コロナ禍後の旅行再開を見据えたオンラインツアーによる地域との交流のあり方

リアルな旅行の代替として始まったオンラインツアーは、当初は旅行再開で減少すると考えられていましたが、コロナ禍が長引き、新しい旅の形として定着しています。旅行再開に向け、オンラインツアーによる新しい地域との交流のあり方を考察します。

宮崎 沙弥

宮崎 沙弥 研究員

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目次

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ/COVID-19)の影響により、外出や移動が出来ない不便さをカバーするためにデジタルツールの活用が広まりました。観光・旅行の分野でもデジタル化が後押しとなり、新たな旅の形として「オンラインツアー」が登場しました。
本文では、コロナ禍で広まったオンラインツアーのこれまでの大きな流れやトレンドを整理し、筆者が実際にオンラインツアーに参加した経験から、本格的な旅行再開を見据え、オンラインツアーによる新しい地域との交流のあり方を考えます。

1.オンラインツアーのこれまでの大きな流れ

外出自粛で移動が制限された中で起こった観光・旅行分野の大きな動きのひとつとして、オンラインツアーの登場があげられます。移動制限が解除され、リアルな旅行が回復すればオンラインツアーは徐々に減少していくと思われていました。しかしながら、感染者数の増加が止まらず、実際に旅行ができない期間が長引いた結果、さまざまな事業者がオンラインツアーの主催者となり、新しい旅の形としてオンラインツアーが定着しました。
新型コロナの感染状況とオンラインツアーは大きく関係していました。全体としての大きな流れは以下に示す通りです。

  • 2020年4月~ 初めての緊急事態宣言下でオンラインセミナー・バーチャルツアーが開始
  • 新型コロナの感染拡大に伴い、世界中の多くの都市でロックダウンが始まりました。日本でも2020年4月に緊急事態宣言が発令され、ゴールデンウィークの旅行はなくなりました。観光事業者を含め、仕事が全くなくなる人も多くいました。そんな中、エイチ・アイ・エス(HIS)は、同社のアメリカ法人と共にオンラインセミナーやバーチャルツアーを開始しました。現地ガイドが人気の観光都市を写真や動画を用いてガイドツアーを行う、現地で活躍する著名人とライブで繋がるなど、知恵を絞ったオンラインツアーが開催されました。当初は無料でしたが、その後、有料が定着しました。参加者としては、商品内容の面白さはもちろんですが、コロナ禍でも海外で頑張る人を応援しているという実感を得られたと思います。

  • 2020年7月~ GoToトラベルキャンペーンが開始されるも、新型コロナ感染者数は増加
  • 緊急事態宣言が解除され、GoToトラベルキャンペーンも開始されるなど、実際に旅行に出掛ける人も増加しました。しかし、感染者の増加は止まらず、遠方の旅行を控えるようになりました。居住地の近隣地域で旅行をするようになったことから、離島の観光事業者やバス会社など、旅行会社以外の事業者が主催する国内のオンラインツアーが登場しました。多くのオンラインツアーは有料となり、定額でオンラインツアーやオンラインセミナーに参加し放題となるサブスクリプションサービスも誕生しました。参加者はシニア参加の多い旅行会社の商品でも、親子連れで参加するなど、新しい顧客の獲得に繋がりました。

  • 2020年12月~ 二度目の緊急事態宣言が発出される
  • 新型コロナが再拡大し、年末年始はステイホームの徹底が求められました。近隣地域での旅行も控えるようになりました。旅行に行けない期間が長引いたことで、オンラインツアーの需要が再び高まりました。

  • 2021年2月~ オンラインツアー用の比較サイトが登場
  • 現在、観光・旅行分野以外の事業者もオンラインツアーを主催しています(表1)。多種多様なオンラインツアーが登場したことを背景に、各社が提供するオンラインツアーを横断的に検索できるサイトが立ち上がりました。2021年2月には株式会社Torchが「WaTrip」を、2021年4月にはトラベルズー・ジャパン株式会社が「ONTABI(オンタビ)」をそれぞれ公開しています。リアルな旅行と同じように、オンラインツアーが取り扱われ始めました。リアルな旅行の代替として登場したオンラインツアーですが、代替にとどまらず、新しい旅のかたちとして定着していることがわかります。

    表1 オンラインツアーの主催者一覧

    表1 オンラインツアーの主催者一覧


2.利用者側からみたオンラインツアーとは

オンラインツアーはどれくらい市場に浸透しているのでしょうか。利用者側からみてみます。

  1. オンラインツアーの体験状況
  2. 当社が実施した調査によると、国内オンラインツアーの利用率は全体で11.3%でした。コロナ禍以前の国内旅行頻度が年3回以上の人の利用率は14.4%で、年1回未満の人(7.8%)に比べて高い結果となりました。また、国内オンラインツアーを利用した人の今後の利用意向は、全体で42.0%でした。国内旅行頻度が年3回以上の人の利用意向は58.7%と、約6割の人が今後もオンラインツアーに積極的に参加する意向を持っていることがわかります。国内オンラインツアーの利用経験がない人の今後の利用意向をみると、コロナ禍であった2020年4~9月に国内旅行を実施した人で32.6%と、同時期に旅行をしていない人(23.5%)に比べ高い結果でした(図1)。国内旅行頻度が高い人や、コロナ禍でも国内旅行に出かけていた人など、旅行が好きな人とオンラインツアーの親和性は高い様子がうかがえます。

    図1 国内旅行オンラインツアー利用率と今後の利用意向(利用者・非利用者別)

    図1 国内旅行オンラインツアー利用率と今後の利用意向(利用者・非利用者別)
    出所:新型コロナウィルス(COVID-19)に関連したアンケート調査(2020年9月)(スクリーン調査)


  3. 参加者の感想からみえてきたこと
  4. 当社が海外旅行経験者を対象として実施した調査で、オンラインツアーに参加した感想を聞きました。実際に国内オンラインツアーに参加した人は、「現地にいるような気分が味わえた(20.5%)」が最も高く、「現地ガイドからの解説がよかった(16.0%)」、「双方向でコミュニケーションが取れることがよかった(16.0%)」が続きました(図2)。国内を舞台にしたオンラインツアーは、現地との双方向のコミュニケーションを意識しながら、現地にいるような気分を盛り上げるコンテンツを提供することが満足度を高めるといえそうです。次に、オンラインツアーに参加した結果、現地への旅行意向はどう変わったかを聞いたところ、「前から興味があったところなので実際に行きたい(25.1%)」が高い結果となりました(図3)。リアルな旅行に行く前にオンラインツアーに参加したことで、今後の旅行意向が高まった様子がみられます。オンラインツアーは単なる旅行の代替手段ではなく、旅行者と現地を繋ぐための接点としての役割も期待されます。

    図2 実際にオンラインツアーに参加した感想

    図2 実際にオンラインツアーに参加した感想
    出所:コロナ禍におけるこれからの日本人の海外旅行意識調査(2021年2月実施)


    図3 オンラインツアーに参加した後の、現地への旅行意向

    図3 オンラインツアーに参加した後の、現地への旅行意向
    出所:コロナ禍におけるこれからの日本人の海外旅行意識調査(2021年2月実施)


3.国内オンラインツアーの参加経験から考える、オンラインツアーを通した地域との交流

旅行者と現地の人を繋ぐための接点として、どのようなオンラインツアーのあり方が考えられるでしょうか。筆者が実際に体験し、深く考えさせられたツアーがあります。ショッピングセンターの管理・運営を主な事業とする株式会社ルミネが主催する「おうち旅ルミネ」です。筆者は、2021年3月末に開催された「おうち旅ルミネ meets 最上」に参加しました。山形県の最上地域に属する大蔵村は、現在は東京に住む筆者の祖母の故郷です。幼い頃から帰省などで訪れ、筆者自身にとっても馴染み深い場所でした。なかなか帰省ができない今、祖母に故郷を懐かしんでもらえたらと思い、祖母を含めた家族・親戚と参加しました。実際に参加した経験を踏まえ、オンラインツアーや交流のあり方を考えます。

  1. 「おうち旅ルミネ meets 最上地域」に参加
  2. ・「旅ルミネ」のコンセプト
    ルミネは “産地支援”、“地域共生”、“復興支援”をテーマに日本のものづくりの素晴らしさを伝える文化発信プロジェクトとして、2013年6月に「ココルミネプロジェクト」を立ち上げています。2021年2月に「旅ルミネプロジェクト」へリブランディングを行いました。【旅を通じて、日本中の人と人をつなげ、あたらしい発見や価値観に出会えるコミュニティーを生み出す】ことを目的としています。「旅ルミネ」プロジェクトの取り組みのひとつに「おうち旅ルミネ」があり、これまでに新潟県の佐渡島、群馬県の中之条町で実施しています。第3弾が山形県の最上地域でした。

    ・「おうち旅ルミネ meets最上」の概要
    山形県の最上地域は、1000m 級の山々や澄んだ川に恵まれる日本有数の豪雪地帯です。オンラインツアーでは【じっくり味わう3時間プラン(限定50名)】と【気軽によくばる2時間プラン(限定100名)】があり、筆者は2時間プランに参加しました(申し込み時点で3時間プランは売り切れ)。2時間プランのプログラム内容は下記の通りです(表2、図4)。Zoomを用いて、最上地域に暮らす人とオンラインで繋がり、質問や感想などは随時チャットに書き込めるようになっていました。事前に届く「旅じたくボックス」を一緒に開けながら進行され、参加者もカメラをオンにしているため、100名を超える参加者の顔を常に見ることができました。

    表2 おうち旅ルミネ【気軽によくばる2時間プラン】プログラムの内容

    表2 おうち旅ルミネ【気軽によくばる2時間プラン】プログラムの内容


    図4 おうち旅ルミネmeets 最上

    図4 おうち旅ルミネmeets 最上(画像提供:株式会社ルミネ)


  3. ルミネのツアーからみえてきた、オンライン上での地域との交流とは
  4. 実際に参加して得られた気付きは、以下の3点です。

  • 「オンラインなのに”人”と近い?」… 人を通して地域の新たな魅力を発見
  • 「共感と共有」… 同じ時間を共にすることが”交流”になる
  • 「”体験”で味わう旅行気分」…旅行気分を味わえるのは”観光地を巡ること”だけではない

「オンラインなのに”人”と近い?」… 人を通して地域の新たな魅力を発見
ツアーでは郷土料理である納豆汁を、現地の女性の方とその叔母さんに教えてもらいながら一緒に作りました。現地の方々の掛け合いは、山形の方言も交じり、飾らない姿や温かな雰囲気が印象的でした。リアルなツアーで少し離れたところから直接話を聞くよりも、オンライン越しの方が親近感がわき、近くにいるような感覚を味わいました。最上地域産の材料についても紹介され、普段の帰省だけでは知ることが出来なかった一面を、現地の人を通して知ることができました。その地域の人がもつ温かみを感じること、地域独自の生活文化に触れることは、地域の魅力になると改めて感じました。

画像提供:株式会社ルミネ

(画像提供:株式会社ルミネ)


「共感と共有」… 同じ時間を共にすることが”交流”になる
参加者はカメラをオンにしているため、常にどのようにいるのか、お互いに確認することができました。同じ時間に同じ材料から作った料理を一緒に食べたり、温泉体験後に肘折温泉特製の手ぬぐいを頭に巻いて乾杯したり、という時間を共有できました。「同じ釜の飯を食う」ではありませんが、リアルな交流に近しい体験でした。常にZoomでお互いの状況を確認できることで、インタラクティブなやり取りがなくても、同じ時間を過ごすことは交流になると感じました。

画像提供:株式会社ルミネ

(画像提供:株式会社ルミネ)


「”体験”で味わう旅行気分」…旅行気分を味わえるのは”観光地を巡ること”だけではない
気軽によくばる2時間プランには、最上地域の景色を楽しむ時間はあまりなく、納豆汁や箸留めを作る、温泉に入浴するなど、「体験」が中心の内容でした。現地ガイドが観光地を巡って解説してくれるオンラインツアーは、旅行気分を味わうことが出来る貴重な機会です。一方で、「現地の人・一緒に参加している人と同じ体験を通して現地のことを知り、交流する」ことでも十分に旅行気分を味わえ、オンラインツアーの新しい形のひとつだと感じました。

画像提供:株式会社ルミネ

(画像提供:株式会社ルミネ)


4.旅行再開を見据えたオンラインツアーによる、新しい地域との交流のあり方とは

オンラインツアーは、コロナ禍で旅行に行けない間の代替手段として登場し、旅行好きな層を中心に広まりました。さまざまな事業者が主催者となり、工夫を凝らしたオンラインツアーを提供しています。オンラインツアーは今のところ、リアルな旅行との競合関係にはなっておらず、リアルな旅行の後押しになっている一面がみられます。
現在、すべての顧客接点はオンライン起点で、リアル(オフライン)はその中に包含される、という“OMO(Online Merges with Offline、オンラインがオフラインを融合する)”の考え方が広がっています。オンラインツアーは今後、「旅行の代替」といった一面と、「旅行を後押し」する両面の役割が求められると考えます。日常生活のあり方が180度変わった今、交流のあり方も改めて考える機会です。現地に赴き、現地の人と交流することだけが、交流のあり方ではありません。旅の前からオンラインを通して現地の人と繋がり、旅の後もオンラインを通して繋がり続けることが、オンラインツアーがもたらす、新たな地域との交流のあり方なのではないでしょうか。

出所:旅ルミネホームページ:http://www.lumine.ne.jp/tabilumine/