熟年女性ドライバーの増加と旅行行動の変化

団塊世代は2012年から65歳に差し掛かり、完全退職やフルタイムからパートタイムへ働き方が変化することで、余暇時間が増加し、生活への変化が見込まれる。そんな熟年層の旅行は、これからどのように変化していくのだろうか。団塊世代女性の高い運転免許保有率に注目し、ドライブ旅行を中心とした今後のシニアの旅行行動の変化を考えてみたい。

早野 陽子

早野 陽子 主任研究員

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目次

団塊世代女性の免許保有率の大幅上昇

長年にわたり、自家用車を利用したドライブ旅行は旅行会社にとってブラックボックスのような存在であった。個人が直接宿を手配し、自家用車を利用して移動をしてしまえば、旅行会社の関与できる余地がほとんどないからである。
インターネットの普及と共に、ごく手軽に宿泊施設の予約ができるようになり、年々、旅行会社を通さずに自分で宿を予約し、自家用車で旅行をすることが一般的となってきている。
インターネットの宿泊予約サイトは広く一般に浸透し、旅行会社にとってもインターネットの活用でドライブ旅行を取り込むチャンスだ。
また、ドライバーの状況にも徐々に変化の兆しがみられている。団塊世代を境にその上の世代と比較して女性の免許保有率が大幅に上昇しているのだ。この変化は熟年層の旅行や消費行動に様々な影響を与えることが予想できる。

従来、熟年層の女性グループといえば、電車やバスを利用した旅行が主流であったが、今後は、友人同士で車に乗り合わせ、温泉やゴルフに出かけたり、旅行先でレンタカーを借りて自由に観光地を巡ったり、という行動も、そう珍しいことではなくなるはずだ。

免許保有者数の推移をみてみると、この10年間(2000年から2010年)で、男性は約160万人、女性は約470万人、合わせて630万人も増加をしている。
前述したとおり、特に女性の60代の伸びは大きいと言えるだろう。女性60代だけでも約540万人増加しており、人口に占める割合では60~64歳が37.2%から67.2%へ30ポイントの増加。65~69歳が22.8%から48.7%と2倍強になっている。また、50代後半でも同様に52.7%から74.7%と20ポイント以上増加をしている。
JTMが行ったシニア世代調査(*1)で日常における運転の頻度を見ても、生年が1941~45年、1946年~50年、1951年~55年と年代が下になるにつれ、週1回以上運転をしている人の割合が増加。1951年~55年生まれの世代では、約半数が週1回以上運転をすると回答し、ドライブが日常的な行動になっていることがわかる。

ドライブ旅行の可能性

JTMシニア世代調査結果をみると、完全退職をした後に増えると思う旅行形態として、1946年~1950年生まれは男女共に4割以上が自宅から自家用車で行く旅行をあげている。特に女性の回答では、公共交通機関を利用して観光する旅行が27.5%、添乗員が同行して団体で観光地を周遊するパッケージ旅行が28.2%と、顕著な差が見られる。
このような調査結果からも、これから完全退職の時期を迎える団塊世代の女性たちが、これまでのように公共交通機関やバスを利用した旅行だけではなく、自家用車や旅行先でのレンタカーを利用したドライブ旅行を楽しむようになる可能性は高いといえるだろう。

旅行へのプラスの影響

ではドライブ旅行の増加によって、旅行にはどのような影響が生じるのだろうか。
以下に考えられる影響を整理してみたい。

  1. 動線の変化
    まずは動線の変化が生じるだろう。公共交通機関で移動をすれば、鉄道路線で移動できる範囲、及び、目的地の最寄りの駅周辺を中心にした動きが中心となる。しかし、車を利用した場合、高速道路を起点とした動きが増加するはずだ。
    例えば、高速道路料金の1000円化が実施された際には、那須や軽井沢など首都圏から高速道路でのアクセスが良い観光地の入り込み数が増えた反面、伊豆など高速道路からのアクセスがあまり良くない観光地は入り込み数が低迷する現象が起きたが、同じような影響が出る可能性も少なくないと思われる。
    もちろん、現地での行動半径が広がり、公共交通機関では行きにくいような観光地や店舗への立ち寄りも増えるだろう。
  2. 手荷物の大きさに関する縛りが緩む
    次に車の持つ特性、という点で考えてみよう。
    自動車を利用すれば、ある程度大きな荷物を運ぶことも可能となる。たとえばゴルフバッグやバーベキューなど大きな荷物が必要なアクティビティを積極的に楽しめるようになる、旅行先でかさばる買い物でも購入することができる、といった面での変化もありそうだ。
  3. 必要な情報や入手経路の変化また、自分で動く自由旅行ともなれば、現地のローカル情報や、より細かい情報についても、必要性が増すだろう。熟年層でもスマホやSNSの利用が増えるなか、ガイドブックやPCを通じるだけではない、情報提供の仕組みにも変化が迫られるのではないか。
  4. 旅行人数の変化
    更に、ドライブ旅行では人数が増えるほど一人あたりの単価が抑えられる。女性のグループ旅行や複数家族での旅行など、平均旅行人数が増える可能性も考えられる。
  5. 立ち寄りの増加
    JTMが2008年に行ったドライブ旅行実証実験(*2)では、自動車を利用した旅行の場合には公共交通機関を利用した場合よりも予定していない立ち寄りが増えること、多くの場合には、その土地ならではの土産物や食材を購入するために、道の駅や物産館のような場所へ立ち寄ること、パッケージツアーを利用した調査よりも、自分で動ける裁量範囲が大きくなるために満足度が増加すること、などの傾向もあった。

次に、旅行の目的からシニア世代の特徴を見てみる。
JTMシニア世代調査の結果より、旅行の目的として最も多いものは「夫婦で一緒に楽しい時間を過ごす」だった。1951年~55年生まれは1946年~1950年生まれよりも、その割合が高い。これまでの熟年層のように夫だけが免許を持っている状況では、ずっと一人で運転をしなければならず、長距離の場合にドライブ旅行を選択しにくかったと思われるが、もし今後、妻の免許保有率が上昇し、夫婦交代で運転することができるようになれば、増加が見込まれる夫婦旅行でも自家用車の利用が増えることは容易に想像できる。
また、健康への関心が強い最近の熟年女性は体力的にもまだ元気で、アクティブにグループで動くことも珍しくなく、車を活用することで、荷物が多くなるアウトドア系のアクティビティ(ラフティング、キャンプ、ゴルフなど)もこれまでより積極的に楽しむようになるのではないか。

旅行へのマイナスの影響

ここまでは、ドライブ旅行による良い方向への変化を考えてきたが、ドライブ旅行の増加により生じるマイナス面の影響も忘れてはならないだろう。

  1. カーナビゲーションシステム利用による回遊の減少や駅周辺の回遊減少
    例えば、カーナビゲーションシステム(カーナビ)の普及によって、どこに行くにも最短距離を走ってしまい、カーナビの経路以外のところに立ち寄らず、観光地内の回遊が少なくなること、電車やバスの駅周辺に回遊しなくなること、のような問題も当然発生が予想される。
  2. 高速道路のインターから遠い観光地への入り込み減少
    前述のとおり、自動車を利用した旅行では、やはり高速道路での移動が基点となるため、高速道路からのアクセスが良くない観光地については、客足が落ちる可能性もないわけではない。
  3. このようなマイナスの影響に対し、観光地やカーナビメーカー、鉄道・バス会社などと協力し、カーナビ上で観光地を回遊できる魅力的なルートを提供すること、複数の交通手段を組み合わせて、より自由度の高い観光を実現すること、など、マイナスの影響を軽減するような対策を進めていくことが重要なのではないだろうか。

今後増加が予想される熟年世代のドライブ旅行。自動車を利用した移動で可能となる柔軟性の高い旅行に対応し、現地での回遊を促進させる「ローカル情報」や「旬、その土地ならではの情報」「買い物情報」の提供、公共交通機関の利用だけでは、行くことが難しかった新たな観光地や観光施設の開発、パーク&ライドなど複数の交通機関を組み合わせた観光の提案など、旅行会社として提供できる新たな商品の可能性は大きい。

このようにマイナスの影響よりプラスの影響を増加させることで、より満足度の高い旅行を提供し、今後のシニアによるドライブ旅行の可能性を広げること、また今まで旅行会社が把握しきれていなかった潜在的な需要を活性化することが重要だ。

*1 JTMシニア世代調査:

調査実施期間:
2012年2月21日~24日
調査対象:
首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)、愛知県、京阪神(京都、大阪、兵庫)在住の男女で配偶者を持ち、夫の現在の職業が自由業、自営業、農林水産業である人を除く

  • A世代 1946-50年生まれ  男性400名 女性400名  計800名
    (うち完全退職者 男性173名 女性258名  計431名)
    (うち勤務者  男性227名 女性142名  計369名)
  • B世代 1941-45年生まれ  男性200名 女性200名  計400名
  • C世代 1951-55年生まれ  男性200名 女性200名  計400名
調査方法:
オンラインWEB調査
調査内容:
団塊世代を中心としたシニア世代の生活や旅行に関する意識調査

*2 JTM ドライブ調査

調査実施期間:
2008年
調査対象:
首都圏在住の合計20組の参加者
調査内容:
自家用車を用いたドライブレジャーにおける、回遊軌跡、立ち寄り行動、情報収集行動などの把握
調査方法:
GPSによる行動奇跡の把握、インタビューによる行動パターンの把握