介護に携わる家族の外出機会を創出するために

JTB総合研究所 ユニバーサルツーリズム推進チーム

高齢や病気、けが、障がいにより、ベッド上の生活を余儀なくされている人が家庭にいる場合、介護される人はもちろん、介護をする人のケアも大切な課題です。誰にとっても大切なのは、QOL(Quality Of Life:生活の質)の維持・向上で、人間らしく自分らしい生活を送ることができて、初めて日々の希望や幸せが生まれます。しかしながら介護生活の中で多くの人が先の見えない暮らしに不安を抱え、疲弊しているのが現実ではないでしょうか。

総務省の最新の「就業構造基本調査*(2012年)」によると、過去1年以内(2011年10月~2012年9月)に介護・看護のため前職を離職した人は約10万人に上ります。高齢化が進み、今後さらに家族の介護に携わる人も増えていくことが予想されています。介護による離職は、介護する人と社会との関係性を絶ち、物理的精神的な孤立を招かないとも限りません。

在宅介護の支援には、介護保険内外で利用できる、訪問介護・看護、デイサービス、ショートステイなどの様々なサービスが挙げられます。目的に合った支援サービスを選択することで、介護する側も数時間から数日間という時間を自分の時間に充てることが可能となりますが、これらはあくまでも介護される側を利用主体者として考えられたしくみです。最近では、在宅介護を担う家族が疲弊せず、心身ともに健康な状態で介護を継続するために、「レスパイト・ケア」という考え方が広がり、介護する側のサポートのしくみが形成されつつあります。レスパイト(respite:一時休止、休息、息抜き)とは、介護する人が一時的に介護から離れて、リフレッシュすることです。アメリカ、イギリス、オーストラリアなど、日本と同様に高齢化が進む先進国では、介護福祉が大きな社会課題となっていますが、レスパイトの考え方は日本よりも広く国民に浸透しています。アメリカでは、2007年に「ライフスパン・レスパイト法」が連邦法として制定され、法律に裏打ちされたプログラムによって、介護する側に向けたサービスが提供されています。州によって取組の内容は異なりますが、例えば、本来ならば施設が提供するべき介護労働を家族が代行しているとみなした場合の手当の支給や、家族の休息・睡眠時間の確保を目的とした、24時間対応の一時預かりや訪問介護のサービス等が挙げられます。

人は痛みや苦しみのすべてを背負うことで苦難を乗り越えられるという美徳を大切にしがちですが、日々優しい気持ちを維持しながら相手に接するためには、心に余裕を持つことや安らぎも大切です。レスパイト・ケアのサービスを生活に取り入れながら、時にはリフレッシュすることを真面目に検討してみてはいかがでしょうか。
ここ最近、一部の介護を専門スタッフに依頼し、家族全員で参加できるレスパイトを目的とした旅行サービスも増えてきています。外出や旅行はだれにとっても楽しい機会です。旅行を通じて家族はお互いの状況を確認し合い、安心した状態で喜びや感動を共有できます。どちらかが我慢をする必要はありません。このサービスの代表的なものに、「トラベルヘルパー」が挙げられます。「トラベルヘルパー」は、介護技術と旅の業務知識をそなえた「外出支援」の専門家です。利用する人の希望に応じて計画から同行まで外出に関わる支援サービスを行います。また、旅をテーマにした介護予防プログラムも実施しています。旅行を楽しみや生活の糧とすることで、健康維持や回復への意識が高まり、生活に張りが生まれます。家族全員が末永く笑顔で暮らし続けるために、ぜひとも楽しい外出を計画してみませんか。

*総務省統計局「就業構造基本調査」: 1956年から1982年まで概ね3年おき、1982年以降は5年ごとに行われており、2012年調査はその16回目に当たる。次回は2017年10月1日実施予定。

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