奥尻島将来への2つの礎事業~サービス経済化による新たな資金循環モデルの構築~

各地域で資金循環モデル構築への挑戦が行われている。産業構造において第三次産業であるサービス産業の比率の増加が起こると資金循環が大きくなる。2014年に奥尻ムーンライトマラソンを開催し、新たな資金循環モデルの構築に挑戦している奥尻島を紐解いていく。

篠崎 宏

篠崎 宏 執行役員 主席研究員

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目次

各地域で資金循環モデル構築への挑戦が行われている、第三次産業、第二次産業、第一次産業の順で付加価値が大きく、産業構造において第三次産業であるサービス産業の比率の増加、すなわちサービス経済化が起こると資金循環が大きくなる。2014年6月14日、北海道南西沖地震の津波被害から21年目を歩みだした奥尻島で奥尻ムーンライトマラソンが開催された。第一次産業が落ち込む中、奥尻島はサービス経済化による新たな資金循環モデルの構築に挑戦している。

1.奥尻島の概要

奥尻島は自然豊かな北海道の離島であり、離島最北限のブナの森、稲作、ぶどう畑、ワイナリーなどの地域資源が数多く存在し、西部では源泉掛け流し神威脇温泉が湧出する。主な産業は漁業および観光、四季折々の島ならではの日本海の海の幸や山菜が豊富でアワビは通年、夏期にはとれたてのウニやイカを味わうことが出来る。島の主要産業は漁業で、観光業がこれに続く。
1993年7月12日の北海道南西沖地震の津波により大きな被害を受けた奥尻島は5年後には完全復興宣言、その後順調に震災前の生活を取り戻すかに思えた。しかし、主産業である漁業が低迷、1993年には人口4,679人であったのが2013年には2,978人にまで減少している。

2.国際収支における旅行収支と知的財産等使用料収支

観光を日本全体でみてみると、日本人一人あたりの宿泊数が2.35泊、訪日外国人旅行者数は1,036万人と比較的好調に推移している。国際収支におけるサービス収支でも旅行、知的財産等使用料はここ数年、比較優位性が高まっている。旅行収支は44年ぶりに単月黒字、通年ベースでの黒字化も現実のものとなりつつあり、知的財産等使用料収支も黒字幅を大きく広げている。オリンピックに向かって、日本の経済社会がより高度化・成熟化していく中で、旅行と知的財産等使用という2分野は、第一次産業や第二次産業さえも巻き込む形で、日本経済におけるサービス業の比率を上昇させ、サービス経済化をさらに加速し、今後の日本経済の構造を大きく変える可能性がある。

3.奥尻島将来へ2つの礎事業

JTB総合研究所は2013年から「奥尻島将来への2つの礎事業」(観光基盤強化、奥尻ブランド商品化と特産品販売の強化)のアドバイザーとして、島と一体となって、観光をベースとした奥尻島のサービス経済化により第一次産業、第二次産業の底上げを図り、国の政策支援(マクロ)と企業活動(ミクロ)を融合した地域エコシステムとしての新たな資金循環モデルの構築を試みている。本事業はひとつの離島の応急処置的な事業ではなく、想定される日本の将来課題への解決モデルを作り出すための事業でもあり、まさに日本社会の30年後の縮図と言われている離島から日本社会の未来発展型モデルが生み出されるのである。

◆奥尻島将来への2つの礎事業概要

◆事業推進のポイント

  • 奥尻島経済のサービス化による新たな資金循環モデルの構築
  • 地域成功事例の知的財産モデル化
  • 交流型および離島連携型モデル
  • ミクロモデルのマクロ化
  • 財源基盤の確立

4.新しい知的財産モデル、ムーンライトマラソン

ムーンライトマラソン連携協定

前夜祭では伊平屋村長・奥尻町長によるムーンライトマラソン連携協定の締結がなされ、参加者には、めかぶそば、うに汁、奥尻米、たこ飯、焼あわび、奥尻ワインカクテル、伊平屋島の泡盛をシークワーサーで割った照島パンチなど島の特産品が存分に振る舞われた。参加費10,000円の40%以上を食材費に充てるという歓待ぶりである。レース当日の沿道には多くの島民が詰めかけ、地元の小学生たちが作成全戸配布をした小旗を振りながら声援を送り続けた。沖合からはイカ釣り漁船がランナーを漁火で照らし、船上では漁師が大漁旗を振ってランナーを応援した。ゴール後にはランナーは秘湯・神威脇温泉で汗を流しながら全島を挙げての応援の素晴らしさを語り合った。
参加者の19%が年間のマラソン参加数10回以上の猛者にもかかわらず、「漁火の応援に涙が出た」「今までのマラソン人生で最高の大会」など、史上初の北と南の離島の共有財である奥尻ムーンライトマラソンは次回の参加意向が72.0%、奥尻島滞在の満足度89.0%という好結果をもたらした。

5.大成功に終わった奥尻ムーンライトマラソン

奥尻ムーンライトマラソンスタート風景

ムーンライトマラソン連携協定前夜祭では伊平屋村長・奥尻町長によるムーンライトマラソン連携協定の締結がなされ、参加者には、めかぶそば、うに汁、奥尻米、たこ飯、焼あわび、奥尻ワインカクテル、伊平屋島の泡盛をシークワーサーで割った照島パンチなど島の特産品が存分に振る舞われた。参加費10,000円の40%以上を食材費に充てるという歓待ぶりである。レース当日の沿道には多くの島民が詰めかけ、地元の小学生たちが作成全戸配布をした小旗を振りながら声援を送り続けた。奥尻ムーンライトマラソンスタート風景[/caption]沖合からはイカ釣り漁船がランナーを漁火で照らし、船上では漁師が大漁旗を振ってランナーを応援した。ゴール後にはランナーは秘湯・神威脇温泉で汗を流しながら全島を挙げての応援の素晴らしさを語り合った。
参加者の19%が年間のマラソン参加数10回以上の猛者にもかかわらず、「漁火の応援に涙が出た」「今までのマラソン人生で最高の大会」など、史上初の北と南の離島の共有財である奥尻ムーンライトマラソンは次回の参加意向が72.0%、奥尻島滞在の満足度89.0%という好結果をもたらした。

6.2014年度「奥尻島将来への2つの礎事業」

2014年度は、奥尻ムーンライトマラソンの他に、以下のような取り組みがある。

(1)観光基盤強化

旅行商品の造成、販売:

◆トヨタ財団とのタイアップ視察プログラム事業の実施

トヨタ財団タイアップ視察の受け入れは、8月末現在で11団体91名に達している。東日本大震災地域から15団体選ばれており、そのうち11団体が奥尻に来島していることになる。

◆冬期SIT型商品の販売

テーマを野鳥、写真、日本酒、温泉とした冬期のSIT型商品の販売を行う。同時にタイアップする組織団体および旅行会社への営業強化を行い、奥尻島観光協会の営業サイクルのPDCAを確立する。

財務・経営基盤の強化:

◆月次報告による入込客および観光体験プログラムの地域経営管理

今年度より奥尻島観光協会による月次報告を翌月10日までに行っている。「月次報告→対策」という流れはできたが、さらにリスクをヘッジするためには「先行受注状況分析→対策」が必要である。企業経営では当たり前に行われていることが営業数字の分析手法が地域経営に定着しつつある。

◆観光財源基盤の強化

ふるさと納税の取組強化を実施した。8月からふるさと納税のホームページをリニューアル、単月で昨年度の1年分でもある約300万円の寄付を集めた。下期には入島税検討のための審議会を立ち上げる予定である。

学びの提供:

◆奥尻防災学校事業構想

奥尻島の震災関連施設として津波館が挙げられるが、津波館は展示中心の構造になっており、スペースがないため語り部を活用した座学が出来ない。あわせて語り部等の人材が集ってノウハウの交換ができないため知識から知財への転換が行われていいない。将来に向かって震災経験を語り継ぐための拠点として下記にて奥尻防災学校の事業構想を検討する。

  • 語り部を中心とした人的資源の拠点づくりと座学スペースの確保
  • 防災教育による教育旅行の受け入れおよびチームビルディングなど企業研修への応用
  • 4~5月、10月~12月のオフ期対策として研修の受け入れ
  • 廃校等の既存施設の利活用
  • 知識から知財への転換と継承

◆奥尻高校での第1回課外授業の実施(平成26年4月15日 有限会社ゲンベイ商店 中島広行氏)

奥尻高校全生徒の前でゲンベイ商店・中島氏がゲンベイ商店の歴史とビジネス展開について授業を行った。過去には煙草ビジネスにも手を出し失敗したことに生徒も驚きの表情を隠せなかった。
新しいプロモーションの試み:

◆ビーサンクールビズの実施(奥尻島観光協会)

昨年度に引き続き奥尻島観光協会関係者によるビーサンクールビズを実施した。次年度以降はさらに夏の奥尻島の認知度を上げるために奥尻島観光協会関係者以外に広げる予定である。

(2)奥尻ブランド商品化と特産品販売の強化

高橋知事との記念撮影

◆奥尻島・島ビーサンコンテストの実施

昨年に引き続き奥尻高校による島ビーサンデザインコンテストを開催した。今年度は北海道・高橋知事に奥尻高校生がデザインをした島ビーサンを贈呈すると同時に札幌丸井三越で販売体験も行っている。町長、校長も同行しており、海士町などが実施している高校の魅力化の第一歩を踏み出したと言える。

  • 島ビーサンデザイン作成(奥尻高校) 4月20日~5月20日
  • 島ビーサンデザインコンテスト(札幌三越) 6月3日~10日
  • コンテスト上位3つの島ビーサン販売(札幌三越) 7月2日~9日
  • 奥尻高校生体験販売(札幌三越) 7月8日
  • 奥尻高校生知事表敬訪問&ビーサン贈呈(北海道庁) 7月8日

◆奥尻米の販売

離島最北限の米である奥尻米の販売を行い、2合パック×300個が夏休みシーズン前に完売をした。あわせて今秋には「ふっくりんこ」以外に新たな銘柄として「ゆめぴりか」「ななつぼし」の2種類を増やし、2合パック×1,000個の仕入れを行う予定である。

◆奥尻の地酒

今年度より休耕地を利用して酒米の作付けを行った。9月に収穫した酒米と奥尻の水を栗山町の小林酒造へ送り、来年3月には奥尻酒が誕生する。奥尻島は、飲酒による地域経済の破たんを恐れ明治時代に禁酒令を施行した歴史を持っている。

7.まとめ

21年前の北海道南西沖地震の震災復興期を除いては、観光は観光関係者、漁業は漁業関係者と分かれており、一体感をもった取り組みが必ずしもなされていなかった。奥尻ムーンライトマラソンの実施により観光サイドと漁業サイドの垣根が低くなり、共通の目標に向かって取り組もうという一体感が増している。サービス経済化により第一次産業の限られた地域資源に付加価値をつけ、地域住民が一体となって地域エコシステムを構築することは離島が個性的に生き残るための不可欠な取り組みである。そのためには、創造的なビジネスセンスに長けた人材を育成する必要がある。「奥尻島将来への2つの礎事業」により、これからの奥尻島の将来を背負って立つ人材が出てくることを期待して、これからも時間がある限り奥尻島へ赴き地域住民の総力を挙げた取り組みを支援していきたい。