最近の円安傾向および消費増税(2014年施行)の旅行・レジャー消費への影響について

2012年末より続く円安・株高により、旅行やレジャー消費への関心も高く、旅行各社が発表した2013年のゴールデンウィークの旅行動向は好調の見通しである。リーマンショック後に、「節約志向」や在宅型の「巣ごもり消費」を背景に旅行者数が減少したことは記憶に新しいが、今後1年、旅行・レジャー意欲は維持されるか、消費者調査などからまとめた。

波潟 郁代

波潟 郁代 執行役員 企画調査部長

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目次

1.現在の景気の見通しについて、「明るくなった」30.8%、「どちらでもない」41.4%。今のところ旅行・レジャーへの関心は高く、この春の旅行支出への意向は近年の同時期比で最も高い

当社が今年3月に実施した調査では、景気の見通しに関しては、「どちらでもない」が41.4%と最も高く、「明るくなった」は30.8%だった(図1)。3月期末の各産業の企業業績が平均して上昇し、またいくつかの企業が賃上げや期末成果配分を実施しているが、2013年度の設備投資は微減で企業の姿勢はまだ慎重なのが伺える。生活者が景気回復の実感を得られるのは、参院選が終了し、政府の政策や企業業績の影響が反映される夏から下期以降と考えられる。

一方、今後の旅行支出意向では、昨年および東日本大震災前の2010年の調査と比べても「支出を増やしたい」は25.1%(前年比+12.4%)と大きく伸長し、過去数年で最高の基準となった(表1)。JTBが発表した2013年GWの旅行動向でも国内旅行がけん引して過去最高の旅行者数となる見込みである。海外旅行については、韓国、中国への旅行の落ち込みはあるものの、日並びが良くなく、長期休暇が取得しにくい割には、ハワイは好調、欧州は前年並で、過去2番目に高い水準だ。行き先の変更はあっても、今現在の旅行・レジャーに対する消費マインドはここ数年の中で高いといえよう。

2.海外旅行は円安傾向の中、急な需要減にはつながっていない。現在の円安傾向では、海外旅行者は「回数を減らすよりは現地での消費を節約する」回答が多い。下期は状況が多少変化する可能性も

2月までの出国者数を見ると、国際関係により中国、香港、韓国への渡航者が前年を大きく割っており、回復にはしばらく時間がかかりそうだ。韓国はこれに加え、円安に転じてショッピングのメリットが薄まり、お買い得感の減少が出ていると思われる。特に昨年同時期に大幅に人員を伸ばした20代が戻ってきていない。

一方、昨年同時期比で1米ドル10円以上円安が進んではいるが、旅行各社のハワイの上期の先行数値は、概ね好調に推移している。欧州についても昨年同時期比より10円円安だが人数は増加している。2006年当時の為替レートと出国者数とを比べてみても、現在はまだ完全な円安とはいいきれず、海外旅行商品の需要が大きく減少するという状況はまだ見えてこない。調査では、現段階では多くが「回数を減らすよりは現地での消費を節約する」と海外旅行自体には意欲的な回答をしている。

下期以降については為替レートやホテルの価格次第で海外旅行に多少影響が見られる可能性がある。デフレが続いた日本と違い、以前から海外のホテルは消費者物価の上昇とともに料金は上昇傾向にあり、また既にアメリカ本土や中国などからの旅行者増による仕入の国際間競争も激化していることもふまえ、旅行関連各社の価格の設定に今後注視したいところだ。また、近年近場のシェアが高かったが、国内旅行が好調なことから、中国・韓国旅行から国内シフトも考えられる。

現在の為替レートについての考え方を聞いたところ、2010年以降の海外旅行の経験数が4回以上と高い人でも、1米ドル80円台に戻ることを望む声は極めて少なく、概ね35%以上の人が100円以上を望んでいた(図2)。生活者心理としては、足元の海外旅行で円高のメリットを享受するよりも、勤務先の業績の向上が結果的に生活を豊かにすると考えている人が多く、1ドル100円前後ならば海外旅行の大きな阻害要因にはなりにくいと思われる。

3.消費増税前の耐久消費財などの購入は、12月以降から本格化すると見込まれる。旅行消費は、行けるうちに「早めに行きたい」

2014年4月施行の消費増税について、「増税前に購入したいものは?」という問いに対して、約半数が「今のところない」と答えている。また、「現在欲しいものは?」という問いに対しては、「国内旅行」、「観戦・ライブ」「健康」といわゆる「コト消費」への関心が高い結果となった。これらの購入時期は上期から秋に集中している。一方、PCや家電など耐久消費財の購入時期については12月以降の回答が多かった。また円安による生活品の値上げや高級ブランド品の値上げも広がっており、下期以降は徐々に「値上げ前の今のうちに商品を購入したい」という動きが加速しそうだ。しかしながらエコポイント制度(グリーン家電普及促進事業)や地デジ化が記憶に新しく、「今買い替えなければ」という気持ちになりにくいこと、また、2014年4月以降は自動車取得税が減税(2015年10月に廃止)されるなど、減税措置も用意されていることから、購入したい商品は限定的で、個々人の買い替え時期の都合次第とみられ、下期以降の旅行への影響は一時的に見られても、その間、景気回復が安定的になれば軽微といえるだろう。

4.「モノ」から「コト」へ、消費者心理の移り変わり

ここ最近の旅行・レジャーへの関心の高まりは、これまでの景気低迷の中、長い節約生活に疲れ、また「今購入しないといけない」と耐久財の購入に背中をおされ続けてきた結果、「こころの充足感が得られるコトへの欲求」が現れたとみることができないか。図5が示すように、総務省の「家計調査」によると、「宿泊料・パック旅行費」は、リーマンショック後「家庭用耐久財」や「教養娯楽用耐久財・耐久用品」と比較して支出額は前年を大きく割り込んだ。しかしながら、東日本大震災をボトムに再び上昇し、前年同時期比を上まわりつつある。一方、「家庭用耐久財」および「教養娯楽用耐久財・耐久用品」の支出は、エコポイント効果もあり、リーマンショック後は旅行支出より速やかに前年を超え、回復を見せたが、震災以降、2011年末から現在にかけては、旅行支出と比べて回復は遅れ、支出額は依然ほぼ前年割れの状態である。生活者の心理としては「最新のモノ」でなくても満ち足りた生活が送れると感じ始め、「コト」への関心が高まっているのかもしれない。

前述の図3のとおり、2000年以降、保険料引き上げ、ガソリン代金上昇、そしてIT普及による通信費など家計支出はアップし、可処分所得は減少傾向にある。しかしながらインターネットの普及で旅行商品の比較が容易となり、航空運賃も当時より遙かに自由な設定が可能である。格安なLCC の運航も増えて、消費者の選択肢は当時より大きく広がり、完全退職して時間ができた団塊世代など旅行に関心を持ち始める人も増えている。
現在の政府の政策が功を奏し、より多くの企業業績が上がれば、株価上昇による資産の増加や給与・賞与が増額され、生活者にも景気回復の確かな手ごたえが広がる。足元では消費増税や円安など一時的な旅行への影響は多少見られるかもしれないが、その先には再び生活者は「こころの充足感が得られる消費」へと気持ちが動き、引き続き旅行消費は堅調に進むと考えられる。

<出典:図1、2、4>
JTB旅行動向調査「消費税引き上げと円安が旅行に与える調査」

調査実施期間:
2013年3 月15 日~18 日
調査対象:
首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)、中京圏(愛知、三重、岐阜)、関西圏(京都、大阪、兵庫、奈良)在住の男女で、2010 年1 月1 日以降に、観光目的で

  1. 海外旅行に行った人630 人
  2. 海外旅行には行っておらず、国内宿泊旅行に行った人630 人 計1,260 人
調査方法:
インターネット調査

<出典:表1>

調査地点:
全国200地点
調査実施期間:
2013年3月4日~16日
調査対象:
全国15歳以上79歳までの男女個人
サンプル数:
1,200名
調査内容:
2013年4月25日から5月5日に実施する1泊以上の旅行
(海外旅行を含み、商用、業務等の出張旅行は除く)
調査方法:
調査員による質問用紙を使った個別訪問調査
いずれもJTB総合研究所が実施