「伊勢志摩紀行」~MICE Japan 7月号より再掲~

【MICE Japan 7月号より再掲】日本での2016年のサミット開催地が「伊勢志摩・賢島」に決まった。海辺でのサミット開催は、2011年フランス北西部の海岸リゾートのドーヴィル・Deauville以来である。今回は、若干観光案内的になってしまうが、筆者の記憶による、ゴールデンルートと伊勢志摩に関わるMICE紀行としたい。

太田 正隆

太田 正隆 MICE戦略室 主席研究員

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去る6月7日、8日にドイツ南部のアルプス山麓にあるエルマウ城という5つ星の山岳リゾートホテルで2015年のG7(主要国首脳会議)が開催された。安倍総理大臣は、政府専用機で羽田からドイツへ出発する直前の空港で、来年開催される日本での2016年のサミット開催地を「伊勢志摩・賢島」と発表した。「日本の美しい自然や豊かな文化、伝統を世界のリーダーに味わってもらいたい。『伊勢志摩サミット』だ」と記者団に語っている。(毎日新聞他)この日から、頻繁にテレビや雑誌等のメディアで、伊勢志摩や賢島の特集を見る機会が多い気がする。伊勢神宮は知られていても、伊勢志摩や賢島が案外知られていないのではと感じた瞬間である。また、海辺でのサミット開催は、2011年フランス北西部の海岸リゾートのドーヴィル・Deauville以来である。今回は、若干観光案内的になってしまうが、筆者の記憶による、ゴールデンルートと伊勢志摩に関わるMICE紀行としたい。

日本が1968年にドイツ(当時の西ドイツ)を抜いて、国民総生産(GNP)が米国に次いで第二位となった時代、日本の自動車産業は史上最高の成長をとげて、併せて日本が国際競争力の急速な展開になった時代である。1950年にはわずか5,949台だった輸出が、1970年には1,066,776台の輸出と20年で200倍近い数値となっている。1971年のニクソンショック、1973年のオイルショック等を経て、日本は安定的な経済成長期となった。そんな中、1970年に約108万台であった自動車の輸出は、1980年には約600万台となった。米国のビッグ3(GM、クライスラー、フォード)は赤字転落への道を歩んでいた。

1970年代後半、筆者は日本の自動車メーカーやその他の製造業のインセンティブを担当する機会があった。(当時、Special Incentive Travel等の言い方であったと思う)当時の国際空港は羽田空港であった。(成田空港は1978年初夏に開港)到着する某自動車会社の欧州営業関係者の外国人客迎えるために、荷物用トラック、大型バス、通訳案内士(観光ガイド)らと共に空港にスタンバイ。当時は、手続を踏むと税関の内側までスタッフと共に入ることが可能で、ターンテーブルから出てくるスーツケース等の荷物を外国人客と共に集めて、以降国内で利用するBaggage Tagを付けまとめて税関を通関し、そのまま荷物用トラックに積み込んでいた。欧州国内で日本製の自動車を多く売った優秀な販売担当者が大挙して来日し、次々に帝国ホテルやホテルニューオータニといった都心の一流ホテルへ投宿。

都心で1~2泊しながら日光や鎌倉、箱根等へのエクスカーション、首都圏周辺に工場や研究所がある場合には、工場視察(Technical Visit)を行い生産ラインの見学やレクチャーを受け、夜な夜なパーティーがあり日本舞踊、勇壮な太鼓等の様々なおもてなしプログラムが目白押し。その他、訪問先途中での昼食では「天ぷら」「しゃぶしゃぶ」等の和食が中心、行く先々で提供する各種サービスのメインテーマは「和」。多いコースとしては、ゴールデンコース。東京から箱根へ移動しいくつかある箱根山中にある老舗の富士屋ホテルや芦ノ湖周辺の新しいホテルでの宿泊。芦ノ湖クルーズ、駒ヶ岳ロープウェイに乗車し富士山を含む大パノラマと、足元には活火山特有の温泉蒸気や奇怪な岩肌。こうした景観に外国人は大喜び。時として、富士五胡周辺の老舗ホテル「富士ビューホテル」での宿泊や、日光であれば「金谷ホテル」等の場合もあった。

東海道を新幹線で西へ。ものつくりの名古屋ではラグジャリークラスの部屋もある名古屋観光ホテルや名古屋キャッスルホテル(現ウェスティンナゴヤキャッスル)などを利用。某世界的な自動車会社の本社が近いため、本社への訪問及び工場見学やゲストハウスでのレクチャーや往年の名車展示コーナーの見学等。また、自動二輪メーカーの場合には、鈴鹿サーキット(現モビリティーランド)ではバスごと乗り入れるサーキットでの試乗もある。流石にバスでのドリフトは出来ないが、本物のレース場でのコース利用は迫力がある。

こうして東海道を名古屋まで入り、次の訪問地として伊勢志摩となることがインセンティブ系のツアーコースである。1964年、東京オリンピックに合わせてヤマハリゾートが「外国の要人が泊れる上質なホテル」として「鳥羽国際ホテル」創業。事実、創業当時から天皇陛下を始めほとんどの皇室、英国エリザベス女王など外国からも多くの賓客を迎えている。ヤマハリゾートは、同地域に「ヤマハリゾート合歓の里」として海浜リゾートを建設(1967年)。ここでは、1969年から1986年まで往年のファンには懐かしい「ヤマハポピュラーソングコンテスト(通称POPCON)」が開催され、フォーク、ポップス、ロックからニューミュージック等多くのライブが開催され、日本の野外コンサートの草分けともいうべき音楽イベントの聖地でもあった。ゴルフ場等もありインセンティブや国際会議でも利用されていた。現在は、ヤマハグループから三井不動産へ所有が移り、シンガポールを本拠とする高級リゾートホテルのアマンリゾーツグループを誘致し、日本では二番目のアマンホテルが2016年のサミット年に開業する見込みである。但し、アマンリゾートホテルの開業はこの合歓が初めてである。

今回の2016年サミットの中心的な会場となる予定の「志摩観光ホテル」は、賢島という島内に位置し近鉄志摩線の終点が賢島駅で、陸路二本の道路がある。戦後まもなく伊勢志摩国立公園として指定され、外国人観光客が徐々に訪れるようになり洋風ホテルの必要性から1951年に小規模のホテルを建設し、その後改築増築等を経て現在の姿になっている。初期に建築された本館の一部は「志摩観光ホテル クラシック(CLASSICとし、新館は「志摩観光ホテル ベイスイート(BAYSUITES)」として利用されている。旧本館部分は現在耐震補強工事のため休館中である。筆者はこの本館部分へインセンティブツアーに同行し7~8回宿泊したことがあるが、英虞湾の景観が臨める落ち着いたロビー、また地下部分にはゲームコーナーや卓球台等もあったことを覚えている。また、ある時には皇室の母子が宿泊する中、このゲーム室でご一緒になり遠目で拝見。翌日の帰京では、偶然にも近鉄での列車も同じで、名古屋までの全ての踏切や橋等の両側に警備の制服警官が通過時間に合せて警備する場面を見るという経験をした。同ホテルは近畿日本鉄道が主となり、現在は都ホテルズ&リゾーツに属し、株式会社近鉄・都ホテルズが運営している。このグループは、奈良ホテル、旧都ホテル(現ウェスティン都ホテル京都)等の名門ホテルを運営する老舗ホテルチェーンである。

その他、存続している地方のテーマパークの中では集客力のある「志摩スペイン村」がこの周辺にある。この地域は、古代から1300年続いている20年に一度の伊勢神宮の神宮式年遷宮を始め、戦後指定された伊勢志摩国立公園、1988年に施行されたリゾート法等と観光客の集客を期待し、近鉄グループやヤマハグループも参入し開発を目指したリアス式の半島海浜リゾートである。平成8年には、伊勢市、鳥羽市、玉城町、度会町、南伊勢町で構成された「伊勢志摩地区・国際会議観光都市」として認定されている。筆者は1980年代初頭に、最近でいうところの「リトリート会議」を箱根や軽井沢とは全く異なるリアス式の半島海浜リゾートでの志摩観光ホテルでの国際会議を経験した。また、インセンティブでは「サンセットクルーズ」による過ごし方もある。これは少人数による貸切クルーザーと伊勢志摩特産の牡蠣を中心とした魚介類を積み込んだワインで堪能する波静かな鏡のような英虞湾のクルージングのことである。VIPには大変喜ばれるプログラムである。

おわりに
伊勢志摩地域は、1300年続く20年に一度の伊勢神宮の神宮式年遷宮があり、またお伊勢参りに代表される古来から一大観光地でもある。また、神宮で祭司を執り行っていた御師(おんし)は、各地へ普及すると共に、伊勢参りへの参詣を促す活動をすることで江戸時代に盛んになった参詣者の宿泊(宿坊)等の世話をするなど、日本における大衆旅行の発祥の地でもある。戦後指定された伊勢志摩国立公園と、近畿日本鉄道を始めとする交通機関の整備で名古屋、大阪、京都等へのアクセス利便性がより顕著になり、外国人観光客の訪問など国際観光地として伸びてきた。また、高度経済成長に伴って自動車等の産業の伸びと共に企業が行う報奨旅行(インセンティブトラベル)のとしても、ゴールデンコースの途中でもあり最適なコース設定が可能であった。また、リアス式の半島海浜リゾートという日本では比較的珍しい環境と、伊勢神宮の内宮外宮など古来からの聖地、江戸期に起こった伊勢神宮への60年周期といわれた集団参詣(お蔭参り)、国際観光の受入には充分な環境が整っている。サミット開催まで約一年、警備を中心に地元市町村や三重県が相当のご苦労をされると思う。特に、リアス式という従来にない地形や複雑に入り組んだ半島地形、警備には厳しいものが予想されるが、沖縄や北海道に勝るとも劣らないリトリート会議となることを切に願う。

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