いま注目されるIRとは

"IR"という言葉を聞いて、ほとんどの人がいわゆる「投資家向け広報」が思い浮かぶと思いますが、最近はもう一つの"IR"がニュース報道などで話題になっています。その"IR"とはIntegrated Resort(統合型リゾート)の略ですが、具体的にはどういうものなのでしょうか。MICEに携わっている立場から、IRの基本を解説します。

小泉 靖

小泉 靖 主席研究員

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今年の7月20日に国会で「特定複合観光施設区域整備法」(以下、「IR整備法」)が可決されました。この日の前後に、当社のホームページ上の用語集にある「IR」の閲覧数が急に上昇し、注目度の高さを実感すると同時に、実はよく分からないという人も多いのではないかと感じました。

日本では、IR=(イコール)カジノ、とイメージされることが多いですが、IRは公的には「特定複合観光施設」と規定され、以下に記す1号から5号までの施設およびカジノ施設から構成される一群の施設全体を指します(図1)。こういった様々な施設で構成され、滞在型観光を促進するための一連の施設群の総称がIRなのです。そしてこれらの施設を利用して、いわゆるMICE(Meeting:会議・研修・セミナー、Incentive:報償・招待旅行、ConventionまたはConference:大会・学会・国際会議、Exhibition:展示会)を日本に誘致、促進することが国のめざすところです。

第1号 ・・・ 国際会議の誘致を促進し、およびその開催の円滑化に資する国際会議施設
 第2号 ・・・ 国際規模の展示会、見本市その他の催しの開催の円滑化に資する展示施設
 第3号 ・・・ 我が国の伝統、文化、芸術等を活かした公演その他活動を行う事により、
       我が国の観光の魅力の増進に資する施設
 第4号 ・・・ 我が国における各地域の観光の魅力に関する情報を適切に提供し、
       併せて各地域への観光旅行に必要な運送、宿泊、その他サービスの手配を一元的に行う事により、
       国内における観光旅行の促進に資する施設

 第5号 ・・・ 利用者の需要の高度化及び多様化に対応した宿泊施設
(第6号 ・・・ 前各号に掲げるもののほか、国内外からの観光旅客の来訪及び滞在の促進に寄与する施設)

公共政策として国がIRを推進する目的は、「IR整備法」の第1章総則の冒頭に記されています。「適切な国の管理の下で運営される健全なカジノ事業の収益を活用して、地域の創意工夫と民間の活力を生かした特定複合観光施設区域の整備を推進することにより、国際競争力の高い魅力ある滞在型観光を実現し、地域経済の振興と財政の改善に寄与すること」であり、カジノで得た収益を、国・地方に対しては”税金”という形で財政改善に貢献すると共に、域内のカジノ以外の施設に対する財政的補完を担う役割も期待されています。

IRとは

(図1)

海外でいえば、テレビコマーシャルなどで皆さんがよくご存じのシンガポールの「マリーナベイサンズ」もIR施設です。一般の人にとっては、ホテルとプールのイメージが強いと思いますが、MICEに対応する施設「サンズ エキスポ アンド コンベンションセンター」では、2フロアに渡って5分割が可能な展示場、3フロア合計200を超える会議室と宴会場を備え、さまざまな規模と用途に柔軟に対応できる先進的な設備を整えています。 日本へのMICE誘致においては、このような海外の施設とも競っていかなくてはならないのです。

とは言え、器(施設)さえ作れば自動的に利用者が集まるものではなく、特にMICEの場合は、国際会議や展示会等の誘致に向けた営業活動やプロモーション活動が非常に重要な鍵を握ることになります。 また、当面、認定が下りる「特定複合観光施設区域」は、3カ所が上限とされていますが、大都市圏にIRを建設する場合と、地方でIR事業を展開する場合とでは、地域としての戦略はもとよりMICEの需要も異なり、自ずとMICE施設の規模や仕様等も、ニーズは異なってくるでしょう。

国が推進する日本型IR の理念は大切にしつつ、誘致を中心とする地域としてのMICE戦略は、地に足の着いた地道なものをしっかり固めておくことが肝要であると考えます。