ブームをはじめ、写経、座禅、阿字観などの仏教に関する体験ブームが浸透しつつある側面も見られる。

また、訪日外国人の増加に伴い、「日本らしい風景」や「日本らしい体験」を求めて、神社仏閣に足を運ぶ人々は増加の一途を辿っている。国際線の地方空港への就航や、海外クルーズ船の寄港の増加に伴い訪日旅行者の地方分散が進み、京都・奈良ばかりでなく、全国各地の社寺に訪日外国人が足を向けるようになってきた。

西洋の旧市街の中心にある教会がいまだに『街の中心・象徴』足り得ていることと比較して、日本における神社や仏寺は、現代においても地域の「象徴的なもの」となり得ているのだろうか。あるいは、国内の社会構造と旅行市場がともに大きく変化する中で、社会が社寺に求める機能が変化し、別の役割が求められているのか。観光や交流が、社寺にどのような役割を求め、社寺と消費者がどのように繋がることで地域社会における新たな機能を担うことができるのか、その可能性を探る。

榛名神社のおみくじに並ぶ女性

榛名神社のおみくじに並ぶ女性

2.社寺と生活者の心理的距離感 ~ライト層へのアプローチが鍵~

社寺と消費者の心理的且つ物理的な距離感を把握するため、インターネットアンケート調査を実施し、社寺に関する知識や興味の有無、社寺への来訪頻度とその理由、旅行先の社寺に求める体験などを調査した。その結果によると、社寺に興味がある人と歴史文化に興味がある人は共に過半数を超えており、年齢が上がるにつれ、その傾向はさらに高まる。その一方で、社寺や歴史文化に対して、一定程度の知識があるとする人は40%に満たない。

なお、社寺と歴史文化への興味も知識も高い「マニア層」は男性に多く、全体では16%にとどまっている。この「マニア」層は、男性60~70代では3割近くにのぼるが、その一方で、興味は高いが知識が低い「ライト層」は女性に多いという傾向も明らかになった。

これまで、社寺訪問を主目的とした旅行となると、熟高年など「社寺や仏像が好きな人」というマニア層に向けた商品展開が主流であった。しかしながら、社寺に興味関心の高い層は決してボリュームゾーンではないため、“黙っていても来てくれる”マニア市場にのみ社寺の魅力を訴求していくと、人口減という背景の中で確実に市場が縮小していってしまう。よって、社寺や歴史文化に対する知識を深めることを目的とした学習的傾向の強いコンテンツではなく、興味関心のある層が気軽にアプローチできるコンテンツを如何に提供していくかが、生活者と社寺との距離を縮める鍵となる。

社寺に関する消費者意向調査:興味を持つ人は多いが、知識がないと自覚する人は多い

(図1)日本の社寺・歴史文化に対する興味度および知識度(ベース…20~79歳男女(N=9870))
(出所:「社寺に関する消費者意向調査」 JTB総合研究所 2015年6月)

3.誘客のターゲットは目的ごとに異なる

社寺を訪問する目的を調査で聞いたところ、「初詣」が突出し7割以上となり、年代による差は見られなかった。次いで、「墓参り」「祭り・縁日に客として」「法事・葬式」といった葬祭に関わる目的が並び、「御朱印」「宿坊」など目的性の高い行為の経験者は5%未満にとどまる。

性年代別で特性をみると、20~50代女性は「御守り」「おみくじ」「パワーや癒し」目的での訪問が同年代の男性よりも多く、中でも20~30代の若年女性は「(花見など)森林浴・自然観賞」「おみくじ」「パワーや癒し」といった、かなり気軽な気持ちでの来訪が多い傾向が顕著であった。女性は、マニアでなくても葬祭以外の目的で社寺を訪問しており、この「ライト層」への訴求が誘客の鍵を握るものと考えられる。

社寺での体験希望について、「祈祷・祈願を受ける」は、旅行先よりも慣れ親しんだ日常生活圏の社寺で体験したい人が多い。一方、旅行先の社寺では、「抹茶・和菓子」「精進料理」「宿坊」といった飲食や宿泊に関連するものに加え、「特別拝観」「社寺・街歩き」ツアーや「御朱印」など、その社寺ならではの特別感のある体験が人気だ。より社寺の本質に近い体験と言える「日常的な儀礼」「説法」は1人で、特別拝観などの「深く知って楽しむ」ことは親しい関係の配偶者等と2人で、「抹茶・和菓子」「精進料理」などはマニア度に差があっても旅行気分で楽しめるように友人と、というように、体験の専門性や目的性の高さ、レジャー要素の強さなどによって、希望する同行者が変化することが興味深い。なお、「精進料理」は約3,000円、「宿坊」は約8,500円、「ガイドツアー」は約2,500円程度が想定する一人あたり費用となっており、現在提供されている既存のコンテンツと比較しても、極めて正確な値ごろ感を有していることが読み取れる。

旅行先の社寺で体験したいこと:「精進料理」「宿坊」などその社寺ならではの特別感のある体験が人気

(図2)「旅行先の社寺で体験したいこと」
(ベース…日本の社寺・歴史文化どちらにも興味が薄い人を除く、20~79歳男女のうち、上記場所での体験に興味があるケース(N=1088))
(出所:「社寺に関する消費者意向調査」 JTB総合研究所 2015年6月)

4.文化・信仰の継承手段としての「集客活動」 ~“観光地”になってはいけない社寺の宿命~

次に、社寺の立場から見た課題を整理した。観光地として有名な社寺であればあるほど、建築や山内・庭園等の維持管理(文化財の維持修復を含む)に係る不安の解消と経営の安定化、という点が最重要課題となる。この課題を解決するため、様々なイベントを仕掛けたり、CMやテレビドラマ等の誘致を積極的に行う社寺も多く見られるようになってきた。その際に社寺関係者が口を揃えて言うのが『社寺が観光地やテーマパークになってはならない』ということとのジレンマだ。信仰の場所であるという本来の意義を損なうことなく、更には日々の暮らしの中における祈りや感謝という感覚を日本人のうちに継続して浸透させていく、というのが社寺の本質的な命題だ。その遂行を集客活動が阻害してはならず、むしろこの命題を追求するために観光や交流が助けとならねばならない。そのために適切な方策はなにか、ということを個々の社寺が模索し、様々な取り組みを試行している。観光地として著名な社寺や、地域コミュニティの中での人的交流促進を目指す地域密着型の社寺、寺を持たない複数宗派の共同体など、様々なケースの取組事例を調査した。

事例1 円覚寺佛日庵: 文化発信の場としての寺のあり方を模索

鎌倉の円覚寺佛日庵は、決して観光寺とは言い難い小規模な仏寺だ。ここでは、単に誘客イベントとしてではなく、歴史文化を知る・触れるための文化サロンとして地域コミュニティの中で役割を果たす、ということに主眼を置いた取り組みを推進する。旅行会社やイベント会社に誘客を一任するのではなく、体験プログラムの品質担保、並びに信仰や文化という側面を侵食しないプロモーションのあり方を徹底するために専門人材を雇用することで、メッセージ性と娯楽性を併せ持つプログラムの創出に力を注いでいることは特筆すべき試みと言える。拝観料だけでは経営維持できないという課題の解決に向け、「ただしく」「たのしく」「高品質な」コンテンツ提供の基盤を整備し、プロモーションとプログラムの実体験を通じた信仰の伝承を模索している。

事例2 醍醐寺: 70,000点を超える指定文化財と、敷地の自然環境を活かした教育普及

世界遺産にも登録されている京都の醍醐寺は、子どもや大学等と連携した教育普及をコアコンテンツとして展開している。広大な山と庭園を有するという特性と、数多くの文化財を活かした社寺の歴史伝承と環境保全の重要性を、教育体験コンテンツを通じて伝えていくことが目的だ。地域の小学校と連携して展開する「京の杜プロジェクト~桜がつなぐ架け橋」は、京都の寺社で大量発生する落ち葉を堆肥化し、できた堆肥で新たな緑を育てる、循環型社会を目指す取組。この他、大学のインターンシップ受入れや、地元中学校に社寺を通じて文化財に触れる機会を提供する鑑賞授業などを積極的に展開する。社寺がかつて教育機関の役割を担っていたことに回帰し、地域社会への教育普及という側面からの社会貢献に注力する、社寺だからこそ生み出せる社会的効果を重視した取り組みと言える。

事例3 寺社フェス 「向源」: 宗派を超えて協議体を結成、若者をターゲットに現代的アプローチで伝統文化を伝達

“超宗派”を自称する、神社、仏事の関係者で構成される向源実行委員会は、ターゲットを「若者」に絞り込み、『布教』ではなく『日々革新を続ける日本の伝統や文化を通じて未来を切り開く力を伝達する』ことを目的として、多様なイベントを東京都内で実施している協議体。東日本大震災を契機に、仏教と音楽を核としたイベントを開催したのが活動の始まりだ。音楽ライブやトークショー、プロジェクションマッピングといった既存のフェスのコンテンツに加え、寺社フェスならではの体験型のワークショップが数多く用意されていることが特徴と言える。100以上に及ぶイベントは、茶道や書道、香道、能といったものや、水引や塗香づくりなど多くあるが、自らの死を精神的に疑似体験する「死の体験旅行」が特に人気と言う。ボランティアベースながら強固な運営体制を敷き、クラウドファンディングも活用しながら、きめ細かくローコストでの事業展開を可能としている。東京都の増上寺を拠点とし、賛同者の増加に伴いイベント規模も年々拡大している。短期的、またはスポットとしてのイベントの連続ではなく、本取り組みを有志による「事業」と位置付け、宗派や土地の枠を超えて共通の目的を遂行する、という現代的なアプローチを採っていることも向源が注目されている理由のひとつだ。それが故に、ターゲットの明確化や賛同者、協力企業の選定が適切に行われており、事業のストーリーが極めて明快という特徴を持つ。

上記のような社寺の代表を中心に、今後の取組に関する展開可能性を探るための研究会を開催した。宗派を超えた連携のあり方の重要性や、一般にわかりにくいとされる信仰や祈りといった「生きる姿勢」を伝える方法について共通認識が得られたほか、生活者における社寺への興味を喚起し、来訪に繋げ、来訪から再訪へ、再訪からコミュニティの形成へ繋げていくために考えられる手法や取組案に関する議論が展開された。「お守り」の意義の伝え方と購買に繋がるストーリー作りや、「初詣」という絶好のプロモーション機会の最大活用方策などについて意見が交わされた。
研究会の実施についての情報

5.観光・交流をフックとして社寺が向かっていく方向性

社寺が共通して抱える、集客活動と信仰・伝統の継承というジレンマを乗り越えていくためには、観光コンテンツの提供というアプローチではなく、祈る心や尊ぶ心を有する参拝者を増やすための仕掛けが求められる。よくあるライトアップやイベントの種別によっては、開催される場所が社寺である必然性が薄く、単発の誘客イベントで終わってしまう可能性がある。他の施設では代えがたい社寺という特別な舞台装置を最大限に生かし、日本人の精神の根底に流れているはずの、自然や文化、歴史に対する基本姿勢や考え方を伝達するためには、社寺における信仰への姿勢やしきたり、歴史・文化を理解したうえで、生活者が楽しんで参加することができるプログラムやコンテンツを編み出すことができる役割の『通訳者』が、社寺と観光産業をつなぐことが重要だ。このような『通訳者』の手を介せば、お守り、おみくじ、体験プログラムなどのモノやコトの由来や意義に立ち返り、時には現代的な解釈を通じて、ライト層の関心と理解を呼び起こしていくことができる。マニア層、ライト層の別なく誰もが感覚的に理解し、人生の節目でふと希求する癒しやパワーといった目に見えないものを体感し、理解して貰うために、僧侶・神職などによるインタープリテーションを通じた体験も浸透していくに違いない。あわせて、歴史文化の伝承、癒しや祈りの継承という目的を同じくする社寺間における、宗派や地理的な結びつきを超えた複数組織の協力もさらに進展していくことだろう。

2020年東京五輪における「文化の祭典」に向けて、東京圏のみならず、全国各地で文化イベント創出に向けた動きが活発化しつつある。数多くの来訪が見込まれる訪日外国人が日本に求める「日本らしい文化」の基軸を成す社寺関連の景観や施設、儀礼や思想・信仰とそれを体感できる各種のプログラムやツールの活用可能性は実に幅広い。これらの機会を捉え、社寺が個々の施設の活性化という枠組みを超え、社寺自身が『通訳者』を媒介して地域と来訪者の双方を巻き込みながら、地域活性の核として新たな役割を担う方策を展開していくことが期待される。