MICEにおける「MI」分野の産業を考える

今月から3回の連載で、MICEのそれぞれの分野についての考察を掲載する。第一回目の今回は、MICEの産業分野から「Meeting(会議・研修・セミナー)」、「Incentive(報奨・招待旅行)」を、C(Convention)との違い等でその変遷と今後について考察する。

太田 正隆

太田 正隆 客員研究員

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目次

「MI(Meeting Incentive)」の分野は、「C(convention)」と同様、管轄する省庁は観光庁である。Meeting分野は、主に企業等が行う様々なミーティングであり、例えば国際的な投資セミナーや多国籍企業によるグループ会社・役員社員等のミーティングを指している。また、Incentive分野は、主に企業が行う販売代理店、社員等を対象とした表彰や研修等を目的とした報償旅行等の分野であるとしている。C(Convention)との違い等でその変遷と今後について考察する。

*MICE: MICEとは、Meeting(会議・研修・セミナー)、Incentive tour(報奨・招待旅行), Convention またはConference(大会・学会・国際会議), Exhibition(展示会)の頭文字をとった造語で、ビジネストラベルの一形態を指す。

はじめに

Convention分野では、1.主催者:「国際機関・国際団体(各国支部を含む)」 又は 「国家機関・国内団体」(各々の定義が明確ではないため、「特定企業の利益を追求することを目的とした会議」の主催者を除く全てが対象となる。)2.参加者総数が50 名以上、3.参加国が日本を含む3 カ国以上、4.開催期間が1 日以上という条件を満たすものを「国際会議」としている。私企業による企業内会議、大学などの研究機関が行う講義(学内・学外を問わず)、投資の勧誘を目的とした投資セミナー、観光客誘致を目的とした観光セミナー、学習を目的とする研修会・教室、宗教団体の儀式・集会などは、国際会議の対象としないとしている。(出典・JNTO国際会議の選定基準から)Convention国際会議をここまで詳細に定義する最大の理由は、国際的な統計をとるために同じ指標で各国で開催する国際会議を選定する必要があるからである。国際団体連合 (UIA:Union of International Associations) が発表する世界の国際会議統計に掲載されるためには、このような基準や指標を用いることで日本における国際会議動向が各国と比較可能となるためである。

狭義のコンベンションから広義のコンベンションへ

平成18年7月(2006年)、「国際会議、国際文化・スポーツイベント等を通じた観光交流拡大のための検討会報告書」という長い名前の報告書が、当時の国土交通省総合政策局国際観光課が主管となって取りまとめられ、同検討会名で発行されている。これは、2003年に500万人であった訪日外国人を2010年までに1000万人へ倍増するというVJC(Visit Japan Campaign)等の観光立国を推進する中で、国際会議を開催誘致推進するための施策や全国の国際会議施設等の拡充に伴って、国際会議のみならず文化やスポーツといった様々な国際交流が活発化してきた。

これは、狭義の観光から、国際的な文化イベント、スポーツイベント、国際展示会・見本市等、外国人が多数来訪する国際的な「集い」の機会が多くなり、広義の観光へと拡大してきたことに起因する。明確な目的を持ち継続的で質の高い交流であり一層の促進を図ることで、マーケットを捉え訪日外国人の拡大といった観点から、観光を目的とした観光(レジャートラベル)「狭義の観光」から、ビジネスを中心としたビジネストラベル「広義の観光」へと拡大し、持続性のある質の高い交流であると捉えることで、一層の訪日観光促進に繋がるという議論の発端である。狭義のコンベンションから広義のコンベンションへのスタートである。

Meeting とIncentive

主に企業が行う分野であるMeeting とIncentiveの実態について、同検討会では次の分野の方々に現状等について発表をお願いした。日本旅行業協会(JATA),日本ホテル協会、有数の自動車メーカー等である。旅行会社各社が取り扱う企業インセンティブや企業研修等の幅は広く、世界各国から様々な目的で通年多くの訪日客が来ている実態や、受け入れるホテル側からも法人需要の取り扱いや取り組みについて述べられ、相当数の団体や企業のミーティングやインセンティブが行われている実態が明らかになってきた。

また、国際的な自動車メーカーからは2005年の一年間で161ヶ国・地域から合計37,550人を受け入れたという具体的な数値が発表され、そのうちインセンティブ性のある受入は約2万人程度であることが明らかにされた。このため日系の国際的な企業は多数あり、数十万人規模でのMeeting やIncentiveの訪日外国人の可能性があることが推計された。従来こうした数値は、訪日外国人の統計等への具体的な反映はなく、把握をされることは少なかった。旅行会社、ホテル等も企業名、目的、人数等について国際会議統計のように積極的に外部へ出す情報でもないため、その実態は明らかではなかったが、同検討会において一定のボリュームで日本に来ていることが関係者の発表で、より具体的なイメージを掴むことが出来た。

MICEの中のMI

平成21年7月(2009年)、「MICE推進アクションプラン・国際交流拡大のためのMICE推進方策検討会報告書」が、前年の2008年に発足した観光庁から発行されている。遡ること二年前の平成18年7月(2006年)に発行された、「国際会議、国際文化・スポーツイベント等を通じた観光交流拡大のための検討会報告書」では使っていなかった「MICE」が登場する。平成19年1月(2007年)に施行された観光立国推進基本法に基づき、観光立国の実現に関するマスタープラン「観光立国推進基本計画」を策定(同年6月閣議了解)し、平成23年(2011年)までに「我が国における国際会議開催件数の5割増」を目標としスタート。アジア、欧米等で国際会議のみならず幅広い概念として「MICE」が使われていたことで、初めてMICEを用いてそれぞれの分野についてセグメントすることで、訪日外国人旅客の増大、経済効果、地域の国際化・活性化等に大きな意味を持つことから、観光庁としても国際会議だけではなくMICE全般を推進していく必要があるとした。Meeting分野 とIncentive分野の始まりである。

MeetingとIncentiveの把握

冒頭に述べたようにConvention国際会議と異なり、MeetingとIncentiveの分野には、把握するための国際基準や集約して統計を行う団体が存在しない。最大の理由は、国際的なMeetingとIncentiveに関する把握の指標や基準が曖昧であり、国内においても同様である。学術的な国際会議、政府間会議、国際機関が行う国際会議等について、開催情報は豊富にありまた一部の非公開会議を除き、参加又は情報へのアプローチが可能であり、主催者も積極的に開催をアピールする。そのため、開催地として選定されるための誘致活動等のマーケティング活動が可能となる。

主に民間企業が行うMeetingとIncentiveについて言えば、主催者である企業はその開催や内容について関係者に対して伝えることは必要であるが、積極的に世の中に対してアピールする必要はなく、むしろ企業活動の一環として関係者だけの情報共有だけとなるため、その内容はなかなか伺い知れない。国際会議に対するPCO(Professional Congress Organizer)や会議施設等のように、UIA統計の為に開催情報提供やそのための協力をすることはあるが、MeetingとIncentiveの活動を取り扱うことの多い旅行会社や、受入の多いホテル側からみれば、取引相手である企業名、開催目的、内容、人数等は営業上の秘密に近い事項であるため、公開されないことが多い。こういった事情がMeetingとIncentiveの実情把握を困難にしている。

実情が定量的に把握できないということは、普及啓発、開催促進、誘致等への対策や施策を立てて、計画的・組織的にマーケティングを行うことが困難である。アジアなどではこうしたMeetingやIncentiveを行う企業に対して、費用の補助や一定の便宜供与を行うインセンティブを行うことで誘致促進と実態把握に努めている。近年、日本においても各地のコンベンションビューローで民間企業が行う一定規模のMeetingやIncentiveに対して、補助制度や便宜供与をすることが増えている。従来、「私企業に対する公金を使った各種便宜供与は問題がある」といった議論からは進んだことは評価すべきことである。但し、こうした措置は誘致ツールとして利用されているためで実態把握と直結している訳ではない。

まとめ

諸外国では、都市や地域においてホテルや旅行会社とコンベンションビューローが連携してMeetingやIncentiveの実態把握につとめ、情報共有や誘致のためのマーケティングデータとしている例も少なからずあると聞いている。2013年に選定された「グローバルMICE戦略都市」では、都市の規模も大きく比例してコンベンションビューローの体制も専任の人数・予算も拡大傾向にある。また、大型のMICE施設を有する都市においても国際会議を中心に積極的に誘致推進を行っている。都市の規模が小さく、受入機能も小規模なコンベンション都市は多くあるが、こうした都市には国際会議等を誘致することが至難の技である。

近年、日本各地のコンベンション都市では、国際会議のみならず企業ミーティング、インセンティブ分野への期待が大きい。企業の慰安旅行や研修旅行と区分されていた分野について、アジア等の新興企業、ネットワークビジネス企業、また保険等を始めとする各種サービス業では、営業成績のよい従業員に対する表彰を含めた報償旅行(インセンティブトラベル)、モチベーションを上げるために行う慰安・研修旅行(企業ミーティング)が盛んに行われる傾向にあり訪日外国人数を押し上げ、大きな期待が可能な分野である。

観光庁では過去において、MeetingやIncentiveの実態把握を目的とした調査を複数回実施しているが、前述したような理由により全体を把握しきれていないのが現状である。国全体のMICE分野の底上げを図り、定性的なマーケティング手法や業界の協力体制等を構築し、MeetingとIncentive分野の定量的な把握を可能とする手法を確立することが必要である。それには観光庁のみならず、旅行業界、ホテル業界、産業界全体の理解と協力が必須である。

<参考>