消費回復基調のなか今後消費を支えるのは誰か

景気がようやく上向いてきたが、食品など生活必需品の節約消費ムードは変わらない。消費をけん引するのは、借金の少ない高年者層と高所得者層である。そのほかに、消費パワーを持つセグメントの一つとして期待できるのが働く女性である。働く女性をいかに支援していくかが消費拡大や景気回復への一助になるのではないか。

若原 圭子

若原 圭子 主席研究員

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目次

消費が回復傾向

3月、4月の消費動向調査(内閣府)、家計消費指数(総務省)では消費が回復傾向にあることを示し始めた。

3月の景気ウォッチャー調査(内閣府)でも、百貨店の婦人服の売り上げの回復や、エコポイント*1対象の薄型テレビの売り上げ増加が指摘された。薄型テレビは、エコポイントの省エネ基準が4月から改定され、対象機種が絞られた。これにより、絞られた対象機種以外の商品が安く売られるなどしたため、これらを買い求める「駆け込み需要」がみられたものだ。

◆消費者態度指数(一般世帯)
出所:内閣府 消費動向調査

こうした政策効果での耐久消費財への消費に加え、株価の回復もあり、消費が上向いていると考えられる。

*1エコポイント:09年5月から、環境負荷が低いとされる「グリーン家電」を購入すると,商品券や電子マネーなどと交換可能なエコポイントが付与される「エコポイント制度」が開始された。

団塊世代・高所得者層が主役

こうした消費を支えているのは誰だろう。09年は高齢者が個人消費を支えた。世帯主が60歳以上の家計(勤労者世帯)では、実質ベース*2の消費が前年比1.2%増加した一方、30歳未満は7.3%減、30~39歳は1.1%減となった(図)。現在住宅ローンなどを多く抱える若年層に比べて、高年層はローンをすでに返済したなどの理由により借金が少ないことが要因である。09年に薄型テレビを購入したのは中高年の世帯が多い(図)。

また、1200万円前後の階層の消費性向*3をみると、最近3カ月は急速に上昇傾向を示しているという。

*2 実質ベース:名目ベースにインフレ率を加味して補正したもの。名目とはその時その時の時価。
*3 消費性向:個人家計の収入から、税金などの非消費支出を差し引いた残りを可処分所得というが、この可処分所得のうち消費支出にあてられる額が占める比率を消費性向という

図 家計調査からみた年代別のテレビ購入費年間平均値(09年、世帯主の年齢階級別、テレビ非購入者を含む平均)
出所:総務省統計局 家計調査

※09年5月から,環境負荷が低いとされる「グリーン家電」を購入すると,商品券や電子マネーなどと交換可能なエコポイントが付与される「エコポイント制度」が開始された。09年のテレビの支出金額は,前年に比べ実質86.3%の増加となっている。テレビの平成21年の支出金額及び購入数量を月別にみると,制度開始直前の4月に買い控えがみられ,前年同月に比べ減少したものの,5月は大幅に増加し,以降支出金額及び購入数量共に8か月連続の増加となっている。また,平成21年のテレビの年間の支出金額を,世帯主の年齢階級別にみると,50~59歳の世帯が最も多く,次いで60~69歳,70歳以上の世帯となっている。

今後の消費者の方向性

日本では、過去に何回か景気後退期(Recession)がみられた*4が、そうした局面を経験するたびに、消費者はその購買行動を成熟させてきた。それは新たな付加価値をつけた商品やサービスを提供する業態や、いままでにない安売り店、高品質な商品を他にない安値で販売する店舗などを創出した企業側の努力の結果でもある。

野村総合研究所が3年おきに行っている男女1万人の調査によれば、09年の調査では、単に安いものではなく、本当に価値あるものを見極める傾向が強まっているという(図)。また、「事前に情報収集してから買う」「使っている人の評判が気になる」といった、価格が品質に見合っているかどうかを吟味する人が増えている。こうした、「ものを見極める力」(目利き)については、2000年当時の20歳代と07年時の20歳代を年収別に比較した調査でも、収入の多寡にかかわらず、目利きをする方向に大きく変わってきていることが分かる(図)。
*4 近年の不況期 1983年~1985年 1992年~ 2001年、2008年~

出所:野村総合研究所「生活者一万人アンケート調査」(200年、2003年、2006年、2009年)

消費パワーがあるのは誰か

一方、消費パワーが強い層として、働く女性が近年注目されている。日本経済新聞社産業地域研究所が09年11月に全国の20~40代の有職女性に実施した「働く女性1万人調査」によれば、専業主婦と比較して支出意欲の高さが明らかになっている。働く女性は自営業、派遣・契約社員から、一般の正社員・公務員、管理職まで、未既婚者を含めたデータである。これによれば、直近過去1年間のファッション支出、趣味娯楽費ともに有職女性は専業主婦の倍の支出額という結果だった。既婚よりは未婚、子どもがいる人よりはいない人のほうが消費パワーは大きい。

図 消費支出額の状況

◆直近過去1年間のファッション支出

◆過去1年の月間の趣味・娯楽費
出所:日本経済新聞社 産業地域研究所「働く女性が拓く市場」2010年3月


図 ストレス発散や楽しみ(複数回答)

出所:日経産業地域研究所「働く女性が拓く市場」

この働く女性の現状はどうか。厚生労働省が公表した09年版女性労働白書によれば、20代後半から30代前半の既婚女性のうち、働く意欲を持つ人*5の割合(労働力率)が09年時点で約53%と10年前から約9ポイント上昇した。同年代の未婚女性の上昇率は1ポイント未満である。景気後退で男性の給与が減り続けており、家計を助けるために働き始める主婦が増えた模様。30~34歳の未婚と既婚を合わせた女性の労働力率は67.2%と、08年から2.1ポイント上昇した。これは、1年間の上昇幅として比較可能な1968年以降で最大である。年代別の労働力率を結んだ、いわゆる「M字カーブ」*6もなだらかになった。白書によると、女性の雇用者数は2311万人(08年比1万人減)で7年ぶりの減少となった。だが、男性が過去最大幅の減少となったため、雇用者総数に占める女性の割合は42.3%(同0.4ポイント増)と過去最大の割合になった。正社員は1046万人(同6万人増)、非正規は1196万人(同6万人減)。正社員が増えた要因は、介護など医療、福祉分野で正社員雇用が増加したことが大きいとみられている。

図 女性の年齢階級別労働力(未既婚合計)

出所:総務省統計局「労働力調査」

*5 労働力人口:就業者と完全失業者の計
*6 M字カーブ:日本女性の年齢階級別の労働力率(労働力人口/15歳以上の人口)を折れ線グラフにとるとアルファベットの「M」の文字を描いていることを表している言葉。年代によって大きく差が出ている点が特徴で、25~29歳と45~49歳の労働力率が高く「M」の2つの山となり、30~34歳が低く底を描く。その主な背景は、女性が結婚、出産、子育ての期間に一時的働かなくなることにある。保育施設の進んでいる北欧諸国などではこのような出産・育児期の落ち込みはみられず、台形のカーブを描く。

景気後退の局面を何度か経験しながら、消費に対する確とした姿勢を身につけ、さらに高い消費意欲を期待される有職女性が、今後増えてくることが予想される。

消費を支えているのは、前述の通り借金の少ない団塊以上の高年層と、高所得層であるが、さらに消費をけん引する存在として、働く女性に、より注目をしていく必要があろう。そのためには、女性が働きやすい環境整備が、実は消費拡大にもつながるのかもしれない。おりしも育児・介護休業法の主たる改正事項が6月30日に施行される*7。職業生活と家庭生活の両立が縮小した消費を拡大する最大の効果策とも考えられる。
*7:育児や介護をする者に対し、事業主は休業のほか、勤務時間短縮などの措置が義務づけられる。