インバウンド再開で期待が高まるリアルMICEの復活に、業界団体が喫緊の課題を提起

今年6月から外国人観光客の受け入れが再開しました。日本を代表するコンベンションと展示会の各業界団体の年次総会では、それぞれ情報共有の場を設け、インバウンド再開を機に、MICE産業が抱える喫緊の課題の提示と、速やかなアクションの必要性を会員企業に呼びかけました。本格的なリアルMICE復活に向け業界団体が発信したポイントをレポートします。

小島 規美江

小島 規美江 主席研究員 兼 MICE戦略室長

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目次

1.日本の産業競争力に影響!MICE系業界団体が喫緊の課題を共有

(一社)日本展示会協会及び(一社)日本コンベンション協会は、年次総会終了後、情報共有の場を設定し、前者は世界の展示会の最新の再開状況を発表し、後者はコンベンション業界のダイバーシティをテーマとしたパネルディスカッションを行いました。訪日外国人観光客の受け入れが再開しつつあるものの、コロナ禍や国際情勢による経済不安がある中でのこういった情報共有の場は、各国の産業そのものの最新の動きを知ることができると同時に、リアルMICEの復活をリードする展示会主催者やコンベンション関連事業者にとって喫緊の課題かつ早急な対応の重要性を認識する貴重な機会でした。

2.日本の先を行く世界の展示会の再開状況

(一社)日本展示会協会の総会では、理事で国際推進化委員長であり、インフォーマ マーケッツ ジャパンの代表取締役クリストファー・イブ氏から世界の展示会の再開状況の報告がありました。インフォーマ マーケッツは世界40カ国で500を超えるB2Bのイベントや展示会を開催しているグローバルな展示会主催会社であり、現在、世界の展示会の開催状況を最も把握している企業の1つといえます。イブ氏からは、UFI(国際見本市連盟)が発表しているデータから5月19日時点の各国の展示会の再開状況が発表されました。
 

  1. 市場別の最新開催状況
  2. ここでは、6月29日付けでUFIから発表されている最新の再開状況を報告します。なお、UFIが発表している再開状況を示す図表の見方は以下のとおりです。
     
    ・緑  :原則、無条件で開催、または一部制限付き(衛生対策、ディスタンスなどの確保のため)
    ・黄色 :一部開催(開催規模に制限がある)または開催予定
    ・赤  :閉鎖(ロックダウン中)
     
    (1)アジア/パシフィック地域は開催をし続けているものの「一部開催」が残る
     アジアパシフィック地域は、当初から比較的感染者数が少なかったこともあり、香港と一部の国以外で早い段階から展示会を開催できていました。しかし、無条件で開催している国は少なく、未だ国の入国制限の影響を受け、「一部開催・開催予定」の黄色の国が残ります。それぞれの産業分野を牽引するようなグローバルな展示会が数多く行われているシンガポールが4月から緑の状況になり、海外からの出展や来場が本格化していると考えられ、他の国も追随し、徐々に無条件開催ができるようになっていると推測できます。
     日本は2020年秋以降、1日当たりの来場者数を制限し、あらゆるコロナ対策を行った上で安全・安心な展示会を実現しています。しかし、入国制限が厳格であるため、出展は日本企業や海外企業の日本法人のみであり、来場は国内からだけでした。今後、入国制限の緩和によって日本の展示会への海外出展者・来場者が戻ることが期待されます(図表1)。

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    (図表1)アジア/パシフィックの開催状況

     
    (2)ヨーロッパではほぼ全ての国で無条件開催
     ヨーロッパは2月~4月までの間にほぼ全ての国で、コロナ禍前と同じように展示会を開催できるようになっています。地続きの国が多いヨーロッパにおいて、展示会の再開とは国内外を問わず参加を受け入れることを意味します。一国のみで入国を規制するのは事実上難しい上に、流通やサプライチェーンにおいても国外企業との取引が日常的に行われていることから、展示会においても国内外のあらゆる参加を認めていると思われます(図表2)。

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    (図表2)ヨーロッパ地域の開催状況

     
    (3)アメリカ大陸は4月からほぼ全ての国で無条件開催
     アメリカも一部の国以外は4月から展示会を本格的に再開しています。ヨーロッパと同様に国外からの出展・来場を受け入れていると考えられます(図表3)。

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    (図表3)アメリカ大陸各国の開催状況


  3. 世界の展示会に遅れないようにするためには?
  4.  このように海外の主な国々ではすでにコロナ禍前と同じ状況で国際的な展示会を再開し、海外からの出展者・来場者を迎えて活発な商談を行っています。インフォーマ マーケッツ ジャパンのイブ社長は「早く日本も海外出展者の入国や日本人の出国を元に戻し、コロナ以前のように国際的なビジネスを再開しないと、他国のビジネスの回復に立ち遅れてしまうと警鐘を鳴らしています。

    日本の民間企業がそれぞれの産業界で競争力を保つためには、海外との往来を本格的に再開し他国の状況を知ることと、コロナ禍でFace to Faceのコミュニケーションが取れなかった間に何が変わっているのかを一早く把握し、対策を打つ必要があるのではないでしょうか。日本展示会協会は今後もグローバルな情報を会員企業に提供し、会員企業や出展者はその情報を有効に活用していくことが期待されます。
     
    出典:Reopening of the Exhibition Industry Exhibitions & events reopening by market, following the COVID-19 pandemic
    https://www.ufi.org/wp-content/uploads/2022/06/Reopening_of_exhibitions_global_timeline.pdf

3.女性の活躍は進んでいる? コンベンション業界におけるジェンダー平等とは?

6月14日、(一社)日本コンベンション協会(JCMA)の総会において「MICE業界におけるダイバーシティ~JCMAの現状とダイバーシティ推進に向けて~」をテーマに女性委員会企画のイベントが行われました。その冒頭で、昨年度女性委員会が「SDGs No.5. ジェンダー平等を実現しよう」および「ダイバーシティ推進」を観点に実施した、各会員企業・団体の現状、今後の方針、またJCMAへの参画状況等の把握を目的としたアンケートの結果が発表されました。以下で、一部を紹介します。
 
<アンケート概要>
 代表者:  34人  
 社員・職員:157人
 ※業種は企画運営、コンベンションビューロー、会場、映像・音響機器、ディスプレイ、印刷等
 ※代表者(経営層)と社員・職員、それぞれにアンケートを実施
 ※社員・職員の59%が女性

     

  1. 「代表者(経営層)」に聞いた管理職・役員の男女比
  2. 女性管理職が50%以上の会社は合計でわずか18%、女性の役員が一人もいない会社が62%と管理職や役員として重要な立場にいる女性の数は少ない(図表4、5)。

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    (図表4)管理職の男女比(7つの選択肢からの単数回答)



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    (図表5)役員の男女比(7種類の割合からの選択)


  3. 「代表者(経営者層)」と「社員・職員」の間にある女性活躍に関する認識の違い
  4. 「代表者(経営者層)」の9割が「女性が活躍」と感じている一方、「社員・職員」で「女性が活躍」と答えたのは78%と代表者より13ポイントの差がある(図表6)。

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    (図表6)自分の会社は女性が活躍していると思うか(経営者、社員・職員別)


  5. 業績評価における男女平等についての社員・職員の感想
  6. 社員・職員の約半数が平等だと感じている一方、30%は分からないと回答していました(図表7)。

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    (図表7)自分の会社は業績評価において、男女平等だと思うか(社員・職員のみ)


  7. アンケート調査結果に見えるコンベンション業界の課題
  8. コンベンションの実務は細かい気遣いが必要と考えられており、女性に適した業務であると一般的に言われています。確かに、PCO(Professional Congress Organizer)を始めとする多くのコンベンション関連の企業や団体においては、実務担当者として多くの女性が活躍しています。代表者、社員・職員共に大多数は社内で「女性が活躍している」と感じているのに、女性の管理職の割合は高くなく、女性の役員は非常に少ないことが分かりました。
     更に業績において男女が平等に評価されているかどうかについては、半数近くの「社員・職員」が平等とは感じていないもしくは平等かどうかについて疑問を持っているという結果も注目すべきではないでしょうか。
     また調査の目的の一つであった業界団体への参画については「代表者(経営層)」の73%はJCMAのイベントに参加していると答えていますが、「社員・職員」の66%はJCMAの行事に参加したことがないと答えており、業界団体の活動が代表者に限られている実態が見えました。
     

  9. パネルディスカッションでの情報共有
  10. パネルディスカッションには、会員の企業・団体から、(株)PCO の西田美樹社長、(株)映像センターの尾崎求社長、サクラインターナショナル(株)のJustin August取締役、(一財)神戸観光局 神戸コンベンションビューロー 勝利哲也 課長補佐が登壇し各社・団体の取組が共有され、また性別や国籍による違いに関する意見が述べられました。その中で印象的だったのは、映像センターの取組に関するプレゼンテーションです。
     映像センターはかつて男性中心の職場であった映像・音響機器の会社ですが、人材確保の課題から女性の登用が進み、現在は社員全体の21.9%が女性です。同社では女性が長く活躍できる職場を目指してプロジェクトチームを立ち上げ、さまざまな立場の社員へのヒアリングや、座談会、意見交換会を実施しています。こういった取組が社員同士の理解を深め、働き続けやすい職場につながっているのではないかと考えます。

    ファシリテーターの女性委員会の西川洋子委員長((株)コンベックス 取締役)からまとめとして「JCMAの活動にも、女性の参画が限定されている実態がアンケート結果に認められた。活躍している業界の女性に情報が届いていないのではないかと考えられるため、今後の活動に結びつけていきたい。」とコメントがありました。女性委員会は今後「ダイバーシティ推進」にテーマを拡大し、女性に限らずあらゆる多様性を尊重するコンベンション業界を目指して活動を進めていくと表明しています。

    世界経済フォーラム(WEF)が7月13日に発表した「世界男女格差報告書」の2022年版によると、日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中116位で、主要7カ国(G7)で最下位、経済部門における管理職の女性割合は130位と残念な結果でした。

    日本の現状とJCMAのアンケート調査結果の背景には、共通した日本の社会における固定的な価値観があるように感じます。一人でも多くの人が「自分事」として捉え、自らの価値観を見直すきっかけとなることを期待したい所です。
     
    出典:JCMAアンケート結果全文
    https://jp-cma.org/wp/wp-content/uploads/2022/04/d5c7aa3fd71f1de354df8a83f0ada11a.pdf

今回の2つのイベントにおいて評価されるべき点は両団体の会員が自ら登壇し、持っている知見や経験を他の会員に共有した事にあると思います。日本展示会協会は、グローバルなチャネルを使って最新の世界の展示会の開催状況を共有し、日本コンベンション協会はジェンダー平等を推進する意志表示として実態を共有すると同時に、パネルディスカッションでは性別や国籍、役職などの違いを超えた組織の成功事例を共有しました。
 2つのイベント通じて、現代のような不透明な時代にこそ、各社・団体がそれぞれの知見を共有し、業界全体で共に発展していくことが重要であることを実感しました。