何でもある国“日本”から海外へ飛び出す意欲を高めるためには?

ビザ無しで旅行できる場所が最も多い国で世界11位の日本。しかしながら、日本人の海外旅行者数は他国に比べて減少傾向にあります。その原因は何なのでしょうか。そして我々は海外旅行市場を盛り上げるために何をすべきなのでしょうか。

エドワード トゥリプコヴィッチ 片山

エドワード トゥリプコヴィッチ 片山 客員研究員

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海外旅行の基盤となる環境に恵まれている日本人

プラザ合意以降の円高やバブル景気に後押しされ、1980年代後半より日本人の海外旅行者は急激に増加し、首からカメラを下げ世界中の国々を回る姿は日本人の海外旅行者の象徴となりました。日本のパスポートは「プラチナチケット」とされ、世界中のどこの国でも訪れることができるというイメージも定着しました。しかしながら、最近の日本人の海外旅行市場は、2016年こそ4年ぶりに+5.6%と増加に転じたものの、長らく低迷し、行先も近距離の割合が増加しています。ドイツ政府観光局によると、2016年におけるドイツ国内での中国人の宿泊数は1.1%、インド人は7.8%、そして韓国人は5.7%伸びましたが、日本だけは12.4%の減少でした。

カナダの投資顧問会社であるArton Capitalが発表している2017年のVFS(ビザフリースコア)を見ると、ビザなしで旅行できる場所が最も多い国はドイツで、158の国や地域をビザなしで旅行することができます。2位以下には、スウェーデン、シンガポール、北欧、フランス、イギリス、アメリカなどが続きます。トップ10に入っているアジアの国はシンガポールのみで、日本は11位です。

次にUSNewsが発表している“Best Countries”(暮らしやすさ、文化的な影響度、事業のやりやすさなど65の項目に関し、世界中の21,000名へアンケート調査を行った結果から算出されたランキング)を見てみると、前述のVFSのトップ10に入っていた欧州5カ国(イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデン、ノルウェー)とアメリカの計6か国が“Best Countries”のトップ10にも登場。日本は5位(アジアでは1位)にランクインしており、経済や移動の自由度、文化的背景など海外旅行の基盤となる環境に恵まれていると言えそうです。

「まだ見ぬ新しい世界を体験したい」新興国の海外旅行意欲の強さ

では、さらに海外旅行者数のランキングと比較してみるとどうでしょうか。UNWTO(United Nations World Travel Organization)のデータによれば2014年の海外旅行者数トップ10をみると、1位は中国、2位は香港、3位がドイツ。日本は17位でした。これまで見てきた3 つの指標に共通して10位以内にランキングされた国はドイツ、イギリス、アメリカの3か国だけです。 一方、中国、香港、マレーシアのアジアの3か国が海外旅行者数の上位10位以内に入っています。

海外旅行者の多さとビザなしで出かけられる国の多さは関連がないとは言えませんが、最初の2つの表のトップ10には出てこなかったマレーシアや中国、ポーランド、ロシアといった国々の出現は、新興国における海外旅行意欲の高さ、つまり、まだ見たことのない新しい世界を体験し、視野を広げたいという気持ちの強さを私たちに示唆してくれます。このような強い海外旅行意欲のもと、新興国の経済発展と共に、世界の海外旅行者数は今後も増加を続けていくでしょう。振り返って日本にいる私たちは、現在17位である出国者数を10位以内に底上げするために、何をしなければならないのでしょうか?

自分自身で体験することの意義と醍醐味

日本人の海外旅行意欲が新興国ほど高くないのは、個人的には、「日本は何でもある国である」ことが原因だと考えています。高級ブランドからカジュアルブランドまで様々な海外の商品が巷にあふれ、レストランでは世界中の料理が楽しめます。世界中の映画などのコンテンツもインターネットやレンタルビデオショップなどで簡単に手に入れることができます。日本が世界でおそらく最も治安が良い国の一つであることも重要なポイントです。日本がいかに魅力的な国であるかということは、最近の訪日旅行者の増加でも証明されているところです。このような環境にあって、海外旅行の意欲を高く保つことは、ある意味大変なことなのかもしれません。

しかしながら、日本の人々に思い出してほしいのは、大切なことは「自分自身で体験すること」だということです。海外旅行の醍醐味は、実際にその場所を訪れ、文化や言葉に触れ、地元の人々と交流し、自分自身に新しい発見や視点をもたらすことなのです。

海外の国々に興味を持ち、そこへ出かけたいという気持ちを起こさせる最初のきっかけの一つは、「世界について知る」ことです。日本では、学校で日本史か世界史を選ぶシステムになっており、全員が世界史を習うというわけではありません。また世界地理についての教育も決して多いとは言えません。幸いなことに私自身は、複数の国の教育を受け、世界の歴史文化や地理を学ぶことを通じ、普遍的かつ世界的な視点を持てたことが現在では、公私共に役立っています。日本の教育システムの中に、もっと世界の歴史や文化、地理を取り入れていくことは、日本の将来を担う世代に世界の現状を伝え、ひいては日本の海外旅行市場の活性化の一助ともなるのではないでしょうか。

海外旅行など3つの指標のトップ10

出典:UNWTO、Arton Capital、USNews