ワクチン接種の普及で加速するアフターコロナのリアルMICE再開の動き

ワクチン接種が進んだ米国ではリアル消費が進んでいます。ハイブリットが主になるのではと言われていたMICEにもリアル再開に向けた動きが活発になり、ついにラスベガスでCESのリアル開催が発表されました。アフターコロナに向けたMICEのビジネス環境をどのように想定しているのか考察します。

小島 規美江

小島 規美江 主席研究員 兼 MICE戦略室長

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目次

昨年オンライン上で「開催すること」を優先したMICE業界ですが、オンラインやハイブリッドにも課題が出てきたことによって、国内外共にリアルMICEの再開を熱望する声が聞かれます。そんな中、ワクチン接種が進むにつれて、欧米で本格的な再開に向けたさまざまな動きが始まっています。日本のMICE業界もこれらの動きを注視しながら準備を進める必要があります。

Ⅰ. ワクチン接種の広がりと世界のリアルMICE再開の動き

  1. まずは過去1年を簡単に振り返ります。
  2. 2020年2月頃から、大規模MICEの中止が次々と発表され、日本で最初の緊急事態宣言が発出された4月頃には、国内外共に全てのMICEが開催できなくなりました。日本では、夏ごろから少しずつ、オンラインMICEが開催できるようになり、秋には展示会も5000名の人数制限を条件に再開しました。一方、感染者数が桁違いに多い欧米ではロックダウンが続き、本格的なオンライン開催は夏以降だったといえるのではないでしょうか。その間に多くのMICE産業で働いていた人たちが職を失ったようです。

  3. ようやくポジティブに変わった世界のMICE業界
  4. MICEの国際的な業界団体は、この状況に危機感を感じ、会長名の声明を発表したり、失職した人たちをサポートする活動を行ったりするなどMICE産業を続けていくための模索が続いていました。その一つとして、定期的に行っていたのが、会員に対するアンケート調査です。先の見通しがなかなかつかないなか、2020年秋までの調査では、決して前向きな回答は多くありませんでした。しかし、年末からアメリカでワクチンの接種が急速に進んだことによって、これらのアンケート結果にもようやく明るい兆しが見えてきました。

    PCMA(Professional Convention Management Association)が行ったビジネスイベントの参加者に対するアンケート調査(2020年年末実施、2021年1月中旬発表)において、参加者の54%が、「集団免疫が達成される前であっても、2021年に国内又はグローバルなビジネスイベントに参加する可能性が高い」を選択しています。これは、昨年10月の調査に比較すると38ポイントの急上昇です。
    MPI(Meeting Professionals International)が発行している 『Meetings Outlook 2021 Spring』(2021年5月発表)に掲載されている調査結果でも、これまでにないポジティブな回答状況が見受けられます。今後1年間のビジネスについて、ミーティングプランナーの81%が「良好」なビジネス状況を予測し、否定的な見方をしている人は12%まで減ってきています。

    出典:MPI

    出典:MPI

    「ビジネスがパンデミック前に戻るのはいつか?」の質問に対する、ミーティングプランナーの回答はQ2:第2四半期が24%、Q3:第3四半期が28%、Q4:第4四半期が26%となり、合計78%が今年度内のいずれかを選んでいます。

    出典:MPI

    出典:MPI

  5. MICE参加者にワクチンの接種を義務付けるか
  6. この『MPI Meetings Outlook 2021』に、興味深い記事が掲載されています。航空業界ではワクチン接種を搭乗者の条件にするかが議論されていますが、 MICE業界においても議論が始まりつつあります。ワクチンの接種をMICE参加者に義務付ける予定かどうかについて、アンケートを実施したところ、「YES」はわずか12%、「NO」が45%、「分からない」が43%でした。記事にはワクチン接種を参加者に義務付けるイベントが登場する可能性に触れている一方で、「ワクチン接種は個人の選択であり、義務付けることはできない。」という主催者のコメントも掲載されています。また「ワクチンに比べてハードルが低いと考えられている陰性証明のための検査の提出が現実的である。」とも書かれています。

  7. 参加者の健康情報の取り扱い
  8. Incentive Research Foundationが、『HEALTH INFORMATION & ATTENDEE PRIVACY』というドキュメントを出しました。この中には、通常の参加登録時に入力する個人情報以外に、感染のリスクを減らすために収集する参加者の健康情報(事前情報としてワクチン接種の有無や渡航歴、会期中の検温の結果等)の取り扱いについて書かれています。健康状態は最もパーソナルな情報であり、これまでMICEが取り扱ってきた個人情報とは異なるレベルの取り扱いが必要なのではないでしょうか。

  9. CESがリアル開催を発表!
  10. MICE業界における直近の最も明るい話題は、CES(以前のConsumer Electronics Showで、世界最大の家電と電子機器の展示会)が「2022年1月にラスベガスでリアル開催をする」と発表したことでしょう。すでにAmazon、AMD、AT&T、Dell、Google、Hyundai、IBM、Intel、Lenovo、LG、Panasonic、Qualcomm、Samsung、SONYなどの主要なテクノロジー企業を含む1,000社が出展を決定しているそうです。実際のイベントはハイブリッドとなり、技術会議はオンラインでも視聴できるようになるようです。
    なお、日本でもCEATEC(CESと同様に家電と電子機器を中心とする製品の展示会)が10月に幕張メッセにおいて、リアルとオンラインのハイブリッドにて開催することを発表しています。

  11. 今現在の海外都市の動きは
  12. Destinationとして最も活発なのは、オーストラリアです。ニュージーランドとの航空機による往来がすでに始まっているオーストラリアは、MICEの世界においても「いつでもリアル開催ができる」ことをアピールしています。ICC Sydney(シドニーのコンベンションセンター)のキャッチコピーは ‘READY FOR YOUR EVENT’。メルマガでは、安全にイベントを開催するための運営ガイドラインをはじめ、MICEの開催意義が問われるこのタイミングにこそ必要なレガシープログラムの提案、新たなメニューコレクションの3つのトピックが掲載されています。
    ヨーロッパでは、ロンドンコンベンションビューローが、新たに3つのプロモーション資料をリリースしました。『London Event Planner Guide 2021』:安心・安全に関する情報、新しい会場の紹介、サステイナビリティ、チームビルディングやインセンティブグループ向けのプログラム、産業連携に関する情報、パートナーリストまで、ミーティングプランナーが知りたい情報が全て網羅されています。
    『London Hybrid Events』: ハイブリッドイベントが開催できる18会場が設営された写真と共に紹介されています。『Open Air Spaces for Meetings & Incentives』:ホテルの屋外スペースやオープンエアの会場がキャパシティと共に紹介されています。

Ⅱ. コロナ後の日本のMICEを考える

コロナによる感染症が収束した後の日本では、どんなMICEが開催されるのでしょうか。

  1. “知的財産”というオンラインMICEにおける更なる課題
  2. 日本でもオンラインMICEの開催は定着してきました。前回は時差問題について書きましたが、リアルで参加する人に対する内容とオンラインで話せる内容は、同じではないという新たな課題も出てきました。
    一つの問題は知的財産に関する取扱いです。オンラインにおいては、知的財産が侵害される恐れがある情報は話せないというスピーカーが多くいます。MICEが最新のテクノロジーや情報を共有することを目的としている場合、話す内容に制限が生まれてしまうことはMICE自体の価値を下げかねません。主催者は、スピーカーの知財を守る方法を確立しなければならないという大きな課題を突き付けられているのではないでしょうか。

  3. 量より質の時代は来るか
  4. コロナ禍以前までのMICEは、参加者数が多い方が評価されてきました。主催者は常に参加者を増やすためにあらゆる手立てを打ち、前回よりも多くの参加者が登録すると「過去最高の参加者を迎えて成功~」として称えられていました。しかし、コロナにより入場制限が必要になり、これまでとは異なる新たな価値観で開催することが求められています。
    この点について、MICEの中で最も分かりやすいのが展示会でしょう。これまでは一人でも多くの来場者が来る展示会が「より良い展示会」として評価されていましたが、コロナの影響により、日本の多くの展示会は1日5,000人という人数制限を守って開催しています。日本の展示会業界は、クラスターの発生もなく開催し続けられているという点において評価されるべきでしょう。一方で、展示会の一番重要な目的である出展者のビジネスの成果が気になるところです。ある主催者から聞いた話ですが、「来場者が減ってもビジネスの結果が変わらなかった、と言っている出展者が多い。」というのです。これはまだ推察段階ですが、コロナ禍にあっても会場に足を運ぶ来場者は明確な目的を持っており、商談に対する意欲が高いのではないでしょうか。

  5. 適切なMICEを開催することの意味とは
  6. 今後のMICEにおいては、「適切な」人数の会場環境を作ることが求められるに違いありません。そして、「幅広く誰でも参加できるMICE」と「クローズドのメンバーによる知財の侵害を気にせずとも話せるようなコアなミーティング」の両方が必要であり、主催者はこの2つあるいはそれ以上の多様化した開催スタイルを取り入れながら、更に安全・安心を担保できる運営を実現しなければならないと考えます。これまで以上に開催の「目的」を明確化し、その目的を実現する「適切な手段」を講じる必要があるでしょう。

  7. コロナ後、日本に誘致するべきMICEは何か
  8. IRの誘致が予定されていることもあり、MICEに再び注目が集まっています。これまでも誘致に積極的だった大都市はもちろんのこと、新たにMICE振興を始めようという自治体や地域も多くあります。開催結果が把握しやすく、開催の結果、得られるブランド力も高い国際会議や学術会議から誘致を始める自治体は多いですが、実は国際会議や学術会議は決定までに時間がかかること、開催地選定にあたって実績の無い所には決まりにくいという事情から、新たに始める自治体にとっては誘致が難しいのです。
    一方、インセンティブは、旅行の延長であること、さまざまなサイズのグループがいることなどから、実績を積むためには有効であると考えます。何より、インセンティブの主催者は、競合する企業との差別化が必要であり、常に新しい開催地を求めているため、実績の無い都市であっても誘致できる可能性があります。また、決定までの期間も、国際会議や学術会議に比べると短い期間で決まります。新たにMICEを始めようという自治体にとって、インセンティブこそ誘致に適しているといえるのではないでしょうか。
    海外からの渡航が認められた暁には、積極的にインセンティブグループを誘致し、これまでインバウンドがあまり訪れていない地方で、しかも感染リスクの低いオープンエアなスペースを使ったプログラムを展開すれば、インセンティブが最も重視する「これまでにない特別な体験」を提供できる可能性もあるのではないでしょうか。

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MICEというビジネスモデルがコロナをきっかけに大きな過渡期となっているのは間違いないでしょう。今後、自治体、会場、MICEに関わる全ての事業者は、開催環境とコンテンツの提供において、どれだけ主催者や参加者のニーズに応えられるかが試されているのかもしれません。