【特別寄稿】“Tourism × non Tourism” 観光は外からどうみえるのか

6月10日から訪日外国人旅行者の受け入れが始まり、旅行の本格的再開へ大きく動き出しました。観光産業はコロナ禍で需要を2年以上失う大きなダメージを被りましたが、足元の危機を乗り越える以外に、構造的な課題解決や内省面の成長に向け、講じるべき点は多いと考えます。本稿は日本の観光行政をけん引し、他分野でも広く活躍する後藤靖子氏が、客観的視座で観光の今とこれからを紐解きます。

後藤 靖子

後藤 靖子

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目次

1.はじめに 私の問題意識 観光は外からどうみえているのか

私は、観光分野は、地域の総合力で、「観光という切り口を通じて地域の力を束ね発揮し、地域を豊かにすることができる」分野だと信じています。それは、30年近く前に、由布院でまちづくりの神様に出会い学んだことで、その後の私の基礎を作ってくれました。
 その当時は、観光の概念は狭く、いわゆる、旅行業や宿泊、お土産屋さんなどの施設が観光関連産業ととらえられ、それ以外の農林水産業やものづくり、文化などは、観光とは関係ない分野だというとらえられ方が一般的でしたので、目からうろこの発想でした。
 それから、四半世紀がすぎ、観光が経済にしめる存在感は確実に上がってきています。インバウンドなどの官民の取り組みも飛躍的に進みました。
 では、「観光分野は地域を育ててくれるパワーのある分野だから、みんなで取り組もう」という認識がメジャーになったでしょうか?私は、このことがずっと気になっていました。
 というのも、私自身を含め現場の取り組みを見てみると、苦労している場面も多く、もちろん、どんな分野でも利害の対立はあるし、それを乗り越えていかねばならないのは当然ですが、「もう少し観光に対する理解や共感があれば、やる気のある人たちの能力がよりのびのびと発揮できるのではないか」と思う場面が多かったからです。
 そこで、本稿を、観光以外の分野から、観光がどうみえているのかを見る機会にしてみたいと考えています。多くの人が観光分野を応援してくれるようになってほしいし、豊かな社会の実現に観光が貢献できる分野になってほしい、そうなるための道を考えてみたいと思っています。

2.「観光は多くの産業を活性化する力がある」という認識・共感は広まったか

  1. 答えはYesでしょう。
  2. 例えば、農業。地域の旅館やレストランが、その地域の産物を工夫して料理をだす動きは全国で広がってきています。ツーリズムの発展が農業の発展に貢献する実績が積みあがっています。多くの人が、地域の多様な産業、暮らしや風土等と観光をつなげる努力をし、それが、旅する人たちの魅力につなげてきていることは間違いありません。その旅する人たちの評価が、また、地域の人の経済的精神的支えになることにつながっていると考えます。
     さらに、観光庁が、統計に力を入れて取り組んだことは大きな意味があります。地域全体に経済波及効果がある、ということが、単に定性的にいうだけでなく具体的数字をもって経済波及効果を説明できることは、地域への説得力をもった説明にとって大きな力です。とりわけ、地域内での経済循環(地域の中の産物にどれほど消費にまわっているか)は、大切なファクターです。

  3. しかし個々の場面では、まだまだコンフリクトがあります。
  4. 個々の主体のベネフィットと、地域全体の魅力向上とにギャップがある、ということだと思いますし、そもそも、地域の魅力向上とは何なのかで認識が異なるケースがあり、それが、具体的取り組みを進める際の障害になることは地域の場面ではよく見られることです。例えば、身近な例で、以下のようなことがあるのではないでしょうか?

    ・地域の素晴らしい風景の中に、大きな構造物や看板ができ、それが眺望を完全にふさぐ結果に。多くの関係者は努力をするも、景観法などでも対応は難しく、その時言われた言葉は「景観で飯が食えるのか」でした。
     ・人気のでた観光地のメインの通りが、一斉に全国一律のチェーン店に変わってしまい、もともと持っていた町の穏やかな雰囲気や特性がなくなってしまった

    地域を魅力的にして観光プロモートしたい、とする立場からすると、景観を大切にすることは当たり前だ、となります。が、それを逆の視点からみるとどうでしょうか。「収入が上がることをなぜ責められないといけないのか。自分たちも生きていかないといけない」となります。それを一方的に責めることはできるでしょうか。
     双方にとってはそれぞれが真実で、何が正解なのかというのは立場によって異なるのが現実です。コンフリクトは必ず起こるのです。その中にあって、観光の視点での取り組みが、きっと地域の発展と幸せに貢献できる、と証明できるようになりたいです。そのためには、観光側もより優れた提案ができるようにならないといけません。産官学で、観光の取り組み事例が多く紹介されていますが、ベネフィットが一見相反するように見える際の、「乗り越える知恵の蓄積や説得力」をもつための事例の積み重ねにも期待したいです。

  5. 観光の存在感を高めるために。リスペクト、共感を。
  6. 加えて、観光業界の姿勢(ふるまい)も、大切な要素ではないかと思っています。地域の経済、あるいは、地域社会の課題解決に一緒に取り組む姿勢を、観光に携わる個々の人たちがとっていたかどうかで、地域での観光への共感があるかないかが決まっているのではないでしょうか。かつての観光のように、地域からかけ離れた観光業であると、観光分野へのリスペクトを育てるのは難しいはずです。地域の多様な産業をつなげ、人が訪れる観光を通じてそれぞれの力を発揮できるよう、率先して行動する、その姿勢を地域の人は見ていると感じます。
     山形県の山口敦史氏(株式会社DMC天童温泉代表取締役)は以下のように言われています。私は、この言葉に尽きていると思いますので、そのまま引用させていただきます。

    non-tourism

    (令和4年2月8日。観光庁「アフターコロナ時代における地域活性化と観光産業活性化に関する検討会」説明資料より)

3.観光産業は他産業との対比でどう見えるのか

  1. 少し視点を変えて、産業として、観光は、どういう相対的位置づけなのかをみてみます。
  2. 経済効果などのデータは別にありますので、ここでは、課題への対応、というポイントで、就職人気、Diversity(女性活躍)、SDG‘sについて、ランキングから見てみます。
    (1)人気;
     「2023年卒大学生対象就職企業人気ランキング」(日経新聞2022年4月7日掲載)。
    文系総合(男女)では50位中、19位JTBグループ、22位オリエンタルランド。(その他ではJR東日本、東海、JAL)。理系では登場しない。なお、文系女子ではオリエンタルランド12位、JTBは18位と根強い人気。
    (2)Diversity;女性活躍
     「女性が活躍する会社BEST100」(「日経WOMAN」「日経ウーマノミクス・プロジェクト」実施の「企業の女性活用度調査」(※注1))。
    トップは資生堂。トップ100社中観光関連ではJTBが13位(ANA24位、JAL31位)。観光は、女性が担っている部分が多い印象の産業ですが、物足りない結果ではないでしょうか。
    (3)SDG‘s;
     日経新聞「SDG‘s経営調査」(2021年11月17日日経新聞(※注2))
    コロナを機に持続可能な開発目標、課題解決の取り組みを一段と進めると回答した企業は全体の8割。前回の6割より増加。ランキングトップはアサヒグループホールディングス、その他にも食品や製造業、金融、サービス業など多様な産業が並んでいます。残念ながら、観光関連はありませんでした(交通関係では数社)。
     ※注1(上場企業及び従業員100人以上未上場企業など対象。回答535社 
        「働きがい」と「働きやすさ」という2つの観点から調査。
      注2(上場企業及び従業員100人以上の非上場企業を対象。回答846社。
        「SDG’s戦略・経済価値」「社会価値」「環境価値」「ガバナンス」の4分野の質問で構成される)
      注3 このほかに企業の動きをみるのに「日経スマートワーク大賞」(日経新聞2022年2月17日)など多様な指標があります。

  3. 私は、こういった企業ランキングが絶対だとは思っているわけではありません。
  4. 対象が上場企業など中心で、規模が比較的小さな観光関連産業はランキングに表れにくいですし、さまざまな努力をされていることは承知しているつもりです。それでも、こういった指標をみたほうが良いと思うのは、他産業との対比の中で、自分たちがどういった位置づけにあるのかを定点観測することができるのではないか、と考えるからです。学ぶべき点はありますし、観光分野の方向性を議論するさいの道しるべになるのではないか、というのが私の問題意識です。
     社会、企業をとりまく環境は大きく変化し、意識も変わっています。コロナを経て、多くの企業が、生き残りをかけそして成長するために、財務体質を強化し、生産性向上に取り組み、各種指標(利益率、資本効率、カーボンニュートラル達成率など)も参考にしてポートフォリオを見直し、構造改革を進めています。さらに、国連のSDG‘sに代表されるように気候変動や社会的課題にむきあわない企業や産業は評価されませんし、投資家のみならず消費者からも社会からも見放されてしまいかねません。大切な担い手である人材に関しても、各社がどのように取り組んでいるのかを開示することを求める方向にあり、社会全体で人材への投資に重点がおかれ、働き方改革にも取り組んでいます。その中で、観光産業はどうでしょうか? コロナでみえたように観光はボルネラビリテイ(vulnerability 脆弱性)の高い産業ですが、その中で企業、産業は成長していかないといけないのです。

  5. 私は、観光分野での取り組みはもっとアピールしてほしい、と思っています。
  6. 脱プラスチックの取り組み、残った食材を廃棄せず自家農園で活用、デジタル化や、あるいは最新の厨房施設を活用して深夜早朝の作業をなくす働き方改革への取り組み、コミュニティでの再生エネルギー稼働の取り組み、などなど、多くの主体が様々な取り組みを始めています。もっともっと発信してほしい。あわせて、業界の性格にそった立ち位置のわかる指標を考案いただいて、観光産業全体で示していただいてもよいのではないでしょうか。そのことが、社会での存在感の向上につながりますし、他分野からの応援も得やすくなり、業界内での取り組みの背中を押すことにつながるのではないでしょうか。
     企業の大小にかかわらず、問題意識をもち、考え、社会に発信し問題提起できる存在であってほしい。それが、企業や産業の価値を高めることにつながると思います。観光という分野が、働く人をはじめとするステークホルダーの期待にこたえ、人々の幸せに貢献し、より敬意と共感を得ることができる産業であることを心から願っています。