ニューツーリズムのマーケットと事業化  ~事業化のための3つの要件~

今、様々な地域の資源を活かしたニューツーリズムに対し地域と旅行会社双方から注目されていますが、どちらの立場にとっても、大きく立ちはだかるのが採算性です。今回はニューツーリズムを旅行商品として、あるいは旅行システムとしての事業性について述べてみたいと思います。(この文章は、トラベルジャーナル誌 2009年3月2日号に掲載されたものです)

中根 裕

中根 裕 主席研究員

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今、様々な地域の資源を活かしたニューツーリズムに対し地域と旅行会社双方から注目されていますが、どちらの立場にとっても、大きく立ちはだかるのが採算性です。採算性とは当然、マーケット(需要)と供給コストが見合うかの問題です。例えばヘルスツーリズムは医療専門家とタイアップし専門性を深めれば、商品としての質が高まる一方で、商品コストが高くなり価格に跳ね返ります。当然その商品を求める需要のパイは狭まり、供給側の地域は限定された需要を捕まえる集客方法に行き詰まることとなります。一方、販売する旅行会社の側としても「誰もが喜ぶ旅行」を数多く売るのは得意ですが、限られた数の特定顧客に売り込む事は得意ではありません。大手旅行会社ならばなおさらそうした質の高い小ロットの商品を多品種にわたり販売せねばならないという大きな壁があります。これは筆者の仮説ですが、地域、旅行会社そしてマーケットが事業としてバランスするためには3つの形態が考えられます。

(1)団体・グループ需要に特化する

「今さら団体旅行か?」と言われるかも知れませんが、即ち教育旅行です。学校単位だけでなくとも企業、団体の研修なども含まれます。以前ご紹介した㈱南信州観光公社は、グリーンツーリズムをあえて教育旅行に絞り、地域内行程の一括受注という事業モデルで成功しています。一方、教育旅行をマーケット(学校)にセールスし、団体・グループ旅行の進行管理を行うことは旅行会社の得意とするところです。地域内の一括受注と販売、行程管理という役割が明確になっている例と言えるでしょう。ただし、各地が教育旅行マーケットに走れば、学校という限られたマーケットに対し、競合関係に陥ることは目に見えています。地域にとって体験学習や教育旅行は、開発当初の事業を軌道に載せるためのターゲットとしては可能性がありますが、将来に渡ってもそのマーケットだけに限定することは疑問符がつくこととなります。 南信州観光公社や大分県の安心院のように教育旅行先として社会的評判を高めながら、その成果や評判を積み重ねながら、並行して個人利用へ拡大する受け入れ体制や地域のビジネスモデルを検討しておく必要があるでしょう。

(2)個人高付加価値商品

ニューツーリズムといってもテーマの多様さだけではありません。同じテーマでも旅行のスタイルや内容で差が出て当然です。もちろん、上辺だけのニューツーリズムを謳っても、地域や旅行者の目が成熟化しているこの時代に長続きはしないので、テーマに対し本物であることは必要条件です。このモデルは「エスコート付き旅行」の再認識だと思われます。単に旅程や旅行管理者としてのみならず、一定の資源や地域の本質に対する知見を有するエスコート役が同行する旅行です。当然、現地での体験指導や専門的解説まで添乗員がこなすことは困難ですから、地域と旅行会社が役割を連携して本物を伝える旅行に仕立てることが必要です。この旅行形態は価格が高くならざるを得ません。しかし資源に対する地域のプロと、旅行全体の楽しませ方に対する旅行会社のプロが連携したエスコート型旅行商品の価値を改めて見直して良いと思います。

(3)個人が選別するニューツーリズムのダイナミックパッケージ

3つめがダイナミックパッケージ方式のニューツーリズムです。ニューツーリズムをテーマとした旅行に対する組み立てを旅行者個人に委ねる方式です。可能性として需要は最も大きいと筆者は思いますが、ニューツーリズムの体験プログラムはもとより、宿、交通、食事等々、選択のバリエーションと一つ一つの質が揃えられるか、そして旅行会社の立場として、従来の手数料ビジネスだけでない事業モデルが打ち立てられるかが課題といえます。しかし旅行する立場で考えると、「旅行を計画する楽しみ」というのは、ニューツーリズムの時代でも変わりません。自分が旅行でどんな体験をしたいか、その時の宿や移動は食事は・・と組み立てるプロセスの楽しみも、この旅行モデルの可能性を示唆しているといったら大げさでしょうか。