コロナ禍を経て今再考すべき、MICE開催の本来の意義

MICE活用による交流促進への期待は新型コロナ感染症禍でも下がることはないようです。本文ではMICE誘致における戦略策定の重要性、各地で事業者選定が進むIR推進の意味とMICEとの関連性、そしてコロナ禍で変化するMICEの価値観などを改めて見直し、MICE開催の本来の意義とは何か考えます。

小泉 靖

小泉 靖 主席研究員

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目次

コロナ禍で人に関わる交流の制限が長引く中、自治体の皆様からMICEを活用した交流促進についての相談を頂くことが増えています。本コラムでは、MICE誘致における戦略策定の重要性、各地で事業者選定が進むIR推進の意味とMICEとの関連性、そしてコロナ禍で変化するMICEの価値観などを改めて見直し、MICE開催の本来の意義とは何か考えます。

1.都市の総合力が問われるMICE誘致は、産業政策とマージした独自の戦略が重要

少子高齢化が進む我が国では、少子化対策や移民政策等による定住人口の増加がままならず、インバウンドを基軸とした交流人口の拡大が重要視されてきました。その実現のための一つの手段として注目されたのがMICEです。MICE推進の意義は、「ビジネス・イノベーション機会の創造」、「地域への経済効果」、「国・都市の競争力向上」(観光庁Webサイトより)がいわれていますが、大規模で国際的なMICEの開催は、経済的効果のみならず、多方面で社会にもたらす効果は非常に幅広いものがあると考えられています。(下図1「MICE開催の効果」参照)
 しかし、MICEの社会的な効果とは、MICE誘致から開催までに至る長いプロセスと開催の結果がもたらす相乗効果をいいますが、実際にMICEを誘致したり新たに創出したりすることはそう容易ではありません。国際的なMICEの誘致は、国レベルでの熾烈な誘致競争があり、国内のMICEにおいても、自治体間で都市間競争が展開されます。

MICEの誘致・開催に必要な要素とは、どのようなことと考えられるでしょうか。毎年発表される都市別のICCA国際会議開催件数で、G7諸国や中国の都市が上位に位置づけられることからもわかるように、MICE誘致には国や都市の総合力が求められます。当研究所は、MICEにおける都市の総合力を客観的に示す指標として、『MICE都市パワーインデックス』を編集する中で、MICEの誘致・開催に必要な“力”として、ヒト(人材・組織力)、モノ(インフラ)、カネ(経済力・市場)を、「都市の社会基盤」、「産業や学術・研究機関の集積」、「自然環境や文化資源」等の分野で、客観的指標に基づき評価することに取り組んできました(下図2「MICEパワーインデックス(国内版)の評価指標」参照)。 国や、政令指定都市などの大規模自治体においては、大規模で国際的なMICEを継続的・安定的に誘致するためには、都市の総合力を高めることに加え、他都市との比較において、独自性や優位性を意識した独自の戦略が求められます。

一方、中小の自治体においてMICEを誘致するためには、自治体として目指す姿の長期ビジョンや方向性に沿って、産業政策、商業政策、観光政策とマージさせ、自らの地域を客観的に正しく評価・分析し、特長や資源(アセット)を棚卸しする中で、MICEを活用した独自の戦略を策定することが重要です。

出典:MPI

図1:MICE開催の効果(「横浜市MICE機能強化に向けての提言書」をベースにJTB総合研究所が作成)

出典:MPI

図2:MICEパワーインデックス(国内版)の評価指標

2.MICE振興とIR(統合型リゾート)

コロナ禍による訪日インバウンドの壊滅的な状況もあり、話題になることが少なくなったIRですが、日本の国や自治体、MICE業界自体が抱える課題を解決するための政策として、本来IRによって実現しようとする社会的な目的を、もっと国民に理解されるよう丁寧に説明することが必要ではないかと思われます。
 現在、国や各自治体の抱える大きな課題には、「少子高齢化(出生率の低下)」、「都市と地方との格差・地方財政の逼迫」等が挙げられますが、“定住人口”を増やすことに有効な解決手段が見出せない状況にある中で、先ずは“交流人口”を増やすという考え方、即ち、インバウンドを基軸とした国や地方の活性化への取組みが、2003年第一次小泉内閣のビジットジャパン・キャンペーン以降加速されてきました。2015年頃までは、訪日外客数を増やす=「数の目標」が至上命題でしたが、オーバーツーリズム等の問題もあり、2016年に策定された「明日の日本を支える観光ビジョン」では、訪日外客数に加え、訪日外客の消費額=「質の目標」が加えられ、同時にMICE開催がもたらす様々な効果が着目されるようになりました。観光庁の「2018年MICEの経済波及効果算定事業」において、MICEを目的に我が国を訪れる外客の一人当たりの平均消費額(@¥337,000円)が、レジャー目的の外客の一人当たりの平均消費額(@¥154,000円)の約2倍算定されたことが、それを裏付ける契機になりました。(但し、MICE目的の平均消費額は、日系航空会社を使用する場合のみ、航空運賃も消費額に算入されているため、少し割引いた考え方が必要です。)
 一方、MICE業界に目を転じると、現在、各地にあるコンベンションを中心としたMICE施設は1980年代に建設されたものが多く、施設の老朽化が進み、今世紀になって建設されたアジア諸国のMICE施設と比較して、相対的に競争力の低下が否めませんが、現在の地方自治体の財務環境では、新規建築や建て替えはなかなか困難な状況です。そもそもMICE施設の経営は、BtoCを主体とするスポーツやエンターテーメント専用施設の場合、施設の賃料以外に、放映料、物品販売、ファンクラブ運営、コンテンツを活用した各種プロモーション施策により黒字化は十分可能であり、民間事業者の参入が期待できますが、BtoBを主体とする大規模なコンベンション施設や展示場等は、運用による黒字化も厳しく、土地の取得を含む新規建設や改築コストを回収することは困難で、これまでは自治体が主にその任を担ってきました。

政府が推進するIR(統合型リゾート)は、民間の事業投資により、カジノで得た収益を循環することで黒字化が困難なMICE中核施設(会議場と展示場)の収益性を担保し、各種エンタメ施設、レストラン、ショッピングモール、観光送客施設等を一体運営することで、滞在型観光と周辺地域への旅行者の流入を促進するものです。IRの建設は、訪日インバウンドを基軸とする交流人口の拡大により、MICE振興と地域の活性化のみならず、関連需要による雇用促進と産業の育成、更にはIR事業者からの納税を通じて、特に地元自治体の財政基盤を強化することを目的とする施策であると考えられます(IR : 統合型リゾートの詳細な内容は、2018年9月11日付当社コラム「いま注目されるIRとは」を参照)。しかし導入には治安の悪化、ギャンブル依存症やマネーロンダリングの温床等、カジノ自体の持つ負の側面への懸念が強調され、また一部政治家による汚職の疑い等により、IRが本来目指す理念や目的が、一般的になかなか理解されにくい状況となっていることは非常に残念です。
 新型コロナの感染拡大で、オンライン会議やイベントの価値が改めて見直され、MICE施設に求められる規模や仕様に関するニーズにも変化が出てきたと考えられます。また極度にインバウンドに依存するビジネスモデルへの懸念も現実のものとなりました。今後、IRに手を挙げた自治体で事業者選定をはじめとする様々なプロセスが進行しますが、カジノ自体の負の側面への対処に加え、様々な懸念を克服し、当初の理念と目的に叶ったIRの実施運用が、現実のものになることを願うところです。

出典:MPI

図3:日本の観光政策とIR

3.コロナ禍以降のMICE

今回の新型コロナ感染症の拡大により、MICE業界も大きな困難に直面しました。これまでMICEとは、「会議、報奨旅行、展示会、イベント等対面形式で展開されるリアルなコミュニケーション機会」と定義してきましたが、この1年以上もの間、リアルなコミュニケーション機会は大幅な制限を受け、オンラインでの対応を余儀なくされ、それは現在もなお続いています。このような環境下において、オンラインでの会議(セミナー)やイベントの利点が認識される一方、実際の場面では課題やトラブルも顕在化し、MICE関連の幅広いサプライチェーンの中で、特に、映像・音響を配信する事業者や、通信ネットワークを構築する事業者の重要性が、改めて認識されることになりました。また、会議(セミナー)やイベントの主催者の立場では、様々なオンラインMICEが巷に氾濫する中で、開催目的が明確でないと視聴者は集まらず、内容が伴わなければすぐに離反を助長し、配信するコンテンツの有料化に対するハードルも顕著になってきました。今後、コロナの感染が収束に向かう当初は、MICEに関わる業界(事業者)はもとより、MICEに参加する人々(参加者)の中にも根強くあるリアルなコミュニケーション機会を望む声が急速に高まるものと期待されますが、時間の経過に伴って、リアルなMICEを開催する事の価値が改めて問われることになると思われます。リアルとオンライン双方の利点を取り入れた「ハイブリッド型MICE」が、今後は主流になるものと考えられますが、何を実現するためにMICEという手段を活用するのかが、より厳しく問われる時代になるものと考えます。

4.MICE開催は目的ではなく、主催者の戦略目標を達成するための手段

MICE開催の目的は、主催者により様々であり、例えば、企業やイベントを生業とする事業者が主催する場合には、事業の拡大や企業価値の向上、事業収益の確保等が考えられ、学術団体であれば、情報や価値観の共有と組織の結束強化、国や自治体であれば、政策ビジョンに向けた情報提供や価値観の共有による国民や市民の啓蒙と理解促進等が考えられます。
(MICEの基本的な構造については、2017年7月11日付コラム「期待高まるMICEの持つ可能性について」を参照)

このように、主催者のMICE開催目的は様々ですが、共通していることは、「MICEを開催すること自体が目的ではなく、MICEは戦略目標を達成するための手段である。」ということです。MICEの開催によって何を実現するかが重要であり、しっかりとした戦略と目指すべきゴールをイメージして実施することが何より重要であることを、このコロナ禍を経て改めて確認すべきと考えます。