国や自治体、コンベンションビューローが動かすポストコロナのMICE~最新MICE業界動向~

国際会議など、本来は海外からの参加者が期待できるMICEは、現在オンラインや国内参加者のみリアル参加のハイブリッド開催を余儀なくされています。国や自治体、コンベンションビューローは、インバウンド解禁後のグローバルなリアルMICEの再開に向けて、主催者への支援策を用意するなど、さまざまな活動を行っています。

小島 規美江

小島 規美江 主席研究員

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全国のコロナウイルスによる新規感染者数は9月の後半から減少し、10月7日以降は3桁が続いています。(10月13日時点) 一方で、ブレークスルー感染が確認され、第6波が心配されるなど、先々に向けては不透明な一面もあります。
 海外に目を向けてみると、すでに外国からの入国制限の緩和をスタートし、今後どのようなプロセスで制限が解除されるのかを明記した「ロードマップ」を発表している国もあります。
 日本がこれらの先行する国々とのMICE誘致競争において、国際競争力を失わないようにするためには、何をする必要があるでしょうか。国や自治体、コンベンションビューローも手をこまねいて見ているわけではありません。これまでにはあまり見られなかった施策や方向性を紹介すると共に、日本の国際MICEの今後の展開について考えます。

1.安心・安全を強くアピールする日本のMICE

現在、国や自治体がMICEの復活を後押しする施策や支援メニューの拡充を図っています。MICEの主催者や運営会社はこれらの施策や支援メニューの情報を収集し、利用できるサポートは可能な限り活用し、ポストコロナの新しいMICEの開催に備えたい所です。注目したい各組織の動きを以下にまとめました。

  1. 日本政府観光局 JNTO
  2. JNTOのニューヨークオフィスが2022年1月、PCMAの教育プログラムの一つとして欧米のミーティングプランナー向けに「日本でのMICE開催に関するWebinar」の開催を予定しています。東京オリンピック・パラリンピック後の日本に世界の注目が集まっているこのタイミングで、世界のミーティングプランナーに対して、日本がいかに安全にMICEを開催できているかなどの状況をアピールすることはとても有効なプロモーションではないでしょうか。

    次に日本国内における展示会の主催者や運営会社に対する支援策を紹介します。

  3. 経済産業省
  4. 展示会等のイベント産業高度化推進事業~中小企業等向け補助事業~
     中小企業等が主催する新しい生活様式に対応した展示会等のイベントにおいて、高度化に繋がる取組を行う事業の開催に要する費用の一部(リアル開催で最大250万円、リアル開催とオンラインの併用で最大400万円)が補助されます。事業の公式サイトには「地域の中小企業等による商談、マーケティングの場を確保するとともに、地域経済の活性化と展示会等のイベント産業全体の高度化に資することを目的とします。」と書かれています。このようなサポートは、コロナ禍によって以前とは異なる価値観での開催が期待される一方、出展規模が縮小傾向の展示会にとっては、必要な策への投資に踏み切るきっかけとなり大変有効な施策です。
     今年度はすでに申請が締切られていますが、来年度以降も事業が継続されることを期待します。来場者数が1万人単位のトレードショーが「展示会の高度化」をするためには、通常システム構築などに1年以上の期間が必要です。年度が替わってからの応募~審査~採択では年度内の展示会には間に合いません。是非、継続的に事業を実施し、来年度からは翌年度開催の展示会を対象とすることを検討いただきたいと思います。

    展示会は昨年のコロナ禍にあっても業界団体が独自のガイドラインを策定し、5,000名の上限を守って、クラスターを発生させることなく開催を継続してきました。これは海外にはない、日本のMICEの素晴らしい実績です。
     東京観光財団はこの点に着目して、新たに展示会の補助事業をスタートさせました。

  5. 東京観光財団
  6. 都内で開催される展示会の海外来場者に対し行う広告についての助成です。「展示会開催にあたり、安全・安心な開催のため、どんな配慮や取組をしているかをPRするもの」という条件がありますが、現状で広告を出すのであれば、「安全・安心な開催」については当然書かれるはずであり、全く問題ありません。
     広告の掲出先は、海外関連展示会ショーレポートや、業界紙等における紙面広告、海外関連展示会公式WEBサイト等における誘導広告、海外関連展示会公式サイト等におけるデジタル広告、都内展示会公式WEBサイトにおける「安全・安心な展示会」PRページの制作など幅広く、その掲載料や広告原稿のデザイン制作費用、多言語対応に必要な翻訳費用も対象となります。

    日本において展示会は継続的に開催されていますが、やはり出展を躊躇する出展者も多く、また景気が悪い業種であれば、出展を取りやめる企業もいます。展示会主催者は出展料売上が減ってしまうと、事業として成立させるため広告・宣伝にかける経費をセーブすることを検討します。しかし、広報や広告・宣伝の経費を減らしてしまうと、翌年や翌々年の展示会の規模を縮小させてしまう原因となる可能性があります。毎年出ている広告掲載をやめてしまえば、「今年は中止か?」と思われてしまい、出展企業は翌年の予算を計上しない、来場者やバイヤーも訪日を予定しないという悪循環にもなりかねません。継続して展示会を開催するなら、広告掲載を安易に辞めてしまうことは避けるべきです。
     今回の東京観光財団の事業の素晴らしい点は、来年度開催の展示会も補助対象としていることです。広告掲載が年度内であれば、展示会の会期自体は来年度でも良いことになっています。

2.MICE業界が注目する国際会議の日本開催が決定

2021年10月、大きな2つのMICE業界が主催する国際会議が日本で開催されることになりました。

  1. UIA Asia Pacific Round Table
  2.  東京観光財団が、UIA(Union of International Associations・国際団体連合)と共催して、アジア太平洋地域の会議である「UIA Associations Round Table Asia-Pacific」を、10月21日~22日に初開催します。UIAは、毎年国別、都市別の国際会議開催件数などの「UIA国際会議統計」を発表していることでも知られています。今回の会議は東京でハイブリッド形式により開催されます。

  3. ICCA(International Congress and Convention Association・国際会議協会)総会「長崎ハブ」
  4.  今年のICCAの総会は本会議をコロンビアのカルタヘナで開催しますが、ハブ会場が世界5都市に設けられ、長崎はその一つに決定しました。10月25日~27日に開業直前の出島メッセ長崎にて開催されます。プログラムを見ると、全世界共通のプログラムとハブ会場独自のプログラムを組み合わせ、その都市の時間に合わせて開催することになっています。今後、この方法は時差問題を回避する有効な開催方法の一つになるかもしれません。

3.活発な海外MICE業界の動向

一方で海外では誘致に向けたアライアンスの動きがあります。タイのコンベンションビューロー(TCEB)とインセンティブ・コンベンション協会(TICA)を中心に、台湾貿易センター(TAITRA)、ソウル観光公社(STO)、マレーシアコンベンションビューロー(MyCEB)の3団体がポストコロナを見据えたMICEの成長を目指してAsia Convention Allianceを設立し、9月に調印式をオンラインで行いました。
 設立にあたりTCEBが発表したプレスリリースには、「このアライアンスでは、メンバー間の相互利益、二国間パートナーシップの強化、共同プロジェクトを通じたビジネス開発やナレッジ交換の促進を求めています。最終的な目標は、地域のコンベンション市場を活性化する手段として、メンバー間のローテーションにより、より多くの地域コンベンションや、相手の国、州、都市、地域で開催される合同コンベンションを推進することです。そのために、各メンバーは他の組織にアライアンスへの参加を呼びかけます。」と書かれています。
 この動きが、日本のMICEにとって「脅威」なのか、今後協力関係を作り「連携」していけるのかはまだ分かりません。いずれにしても、このアライアンスの今後の活動に注視していく必要があるのではないでしょうか。

4.海外との誘致競争に重要なコンベンションビューローの活動

コロナ禍により、コンベンションビューローがその存在感を増しています。
 PCMAの調査によると、ミーティングプランナーの34%は、今後開催地を決定する際に「コンベンションビューローやDMOのサポートが重要」と答えています。企業ミーティングのプランナーにとって、これまで以上に開催地のコンベンションビューローの重要性が増しているのではないでしょうか?コロナにより移動が簡単にできず、下見に来ることができないプランナーは、リスクの高い開催地を選びにくい状況と言えます。コンベンションビューローの信頼性が高くその対応が的確であれば、下見に来られなくてもそこから得た情報を元に企画をたて、クライアントに提案できるのではないでしょうか。

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米旅行雑誌の「世界で最も魅力的な大都市ランキング」で東京、大阪、京都が3トップを独占というニュースも流れました。このように日本が東京オリンピック・パラリンピックの安心・安全な開催実績とその後の人気が高まっているタイミングでこそ、各都市を代表する組織としてコンベンションビューローが正しい情報を提供し、日本の安心・安全なMICEをアピールする時であると考えるできではないでしょうか。コンベンションビューローの皆様の更なる活躍が期待されます。

MICE参加者も一人の人間ですので、最後は自身の「行きたいか?行きたくないか?」の気持ちで参加を決めると考えられます。個人にとって魅力的なデスティネーションかどうかは、MICEの参加率に少なからず影響していると考えられるのです。まして、今後はオンライン参加でも良いという環境がスタンダードになりますので、リアルで開催地に来てもらうためには、あらゆる手段を講じて「必ず行きたい!」という気持ちになってもらう必要があります。開催地に人気があり、多くの参加者が見込めるとすれば、誘致における国際競争には有利です。MICEを経済発展の戦略としている国や都市ブランド戦略の一つとしている都市は、MICE開催がもたらすメリットを十分に理解しており、考え得る対策を打って誘致競争に臨んできます。そのような国や都市に対抗するために、今こそ、オールジャパンで日本の安心・安全をアピールし、選ばれる国・都市になるべきではないでしょうか。

※本コラムに関連した、コンベンションビューローの活動のヒントを知りたい方は、11/17開催予定の第5回JTB総研・旅行トレンドLIVE(オンライン)「今、見直されるコンベンションビューローの重要性~MICE誘致のトップランナーがポストコロナのMICEを語る~」にぜひご参加ください。