第1回JTB総合研究所「旅行マーケットセミナー」第一部「旅行マーケットの現状」

JTB総合研究所主催の旅行マーケットセミナーを2014年9月9日(火)に東京駅近くのフクラシア東京で開催しました。セミナーは二部構成で、主催者挨拶に続く第一部として、弊社主席研究員の黒須 宏志が「2013年から2014年の旅行マーケット状況」の説明を行いました。

黒須 宏志

黒須 宏志 フェロー

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目次

【第1回 JTB総合研究所 旅行マーケットセミナー レポート】

JTB総合研究所主催の旅行マーケットセミナーを2014年9月9日(火)に東京駅近くのフクラシア東京で開催しました。セミナーは二部構成で、主催者挨拶に続く第一部として、弊社主席研究員の黒須 宏志が2013年から2014年の旅行マーケット状況の説明を行いました。

続く第二部では、年代や性別を超えたひろがりを見せる「ひとり旅」や20代の若者における旅行回帰、更には海外旅行の予約早期化・カジュアル化といった昨今の現象をふまえ、マーケティングライターの牛窪 恵氏、WILLER GROUP代表取締役の村瀬 茂高氏、弊社取締役コンサルティング事業部長の小里 貴宏をパネリストとし、黒須のコーディネートのもと、「旅行マーケット変化の予兆を捉える」と題するディスカッションを展開しました。

第一部「旅行マーケットの現状」

【トピック1】足元の消費動向と今後の旅行市場

2014年4月の消費税増税後の個人消費の回復の遅れがにわかに懸念され始めている。国内旅行需要は2011年以降、3年連続のプラスで推移してきたが、今夏の旅行動向はお盆前後の台風の影響などで不振と伝えられている。個人消費が国内旅行需要に及ぼす影響は大きいと考えられるため、今後アップデートされてくる夏季市場のデータを慎重に見極めて行く必要がある。

旅行支出は引き続き堅調

景況の改善で就業人口は拡大しており2014年春はベースアップの実施された企業も少なくなかった。その一方で増税などによる物価上昇によって実質賃金は前年割れが続いている。これが個人消費に関する懸念材料となっている。こうした状況ではあるが総務省の家計状況調査に基づく旅行関連支出は6月にプラスに回復しており、他消費に比べ堅調な推移となっている(図1)。

図1

旅行コスト上昇で需要はどうなる

旅行市場の先行きを展望する上で今後の懸念材料のひとつは旅行コストの上昇だ。この2年ほど、観光性の国内宿泊旅行の単価は60歳以上と20代では上昇傾向にあるが、勤労者層を中心とする30代から50代の単価は下がっている(図2)。マクロにみると旅行需要の拡大はこれまでほとんど平均単価の下落局面で起きてきた。旅行コスト上昇局面において、コスト意識の強い勤労者層などと、既に単価上昇が起きているシニア層や若年層とでは、違った展開となる可能性もあるだろう。

図2

消費支出の旅行部門へのシフト

足元の旅行市場には若干の不透明感が存在するものの、やや大局的にみれば旅行消費への追い風が吹いているといえよう。長らくマイナストレンドにあった旅行支出は2010年前後を境に反転したとみられる。(公財)日本生産性本部の「レジャー白書2013」によれば、この数年で旅行を再開した人が増えているという。この数年間における旅行需要の拡大はこうした変化を背景としていたのではないかと推測され、中期的にみればこのトレンドが継続していく可能性がある。

【トピック2】不調が続く海外旅行、要因は?

国内旅行が好調に推移する一方で、海外旅行は不振が続いている。主な要因は中韓方面への旅行者数減少と円安だが、これに加え、(株)JTB総合研究所が実施した2013年の海外旅行市場調査では、これまで市場の核として底堅い成長を続けてきた旅行値が高く旅行頻度の高い層が大きく減少したことが明らかになってきた。

シニア需要にも停滞感

先行回復の兆しを見せていたシニアが足踏みしている。これは団塊世代(1947年~49年生まれ)の出国率が加齢によって徐々に落ちてきたことがひとつの要因と疑われている。実際、2013年に65~69歳であった世代の観光目的の海外旅行者数が過去15年間にどのように変化してきたか、法務省の出入国管理統計の数値をもとに推計した結果によると、男性、女性とも、2013年の旅行者数はこの世代が60代前半であった5年前(2008年)より減少している(図3)。団塊世代の旅行需要に関しては、高単価の旅行など特定の需要は今後も更に伸びる可能性があるものの、マクロにみた観光性の旅行者数に関しては、既に需要のピークを過ぎた可能性がある。

図3

地方発需要に減速感

消費増税後の個人消費は地方で不振と伝えられている。これを反映するかのように、今夏の海外旅行市場では地方の観光性需要が不振とみられる。また2014年4月の羽田空港の再拡張に関しても、2010年の供給拡大時に比べ、需要押上げ効果が小さかったと推定される。

【トピック3】ひとり旅、FIT、早期予約の増加

(株)JTB総合研究所の調査によれば2013年の海外旅行市場では旅行の質的な変化を示唆する幾つかの動きがみられた。

シニアでもひとり旅が増加

その筆頭に挙げられるのがシニア層におけるひとり旅の増加と夫婦旅行の減少である(図4)。この背景には女性の就業率が上がり、経済的・社会的な自立が進んでいることがあるのではないかと考えられる。欧州などシニアに人気が高く、夫婦旅行が一般的と考えられてきた方面でも、じわりとひとり旅が増えている。

図4

FITのオンライン早期予約に顕著な伸び

2013年の市場ではパッケージが大きく減った一方でオンラインのFITが一人勝ちの様相となっている。また出発2か月以上前に予約する早期予約へのシフトが顕著だ(図5)。予約の早期化はオンライン予約の容易化や早期割引の導入などサプライヤーや旅行会社の戦略が影響した結果と考えられるが、それだけでなく、旅行者の考え方や休みの取り方といった消費者の側の変化も関わっているのではないかと推測される。例えば早期予約をした旅行者の間では定期的に旅行すると決めている人が増える傾向にある。

図5

【トピック4】若年層で進む旅行回帰

旅行意欲は高い若年層

1990年代半ば以降の若年層における旅行離れ若年層における旅行ばなれは、2008年のリーマンショックと2011年の東日本大震災を挟んでプラスに反転したと考えられている。目下、海外旅行は不振が続いているが、全国大学生活協同組合連合会の調査によれば、大学生の国内旅行参加率は2013年も継続して上昇している。また海外旅行でも10代後半、20代前半の出国率は90年代のピーク時を上回る水準に達しており(図6)、若年層の市場は旅行離れが騒がれた頃とは様変わりしたといえるだろう。

図6

旅行回帰の背景は意識の変化か

若年層の変化は経済面などより意識の変化に注目する必要があると考えられる。海外留学を義務化する大学も増えている。旅行は「お金をかける価値のあること」だという考えが広がっていると思われる。住友生命保険相互会社が2014年8月にリリースした「自分への投資」アンケートでは、自己投資の筆頭に旅行が挙がっている。

【まとめ】

市場の現状を踏まえると、ツーリズム業界の観点では次の4点が重要ではないか。

  • 旅行コストの上昇局面に対応した自社の利益を確保、事業を成長させる戦略が求められている
  • シニア市場戦略の総点検が必要ではないか
  • ひとり旅、FITのオンライン早期予約の増加といった市場変化に関しては、世の中の変化を先読みした戦略が必要
  • 若年層を将来の市場と位置付けたマーケティング戦略が必要

また社会の変化という観点では次の点に留意し、先を読んでいく必要があるのではないか。

  • 女性の就業率上昇、転職の一般化といった就労環境の変化によって個人の自立性・独立性が高まっており、これが休暇の取り方や旅行スタイルを変える力になっている可能性がある
  • 今後の都市・地方間の格差の拡大が将来の旅行市場に大きな影響力を持つ可能性がある
  • “何らかの”大きな社会的変化が旅行消費に追い風となっている可能性があり、それを見極めることがビジネスにも役立つだろう(答えはひとつではない)

以上

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