20代若者は皆消費をしないのか

海外旅行者数が伸び悩む原因の一つが20代女性の出国率の低下であることは、本レポートでも過去に何回か触れている。しかし、20代の元気のなさは海外旅行に限ったことではなく、車には乗らない、お酒も飲まない、家電品やブランド物など、消費全般への興味が薄いという現象となっている。

若原 圭子

若原 圭子 主席研究員

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20代の若者が元気がない。海外旅行者数が伸び悩む原因の一つが20代女性の出国率の低下であることは、本レポートでも過去に何回か触れている。しかし、20代の元気のなさは海外旅行に限ったことではなく、車には乗らない、お酒も飲まない、家電品やブランド物など、消費全般への興味が薄いという現象となっている。車メーカー、酒類メーカーはもとより、マーケット全体がどうしたものかと頭を抱えている状況である。

日本経済新聞社産業地域研究所のレポート「20代若者の消費異変」では、経済成長を知らないで育った”ポスト団塊ジュニア”世代である20代の消費について、コギャル文化などを作ってきた “団塊ジュニア”世代(*1)を中心とした30代との比較を中心に、細かい分析がなされ大変興味深い。ここでは、多くの20代の消費者が内向きで、休日は家で過ごし、家事をして、将来不安から貯金にいそしむという姿が明らかにされている。これは20代の人々の実情を的確に捉えていると思われる。ただし、これがすべての20代の姿なのか。

弊社で昨年実施した商社などが入る都心のオフィスビルで働くOLを対象とした調査では、20代女性の6割が2年に1回以上、ビジネス目的以外の海外旅行へ行き、6割が1か月に1回程度、演奏会や観劇や映画に行っている。「高い目標設定をし、そのための努力を惜しまない」上昇志向の20代女性が6割いる。また、企業経営者や財界リーダーが行くような高級ゴルフ場で若い女性を最近よく見かけるという声も聞く。これは、多くの20代が多方面でシュリンクしている中で、学歴、就職先などによる経済格差があり、「勝ち組み」と言われるような一定以上の層では、これまでの世代と同様、あるいはそれ以上に”独身貴族的”な消費をしている可能性があるのではないか。

1つは海外旅行である。年収によって、これまでの海外旅行経験に大きな差がある【図1】。年収が高くなるほど海外旅行経験が豊富で、年収600万円以上では6割が「5回以上行ったことがある人」である。逆に、海外旅行に「行ったことがない人」は、個人年収が600万円以上の層では1割だが、300万円未満の人では4割と多い。今後の海外旅行への意向にも年収格差が表れている。年収300万円未満で「1年に1回以上行きたい」人は4割弱だが、600万円以上だと6割になる。世帯年収と海外旅行経験・意向の関係についても、個人年収と同様な傾向がみられた。

ドライブをする、スポーツ観戦、スポーツをするなど休日時のアクティブさにも年収の差が見られた。さらに、パソコンやデジカメ、テニス用品やスキー用品、ゴルフ用品、クレジットカード、ブランド物のスーツや鞄、時計、車など自分専用のものの保有でも年収レベルによる差があった。個人年収による差が30代では明確にみえないが、20代では個人年収が高くなるほど活動やモノの所有率が高い。とりわけアクティブさに関係する活動や商品の購入に、収入格差が影響していると考えられる。20代の消費動向に収入差が大きく影響していることが見えてきた。収入が上位の層の20代は、消費意欲も上昇志向も十分にあり、今後の消費に期待できる。

問題は、現在、それより下の層が、この上の層と同様な意欲を持てるかどうかである。筆者は、現在の収入レベルに加えて、学歴や家庭環境を背景にした消費経験の差が、現在の消費行動に影響しているのではないかと考えている。10代あるいは20代前半に本当に良いものを買う、自分にとって価値のある体験をするなど、豊かな消費経験をする機会を持てば、その後も消費に対して積極的になりやすい、という仮説も成り立ちうる。そうであるなら、若いうちに、消費経験値を高める機会を与えられれば、将来、シュリンクしている今の20代の消費意欲が上昇に転ずる可能性もあるのではないかと、やや楽観的かもしれないが彼らへの期待は捨てていない。

(*1)1970年代前半に生まれた、団塊世代の子供に当たる世代の総称(第二次ベビーブーム世代)

海外旅行経験20代

海外旅行意向