2014年サッカーW杯ブラジル大会からスポーツ世界大会の影響力を考える

プロスポーツが充実してくると、それに憧れ草の根の層が充実され、その裾野の拡大がトップアスリートの発掘・育成につながるといった相互影響の関係になってくる。またサポーター等の地域交流を発生させ、スポーツツーリズムを発展させ、地域振興へとつながっていく。日本にとっても、2020年東京オリンピックをどう位置付けていくのかが重要だ。

山口 祥義

山口 祥義

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7月に開催されたサッカーW杯2014ブラジル大会はドイツの4回目の優勝で幕を閉じました。今回の特徴として、コスタリカの奮闘などを除き、概ねいわゆるビッグネームが最終的には勝ち抜いていくことが多かったように思います。ベスト16からベスト8を決める8試合は、グループリーグ(予選)の1位と2位が戦うようになっていますが、今回はすべて1位チームが勝ちました。波乱が起きやすいサッカーというスポーツでは意外な感じがしました。ブラジルは準決勝でドイツに7対1という考えられないスコアで沈み、さらに失意の下で出場した3位決定戦もオランダに3対0で破れました。ワールドカップ開催に対する抗議運動もあったブラジルですから、サッカー王国として、開催国優勝が義務付けられていたようなものでした。これで、2年後のリオデジャネイロ・オリンピックが開催に向け順調に推移するのか不安な部分が出てきたように思います。

今回の大会で、私が驚いたことの1つにアメリカの盛り上がりがあります。アメリカは、ご存知のように、野球(MLB)、バスケットボール(NBA)、アメリカンフットボール(NFL)、アイスホッケー(NHL)が4大プロスポーツで絶大なる人気を誇っています。野球も優勝決定戦をワールドシリーズと称し、アメリカンフットボール、バスケットボールも他の国々が追随できない、排他的とも言えるレベルの高さを誇っています。アメリカにおいてサッカーは、点が入らない、刺激が何もないスポーツだと揶揄されてきました。ところが、今回のアメリカ対ベルギー戦、約2,200~2,500万人がテレビを視聴し、それ以外にも多くの人がパブリックビューイング(PV)に出かけたようです。昨年のワールドシリーズ最終戦の視聴者が約1,900万人。今回のベルギー戦を下回っており、隔世の感があります。サッカーアメリカ代表は、年々強化されてきたとは言え、まだワールドカップの中では中堅のチームをあれほどの熱気で応援したのです。これは、もともとアメリカ自体が愛国の感情を多く抱く国民であることから、勝つか負けるかわからない真剣勝負のサッカーでナショナルフラッグを掲げて応援する喜びを知ったからと考えられないでしょうか。そして、その普及に大きく寄与したのが、1994年のアメリカ自国開催だったと思います。ちなみに、まだ出場経験のなかった日本が、ワールドカップ出場に最も近づき、そして最終決戦イラク戦ロスタイムに失点して予選敗退した、あの「ドーハの悲劇」の先にあったのがアメリカ大会でした。その後アメリカでは、1996年に10クラブによるメジャーリーグサッカーMLSが発足しています。現在MLSは、まだ開幕して20年程度ですが人気は着実に上がってきているようです。

この現象に見られるように、プロスポーツが充実してくるとそれに憧れ夢を見る草の根の層が充実されていく。そしてその裾野の拡大がトップアスリートの発掘・育成につながるといった相互影響の関係になってくるものと思います。日本においてもスポーツの裾野の拡大とプロスポーツの充実は大きく相関関係があり、文部科学省のスポーツ基本計画においても、「トップスポーツの伸長とスポーツの裾野の拡大を促すスポーツ界における好循環の創出」と記されています。そして、サポーター等の地域交流を発生させ、スポーツツーリズムを発展させ、ひいては地域にとっての誇りとなり地域振興へとつながっていくのです。
このように考えていくと、2014年サッカーW杯ブラジル大会の次に2016年にリオデジャネイロ・オリンピックの開催があることは、それをどのように国家や地域の発展に生かしていくのかといった視座が重要になってくると思います。イギリスは、2012ロンドン・オリンピックの後に2015ラグビーワールドカップが開催されます。オリンピックレガシーを存分に生かしたものになると思います。そして、日本は、アジアで初めて開催される2019ラグビーワールドカップそして2020東京オリンピックです。日本で開催されるラグビーワールドカップは、全国10~12程度の地域で開催されることになっています。翌年の東京オリンピックに向けては、様々な地域でキャンプなど直前合宿が開かれることでしょう。そしてオリンピック開催国には多くの注目が集まり、インバウンドの数も急増しています。日本でも、2013年に初めてインバウンド1,000万人を超え、2020年には2,000万人を超える方向となっています。企業にとっても、こうしたムーヴメントへの対応が極めて大切な状況となっています。

また、日本にとって、2020年東京オリンピックをどう位置付けていくのかが重要です。1964年東京オリンピックは、右肩上がりの経済復興の象徴でした。首都高速、新幹線、モノレールなどなど高度経済成長期におけるインフラ整備の起爆剤としての位置づけでした。人口はまだまだ増加する見込みであり、高齢者のシェアは小さく、生産人口がどんどん巨大化している時代でした。衛星中継が始まったことも大きな節目でしたし、技術立国に日本を大きく世界にアピールしました。

さて、今回はどう位置付けたらいいのでしょうか。総務省統計局や国立社会保障・人口問題研究所によると、日本の人口が2010年の12,806万人を境に減少に転じ、約30年後には1億人を切り、50年後には8,000万人、70年後には6,000万人と予測されています。従属人口指数といった指標をご存知でしょうか?

従属人口指数(%)=
【(0~14歳人口+65歳以上人口)/15~64歳人口 】×100

簡単に言うと、生産人口1人に対し、何人の年少者や老年者がいるかといった数字です。言い方を変えると、現役世代がどれくらいその前後の世代を支える構造になっているかという数字です。これは、1955年には63.1%(1.6人で1人を支える)が、2050年には92.8%(1.1人で1人を支える)になる推計(2012年1月人口推計)となっています。これは、マーケットが収縮することに加え、労働力が大きく不足していくことを意味し、国家的にも財政をどう支えていくのか年金は大丈夫なのかといった問題に直面します。

経済は成熟し、人口は減少・従属人口比率は上がる一方です。実質的な生産人口を増やすにはどうすればよいでしょうか。一つは外国人の受け入れをどうするかといった課題があります。労働力不足が叫ばれる介護や中小企業の現場で、どのように受け入れていくべきか、どのように共生していくべきか、といった課題は特区で議論が進んでいます。そして、もう1つは、高齢者の目安をもっと後ろにずらすことです。1964年東京オリンピック時代の60歳は相当な高齢者ですが、今となっては元気な若者と変わらないと言っては言い過ぎでしょうか。例えば、現在の高齢人口の入り口とされる65歳を75歳とすることは可能かどうか、こうした取組みを行う中で、草の根スポーツを浸透させ、健康寿命を延ばし、心身ともに充実した余暇を過ごしていただくことが大切になってくるように思います。このためにも、様々なスポーツイベントを通じて、自ら実践して楽しむ環境をつくっていくことが大切です。形は、様々な形があります。プレーする。観戦する。ボランティアとして参加する。支援する。もてなす。

少子高齢化対策の優れた政策ミックスの実現や事業成功例の構築を行っていけば、世界のリーディングケースとなっていくわけです。今後、地方でも社会減を防ぎ、社会増や交流事業策を構築していく地域が増加していくと思われますが、これもまた成功すれば地域発の世界のモデルとなっていくことになりましょう。

皆さんは、2019年ラグビーワールドカップ、2020年東京オリンピック、さらに2021年ワールドマスターズゲームと続くこの流れをどのように位置づけ、活かしていくべきだと考えますか。そして、企業や国民は、どのように向かい合うのでしょうか。国民的議論が求められていると思います。