熟高年層は海外旅行をしなくなった?

海外旅行の需要が冷え込む中、ここ数年にわたり日本の海外旅行マーケットを牽引してきた熟高年層の海外旅行者数も伸び悩んでいる。団塊世代の動きもまだまだ重く、特に70歳以上の出国者数の伸び率の07年と08年の差は他の年代と比較しても最も下落率が大きい。熟高年層は本当に旅行意欲を失ってしまったのだろうか?

早野 陽子

早野 陽子 主任研究員

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日本では長期にわたる低金利政策によって預貯金のメリットが得られないことから、2003年以降の好調な株式市場や海外の高い金利を背景に、様々な金融商品が日本市場に浸透した。特に2005年10月に郵政公社が投資信託販売を開始したことで、金融商品には馴染みのなかった熟高年層や地方の預金者の預貯金が投資信託に流れ、販売開始から1年10か月で累計取扱額が1兆円を超えるまでに急増した。しかしリスクを十分に理解しないまま預貯金の延長で契約をした熟年層も多く、ここのところの世界経済の混乱に伴う株価や外国通貨の下落による熟高年層への影響は少なくないようだ。

また、2008年4月から施行された75歳以上の後期高齢者を対象とした医療制度により、医療費負担の増大が懸念されたこと、急激な少子高齢化の進展による年金問題の混乱が続いていることなどから、将来不安がより大きくなっていることも熟高年層の消費意欲を減退させている要因の一つとして考えられる。

しかしながら、日本の高度成長を支えてきた70歳以上の世代は、退職金や年金などの待遇で恵まれたこともあり、他の世代よりも余裕のある生活を送っている人も多い。

幸いなことに、熟高年層に人気のあるヨーロッパ旅行などでもユーロや燃油サーチャージが下がり、アウトバウンドマーケットにとっては好材料となっている。実際、旅行会社の店頭には「円高還元商品はないか」「燃油サーチャージはいつ下がるのか」といった問い合わせが増加しており、海外旅行への意識が完全に衰えているわけではないようだ。

但し、熟高年層が十分に満足できる旅行商品を多くの旅行会社が提供できているか、というと必ずしもそうではない部分もある。札幌医科大学の波川教授によれば、熟高年層は舌よりも視覚で味わう傾向が強く、少量で色彩に富んだ食事を好むという。しかし、食事にそういった配慮ができているパッケージツアー商品も販売されているもののまだ少なく、ツアーといえば「食事が美味しくない」という印象を持つ人が多いようだ。また、知的好奇心が強く、現地の人や文化と深く触れあいたい、という意識も高いが、熟高年層向けの体験型海外旅行もより一層の普及が期待されるところだ。他の年代と比べ、まだ比較的経済的に余裕がある熟高年層に対し、円高や燃油サーチャージ値下げのメリットを明確に打ち出しつつ、熟高年層特有の要望を汲んだ商品を提供することで、停滞気味の熟高年マーケットを刺激できる可能性は十分あるだろう。

出国者数の伸び率

種類別金融商品保有率