期待高まるMICEの持つ可能性について

国やJNTOのMICE政策は、国際会議に偏りがちでしたが、最近は特にM、I、Eの重要性とポテンシャルが声高に語られるようになりました。特にMとIは、「企業」がその中心的担い手であり関連する情報の入手が極めて困難であることから、数値化されたものがありませんでしたが観光庁が大きなチャレンジをしようとしています。

小泉 靖

小泉 靖 主席研究員

印刷する

目次

今年4月、観光庁は、「日本で行われた国際会議による経済波及効果の推計は5,905億円、雇用創出効果は54,000人分、税収効果は455億円にも上る」との推計を発表しました(出典:平成28年度 MICEの経済波及効果及び市場調査事業報告書)。今回のようなMICEの経済波及効果の算出には「参加者」が各々支出する「参加者消費額」と、「主催者」がMICE開催のために支出する「事業費」に加え、例えばE(Exhibition)の場合には、各ブースを出展する「出展者費用」を合算し、産業連関表を用いて推計する方法により算出されています。今回の発表は国際会議に限っていましたが、今後は国際会議「C(Convention)」に続き、「I(Incentive)」、および「E(Exhibition)」についても、経済波及効果の推計が行われる予定です。

国やJNTOの政策は、従来はどうしても国際会議に偏りがちでしたが、最近は特にM、I、Eの重要性とポテンシャルが声高に語られるようになりました。特にMとIは、「企業」がその中心的担い手であり、関連する情報の入手が極めて困難であることから、経済波及効果の算定も各方面で何度か試みてきましたが実現せず、数値化されたものがありません。その意味で、今後の観光庁による取組みは、大きなチャレンジになると思われます。

ところでMICEという言葉については、これまで何度も耳にされたことがある方は多いと思われますが、具体的にイメージできる方はどのくらいいらっしゃるでしょうか?  MICEとは、M(Meeting)、I(Incentive)、C(Convention)、E(Exhibition/Event)の頭文字をとったもので、それ自体は意味を持ちません。また、M/I/C/Eは、それぞれ目的や形態、規模や内容等が異なり、ビジネスの一環として展開される情報として関係者以外には周知・理解がされにくいという側面もあります。「MICE」は、1990年代初頭にシンガポール政府観光局が初めて使用したと言われる観光業界の言わば“業界用語”ですが、その実体がなかなかイメージしがたく、「訪日外国人旅行」として、近年瞬く間に広く一般的に認知されるようになった「インバウンド」とは、非常に対照的です。実は、当社のホームページで検索されているキーワードにMICE関連はとても多いのです。

今回のコラムでは、MICEをより具体的にイメージするために、改めて基本に立ち返り、1.MICEの基本構造、2.MICEの目的、「事業拡大」と「価値の共有」、3.MICEのサプライチェーンと経済波及効果の視点で考えてみたいと思います。

1.MICEの基本構造

MICEを理解するために、MICEに共通する基本的な構造についてまず考えてみましょう。MICEに関わる当事者は、「主催者」、「参加者」、「事業者」の3者です。「主催者」は、会議やイベントを開催する主体で、企業や学術・業界団体等がこれに該当し、そこに参加する社員や団体の構成員が「参加者」、そしてMICEを仕事として企画・運営するのが「事業者」です。

では、そもそも、「主催者」は、何故MICEを開催するのでしょうか? 
「主催者」は「参加者」と共有したい価値(知見、情報、技術、想い等々)があり、それを直接伝える場としてMICEを活用するのです。事業者の協力を借りてMICEの企画や演出が施され、参加者にメッセージがしっかり受け止められれば、主催者とってMICEの開催は「成功」ということになり事業者はその対価を得ます。MICEは、この3者すべてがWIN&WIN&WINの関係となることが重要です。

MICEの基本構造

2.MICEの目的、「事業拡大」と「価値の共有」

次に「主催者」がMICEを開催する目的と、その「参加者」について考えてみたいと思います。大まかに言えば、主催者がMICEを開催する目的としては、「事業拡大」と「価値の共有」に大別できるのではないかと考えます。前者は、直接的な収益獲得を目的とするもので、「マーケティング」、「宣伝・販促」等をテーマとするMICEが代表例であり、後者は「知見や技術の共有のための学術会議」、「組織強化」、「ブランディング」、「社会貢献」等の目的で開催されるMICE等が該当します。また双方の目的を併せ持つケースも少なからずあります。そのMICEの対象である「参加者」は、参加が一般に広く開放されているか否かにより、「Closed」か「Open」かに分類されます。「Closed」は社員や会員、および販売代理店等自社のネットワーク内のステークホルダーや関係者のみを参加対象とし、「Open」は一般の消費者・最終ユーザー等を対象とするものです。これをMICEの形態別に考えると、M(Meeting)、I(Incentive)、C(Convention)、は「Closed」で展開されることが多く、Eの中でも(Event)は多くの場合「Open」に展開され、(Exhibition)は関連業界内で「Open」に展開されるケースが一般的です。しかしながら、例えば、本来、関係者間での「Closed」に展開される国際会議の期間中、展示や一般市民向けの講座・イベントを「Open」な形で併設するプログラム構成の場合もあり、こうした事が、MICEをより複雑にしている要因とも考えられます。以上のような観点より、MICEを分類すると、概ね下図のように示すことができるかと思います。

MICEの分類(目的と対象)

3.MICEのサプライチェーンと経済波及効果

最後に、MICEが持つ大きな特長でもある「サプライチェーンの広さ」について考えてみます。MICEが大型になればなるほど、準備には時間と労力を必要とし、関係する事業者数や業種も増えます。計画段階から実施、すなわち、会場の設営・施工に始まり、音響・照明等の演出、必要な機材・備品の調達、各種資料の印刷や記録媒体の編集、当日の会場警備・誘導や運営スタッフの派遣、参加者の移動・宿泊・食事・視察(見学)等に加え、参加者登録のための専用システムやWEB画面の制作に至るまで、多岐にわたる分野で事業者の専門ノウハウをフル活用し、「イベントの成功」という共通の目標向かって力を結集することが求められます。ご参考までに、MICEに関連の事業者の一例を以下に示してみます。MICEに関わるサプライチェーンが多岐にわたって裾野が広く、結果として大きな経済波及効果を生み出すことがご理解いただけるかと思います。

MICEのサプライチェーン

以上のように考えてみると、MICEとは、「目的をもって実施される、リアルなコミュニケーションの機会(手段)」というように表現できるかと思います。MICEの実施形態はさまざまですが、注意して周囲を見渡すと、至る所で頻繁に展開されていることにも気づかれるのではないでしょうか? MICEには「事業拡大」と「価値の共有」という初期の主催者目的に加えて、開催後の結果としてもたらされる様々な効果、すなわち、生の最新情報に基づくマーケティング、知識や情報・ネットワークの構築がもたらす新たなビジネス機会やイノベーションの創出、人流拡大に伴う経済効果、更には開催地のインフラ整備やブランド力向上、そして何よりもMICEに関わる人材の育成・グローバル化等が期待されています。 

規模や内容にもよりますが、MICEにはこれら多くの可能性が期待できます。これを契機に、是非、MICEに対するより多くの関心と期待を持って戴ければと願うばかりです。