新型コロナウイルス感染症禍で再考すべき旅行情報発信のあり方

SNSの普及により情報の流通構造が変わり、巷には一個人の発信からマスメディアによる情報まで大量の情報が溢れています。コロナ禍でリアルな行動が制限され、さまざまなデジタルコミュニケーションツールが広がる中、人はどんな情報に信頼を寄せ参考にするのかを紐解きながら、今後の旅行情報の発信のあり方を考えます。

波潟 郁代

波潟 郁代 執行役員 企画調査部長

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目次

新型コロナウイルス感染症(以下新型コロナ)の世界的流行から1年以上が経過しました。コロナ関連のニュースを見ない日はなく、大量の情報がさまざまなメディアから発信されていますが、誰もが一度は情報に不安を感じたり、目利きの難しさを感じたりした経験があるのではないでしょうか。既にSNSの普及により流通構造が変わり身の回りの情報量は増えています。自分自身をメディア媒体として自由に情報を発信すると同時に、著名人から一個人まで多様な人々からの情報を得ることも可能な時代です。では人々はこうして得られた情報をどの程度参考にしているのでしょうか。旅行情報にも多くの取得手段がありますが、どんな情報がどう活用されているか気になります。
今月4月9日にJTBが「コロナ禍の生活におけるインターネットやSNSからの”情報と旅行に関する意識調査」を発表しました。調査には当社も関わり、これまでの研究や自身の広報の経験と現在のメディアリレーションズの活動経験が活かされています。多くの地域が「発信力」を課題に掲げている現状も踏まえ、本文ではJTBの了承を得て注目すべき点を補足し、未公表のデータも一部用い今後の観光における情報発信について整理します。

1.情報発信別による参考度とSNSの立ち位置

日常生活の中で、テレビ番組や通信社・新聞社の報道記事、SNSなどから得られる情報を人はどの程度参考にしているのか、調査対象者(*注)に聞いた結果を図表1、2で表しました。参考にしている(「大いに参考する」と「参考にする」の合算値)割合が高いのは、「テレビのニュース番組、報道特集番組(73.1%)」「(紙やネットを含む)通信社・新聞社などの報道機関の記事(61.0%)」「テレビのワイドショー(41.7%)」といわゆるマスメディアの報道が上位を占めました。
SNSの情報で参考にする割合が高かったのは「企業の公式SNSの投稿(31.2%)」「通信社・新聞社などの報道機関の公式SNSの投稿(29.5%)」で、概ね3割が参考にしています。「友人知人の投稿」「有名人・著名人・インフルエンサーによる投稿」と発信者がどんな人か知っている場合で2割程度、匿名の投稿はさらに低い結果となりました。SNSによる情報は「誰による発信か」に左右されていることが分かります。また「通信社・新聞社などの報道機関」による情報でも、紙やネットを含む記事と公式SNSとでは大差がありました。SNS情報は年代が上るほど参考にする割合が少なくなりますが、SNSの利用者自体が少ないことも起因していると考えられます。
男性29歳以下は「報道機関の公式SNSの投稿(37.3%)」や「企業の公式SNSの投稿(41.1%)」、女性29歳以下は「有名人・著名人・インフルエンサーによる投稿(42.7%)」を参考にする割合が他の性年代より突出して高くなりました。若い年代はSNSをデフォルトとして活用しているといっても過言ではなさそうですが、企業側にもリツイートを含めた拡散力と即時性によるSNSのメリットは大きいと思われます。世代交代が進めば、信頼度が高いSNSは情報接点のスタンダードに近づくと考えられます。

図表1 情報発信元別 得られた情報の参考度合いについて(各単一回答 N=2,025)

図表1 情報発信元別 得られた情報の参考度合いについて(各単一回答 N=2,025)



図表2 情報発信別 得られた情報の参考度合いについて(抜粋 性年代別)(各単一回答 N=2,025)

図表2 情報発信別 得られた情報の参考度合いについて(抜粋 性年代別)(各単一回答 N=2,025)


2.近年存在感を増しつつある観光協会のウエブサイト

地域の観光関係者は、発信力が足りない、SNSを強化するとよく話しますが、観光情報は旅行者からどのように利用されているのでしょうか。直近の旅行で「旅先での具体的な行動を決めるための情報取得手段」について聞いたところ、以前の調査より「観光協会のウエブサイト」の存在感が増していました。旅行者が最もよく参照しているのは「旅行会社・OTAの観光情報」「旅行口コミサイト」ですが、観光協会のウエブサイトが次に続き、ガイドブックや雑誌よりも高い結果でした。地域活性化の手段として観光が注目され、外国人旅行者の受け入れ基盤整備が進む中、多くの地域が観光資源の見直しやブランディングを進め、DMOや観光協会のウエブサイトの質が向上し、日本人旅行者にも周知されるようになったと考えられます。特に「観光名所」「お祭り・イベント行事」「お土産・ショッピング」に強みがあり、旅行者は地元の人による地元の情報、季節性のある価値の高い情報を期待していると考えられます。一方「体験・ツアー情報」は「旅行会社・OTAの観光情報」や「旅行口コミサイト」より参照されていません。図表4は2017年の調査時における観光協会のウエブサイトに対する不満点です。その多くが改善され現在のように情報源として定着しつつあると考えられますが、当時から若い年代ほど「情報だけではなく体験ツアーの予約ができるとよい」が高い傾向でした。地元の消費につながるよう、「観光名所」と連動したり予約機能を盛り込んだりという工夫が期待されます。
SNSやブログは具体的な行動を決める手段としてはあまり活用されていませんでした。前章で示した通り、即時性や拡散力を活かした認知度向上や、写真や動画を使用したイメージアップにより、「認知」から「好感」へと無関心層の意識を変えるには効果的と思われます。しかし行動に必要な情報に合理的にリーチできるとは言い難く、必要な情報はウエブサイトに掲載して誘導することも大切です。当社のアンケートでは、コロナ禍で旅先の感染対策を事前に知りたいと要望が高くなっていますが、フェイスブックにアップしただけのところもあり、時間の経過とともに更新情報が増え見つけにくくなる例もありました。ウエブサイト、SNS、ブログの機能を理解した上で効果的に活用することが大切です。

図表3 直近の国内旅行における、具体的な行動を決めるための情報取得手段(複数回答 N=2,001)

図表3 直近の国内旅行における、具体的な行動を決めるための情報取得手段(複数回答 N=2,001)



図表4 観光協会や自治体の観光情報を掲載したウエブサイトに対する不満(複数回答 N=1,030)

図表4 観光協会や自治体の観光情報を掲載したウエブサイトに対する不満(複数回答 N=1,030)
出所:JTB総合研究所 スマートフォンの利用と旅行に関する調査(2017)


3.動画、写真・イラスト、テキストを効果的に使い分ける

旅行・観光情報を提供するウエブサイトには、動画、写真・イラスト、文字(テキスト)を使いさまざまな情報が掲載されています。昨年4月の緊急事態宣言時には、外資系ホテルがいち早く感染防止対策と動画をウエブサイトにアップし話題になり他も追随しました。しかし旅行再開後は必ずしも動画は合理的な情報提供ではないという意見も聞き、利用者側からみて知りたい情報はどんな手段を用いて表現するのがいいのか項目別に聞きました。結果は、感染防止に関する注意事項や対策方法は静止画(写真、イラスト)およびテキストのみが53%と同数になり、動画は28%でした。観光プロモーションはSNSでもウエブサイトでも動画が最も高い結果でしたが、静止画も約6割の支持がありました。宿泊や観光施設の案内は静止画が共に7割を超え、最も高い結果となりました。動画はイメージを膨らますPRには効果的ですが、閲覧時間を要する割には理解しにくいと思われます。

図表5 旅行情報別 分かりやすい表示形式について(複数回答 N=2,025)

図表5 旅行情報別 分かりやすい表示形式について(複数回答 N=2,025)


4.本格的旅行再開に向けた旅行情報発信のあり方

コロナ禍という環境もあり、移動制限の不便さをカバーするためにさまざまなデジタルコミュニケーションツールが登場しています。しかしながら旅行者の視点でいうと、図表6の通り、観光情報配信の基本的イメージは頻繁に変わるものではありません。
旅行サイクルの中で必要な役割は大きく2つだと考えます。1つは、旅行者がどんな情報を必要としているか理解し、旅行者にストレスや誤解を与えることなく伝えるための情報発信、1つは、広く認知度あげ好感度をあげることにより、無関心層を関心層に引き上げるための情報発信です。どちらのための情報発信かで、発信手段も内容も変わってきます。インバウンドも同様と思われます。
報道の力を借りた広報活動も、広告とは違い報道機関という第三者機関の視点が入ることで「お墨付き」と「信頼」が担保でき、より広い層に情報が伝わるという点では重要です。ただし、現在は報道の世界にもデジタル化が進み広報活動は従来型のニュースリースを通じた「発表」と「取材」の関係だけでは成立しなくなっています。図表6で示した通り基本的な情報配信の中での役割の1つと捉えることができます。よって情報発信は基本的にはウエブマーケティングにより情報基盤を固め、SNSに加えオンラインツアーなども活用してデジタルマーケティングを進めることが中心になりそうです。最近は報道機関がSNSで話題になった内容を記事化するケースも増えています。記事は良くも悪くも影響力があります。誰でも発信できる時代だからこそ、ブランディングを含む全体を俯瞰する力とリスクを含む発信の影響に対する想像力を養い、最適な発信を行う“広報の視点”が誰にでも必要なのだと考えます。
 また、DMOや観光協会のウエブサイトの閲覧が見られている点も今後のマーケティングには重要です。コロナ禍の旅行者は以前にましてリアルタイムな情報を求めており、一次ソースとして地域が配信する情報を重要視する流れが生まれています。旅行者が求める情報が変わるなかで、旅行情報をメディアやクチコミに頼る時代ではなく、自らが情報を探す時代になってきていると考えると、DMOや観光協会は来訪した“見えている旅行者”への対応だけではなく、これから来る“見えない観光客”に向けたマーケティングと情報配信の在り方を今のうちに見直す必要がありそうです。

 

*注 図表1~3、5
JTB「コロナ禍の生活におけるインターネットやSNSからの情報と旅行に関する意識調査(2021)」
調査対象者:2019年以降2021年2月までの旅行経験者(国内、海外問わず)」かつスマートフォンを保持している人 2,025名