「新たな観光モデル創出と資金確保の必要性」 ~観光立国実現に向けて、交流型など新モデル模索~

各地域で新たな観光・交流モデルへの模索を続ける一方で、頭を悩ませているのが事業資金の確保だ。財政が厳しい国、市町村の補助金頼みのモデルを自走式のモデルへと切り替えていく必要に迫られている。いくつか例をとって考えてみたい。

篠崎 宏

篠崎 宏 フェロー

印刷する

「新しい友達ができるし、毎日の交流が楽しい。」「体を動かすのが好き、朝が早いのは少しだけ辛いけど。」これは観光客ではなく、みかん収穫作業員の会話である。静岡県浜松市の三ケ日町は、年間3万3,000トン(JAみっかび出荷分)のみかんを生産する日本でも有数のみかん生産地だ。11月~12月に約5,000人のみかん収穫作業員による収穫作業が行われている三ケ日町では、作業員の慢性的な不足という課題に直面している。今までは豊橋の柿農家をはじめとする周辺市町村の農家がみかんの時期になると労働力として収穫作業を手伝っていたが、農家の高齢化が進む中でみかん収穫作業員の確保が少しずつ難しくなってきている。2009年度、ツーリズム・マーケティング研究所がJAみっかびと共同で行った調査では、みかん農家の60.6%が3年後にはみかん収穫作業員を十分に確保できなくなると予想している。一方、アンケートで過半数が「健康的に仕事ができた」「楽しく話をしながら仕事ができた」と答えているみかん収穫作業員の71.9%が、他地域での収穫作業を希望し、そのうち52.1%は1~3カ月程度の滞在を希望している。楽しそうに収穫作業を語るみかん収穫作業員の言葉には、楽しみながら収穫作業を手伝い、休みの日には周辺を観光するという潜在ニーズが見え隠れする。

奥三河(新城市、設楽町、東栄町、豊根村)でも面白い試みが行われている。へぼ(地蜂:黒スズメバチ)に目印を付けた餌を抱えさせ、目印を追って巣を見つける蜂追い体験など2009年度は47名が参加をした短期滞在型の地域体験プログラムに加えて、2010年度は長期滞在型の地域産業支援プログラムを新たに展開する。奥三河を含む8市町村で構成する東三河広域協議会の酒井洋行主任は「2009年度の参加者は、奥三河を再訪し、米や野菜などの奥三河の食材を購入している。参加者同士で連絡を取り合い、奥三河で同窓会を開催するなど奥三河のファンになっていただいた。」と言う。2010年度より新たにスタートする地域産業支援プログラムは交通費を除く滞在費等の参加者負担はない。「大自然の中で奥三河の地域産業を楽しみながら手伝っていただき心も体もリフレッシュしていただきたい。」と酒井主任は語る。

こうした新たな観光・交流モデルへの模索を続ける一方で、各地域が頭を悩ませているのが事業資金の確保だ。財政が厳しい国、市町村の補助金頼みのモデルを自走式のモデルへと切り替えていく必要に迫られている。6月に発表された政府の新成長戦略では、資金の流れを変え国民が支える公共を構築することをうたっており、資金確保という面からも新たなモデルへの模索が始まる。2008年度のイギリスの年間の寄付総額は日本円に換算して約1兆3,000億円(UK Giving2009)と日本の年間個人寄付総額の10倍以上もあり、これらの資金が様々な社会活動を支えている。ツーリズム・マーケティング研究所でも複数の自治体担当者の参加のもとに立ち上げた「観光の新たな財源研究会」にて新たな観光財源モデルの議論を重ねている。観光が21世紀の日本経済をけん引するためには、新たな観光モデルおよび財源モデルの構築を早急に実現する必要がある。


出典:日経MJ 2010年7月12日掲載のコラムを加筆したものです。