石見銀山、世界遺産登録後の課題

2007年7月、「石見銀山遺跡とその文化的景観」が世界遺産に登録された。世界遺産石見銀山が観光地としても成熟してゆくためには、いくつかの考慮すべき点がある。まず、観光客がゆったり滞在できる環境づくりだ。

河野 まゆ子

河野 まゆ子 執行役員 地域交流共創部長

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2007年7月、「石見銀山遺跡とその文化的景観」が世界遺産に登録された。16~19世紀にかけて東西交流に重要な位置を占めた産業技術の遺構や「自然との共生」の思想などが評価された形だ。世界遺産登録へ向けた活動が展開されたことから注目を集め、2007年9月までの入込観光客数は前年同期比で50%近い伸びを示している。
今後、世界遺産石見銀山が観光地としても成熟してゆくためには、いくつかの考慮すべき点がある。
まず、観光客がゆったり滞在できる環境づくりだ。

石見銀山では、遺産保護と住民の生活環境保護、および安全な観光を可能とするための環境基盤整備を目的として、町並地区への自家用車乗り入れを制限、外部駐車場からのパークアンドライドを実施している。これにより地域内にかかるストレスが軽減された。その一方で、ピーク時には駐車場から域内へ入るための路線バスの待ち時間が長くなるうえ、1乗車につき200円という区間制の運賃システムのために、バスを何度も乗り降りして多くの箇所をじっくり巡る観光客が少なく、結果的に滞在時間が短くなっているとの声も聞かれる。

同様に外部駐車場を有する世界遺産、白川郷における交通実証実験では、無料シャトルバスによるパークアンドライドの実施とともにレンタサイクルの整備を行い、これにより平均滞在時間が1.5時間から2.2時間に伸びたという成果が出ている。石見銀山においても、路線バスに定額フリーパスや施設入場料との共通パスを設定するなど、運営方法の工夫により観光客にとって快適な環境を提供できるのではないか。

また、来訪者がじっくりとその地を知り、楽しむことができるソフト面の充実も欠かせない。熊野古道の「かたりべ」のような案内人とともに巡る町歩き、各種体験メニュー、食事などの観光素材を発掘し、それらを充実した多様性のある観光商品に仕立て上げる取組みが重要であろう。

次に考慮すべき点は、遺産や地域景観の保全である。

地域内の営業施設等を含む景観保全に関しては、遺産保護と同様のきめ細かな配慮が必要である。有名な観光地に、場違いな土産物や、無粋な看板が立ち並んでいるのを見て興醒めした経験は誰しもあるだろう。

一般的な景観を維持するための「修景ガイドライン」や商業店舗の「マネジメント方針」が適切に運用されることが、中長期的に地域の魅力を維持・向上させるために最も重要である。

世界遺産登録を契機とした石見銀山の魅力づくりは、これから始まる。

石見銀山資料

石見銀山資料