「2020年に向けたスポーツツーリズムへの期待」~MICE Japan 2014・6月号より再掲~

【MICE Japan 2014年6月号より再掲】2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて、訪日観光振興と共にスポーツ合宿の話題が沸騰している。各国のアスリートが来日して行う、スポーツ合宿はMICEのカテゴリーでいえば「Event分野」であるが、今回この「E」分野とオリンピックについて取り上げてみたい。

太田 正隆

太田 正隆 MICE戦略室 主席研究員

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目次

本コラムは株式会社MICEジャパン社様のご厚意により、当社主席研究員・東京国際大学客員教授の太田正隆コラムがMICEjapan2014年6月号に寄稿いたしましたコラムを再掲します。

2020年に向けたスポーツツーリズムへの期待


2020年 東京オリンピック・パラリンピックに向けて、訪日観光振興と共にスポーツ合宿の話題が沸騰している。スポーツ合宿とは、2020年のオリンピックへ参加する各国のアスリートを、日本への気候、食事等の環境に順応させるべく、早目に来日して合宿を行うことである。MICEのカテゴリーでいえば「Event分野」である。Event分野はすそ野が広いが、今回はMICEではあまり語られることの少ない「E」分野とオリンピックについて取り上げてみたい。

はじめに

学生時代にスポーツ合宿へ参加したことのある人は多いだろう。種目に関係なく通常の練習場所と異なる土地へ行き、種目に相応しい施設を利用して長期間に渡り練習を行う。集中して練習に臨むことで、スキルやチーム力等を強化することが主な目的である。

例えば、陸上競技系の種目であれば競技場が整備されていて、部員数を受入可能な宿泊施設があり、気候が涼しいなどの条件を満たせば十分であろう。合宿から帰るとチームワークやスキルが格段に強化されたような気持になり、競技会等への参加に対して真摯に向き合って好成績を残した方々も多いと思う。

これがオリンピック等の国際大会であれば、競技を行うにあたり、競技への集中には相当の努力が必要であろう。一流のアスリートであっても四年に一度のチャンスに向けて最高のパフォーマンスを可能とするためには、スキルアップトレーニングやメンタルトレーニング以外に、現地の気候、食事、環境などへ慣れて体調を整えることは至難なことであるに違いない。競技だけに集中し最高のコンディションを維持し、当日に爆発的な力を引き出すための環境づくりは、ナショナルチームを率いる指導者や関係者にとっては重要なことである。スポーツ合宿は大きな選択である。

スポーツ合宿

2008年8月8日に北京において、東京、ソウルに続くアジアで3回目のオリンピックが開催された。報道によると開幕1ヵ月前には25ヵ国以上、17種目の選手団が日本に立ち寄り、北京オリンピックに向けた最後の調整等を行っていたとある。当時この報道をみて、スポーツ合宿の開催地調査を行って判ったことは、欧米を中心にアジアへの天候や食事等の不安と、スモッグ等の排出による空気汚染等の影響を考慮し、ほぼ同じ緯度で食事や環境が似ているアジアの中でも日本を選択して、直前の調整を行ったこということである。
いわゆる「安全・安心」を選択したのである。欧米だけではなく、エジプト(レスリング)、ジンバブエ(水泳)、チュニジア(水泳)といったアフリカ大陸もある。
陸上、体操、サッカー、水泳、柔道、カヌーなど種目も多岐に渡り、北海道から九州まで広範囲であった。(別表・図参照)

(出所・新聞、雑誌等の記事を参考にコンベンション総合研究所作成)

(出所・新聞、雑誌等の記事を参考にコンベンション総合研究所作成)

競技種目の施設特性

全体に陸上競技が多く17ヵ国以上、次いで水泳競技が9ヵ国、柔道6ヵ国、カヌー4ヵ国、ボート3ヵ国、ソフトボール2ヵ国、サッカー・レスリング各1ヵ国(調査時、福岡は複数誘致のため詳細不明)となっている。競技に必要なインフラから見てみると、陸上
競技場が必要な陸上競技が最も多い。陸上競技場だけではなく、こうした施設には国際的な規格や公認制度といったルールがあるため、単に練習のための施設というだけでは必ずしも的確な施設とは言えない。概ね各県には一ヵ所以上の国際規格に合致した施設がある。(出所・主な陸上競技場データ)

次に水泳を見てみると、競泳用では長さ、水深、ロープ、スタート台、高飛び込み用を始め細かなルールが設定されていることと、公認や国際公認は基準が異なる。(出所・国際日本水泳連盟)同様に種目ごとに細かな基準や国際基準があるため、必ずしもそれぞれの種目に合致した施設があることと、スポーツ合宿の適正とは一致しない。各競技に必要な施設基準等は、各競技団体で発表しているので参考にされたい。

陸上競技や水泳競技のような一般化している競技では、施設についても数が多いことと全国に分布している。しかしながらカヌー、ボートといった比較的特殊な競技は、全国規模で設置されているわけではなくその数は少ない。従って、選択肢は狭いことでスポーツ合宿を誘致するとなれば、競争率は高くなる。オリンピックには射撃種目があるが、国内では競技で利用可能な施設が少なく、前回、1964年の東京オリンピックでも使用された自衛隊朝霞駐屯地内のライフル射撃会場を2020年にも使用する。射撃にもエアピストル、ピストル、ライフル等さまざまな種目があり、種目によっては全国に点在している施設もある。

個人競技と団体競技

競技種目には水泳、体操、柔道等のような個人競技と個人競技者が集まって団体種目を構成している種目や、サッカーやソフトボール等の団体競技と大きく分かれている。個人種目中心の場合、必ずしも選手団が全て参加しなくても練習等が成り立つが団体種目では全員集まる必要があるため、宿泊や食事などのインフラには十分な質と収容数が必要である。また、いずれの競技も個別のトレーニングの他に練習相手が必要になる。調査では、柔道競技について全日本クラスの部員がいる大学での合宿例があった。

柔道の場合には、本番さながらの練習も必要であるが、申し合い稽古(技を掛ける側と掛けられる側を予め決めておき、主に技を掛ける側の練習を目的とする練習手法)があり、必ずしも全日本クラスが相手でなくとも十分な練習になる競技もある。

サッカーのような団体種目では、個人の練習は走り込み等ウォームアップ程度であり、フォーメーションプレー等に重きを置く場合には、あまり弱小なチームが練習相手にはならないことと、チーム構成がプロ中心でありレベルが格段に異なるため、地元での練習相手の供給は困難と思われる。

誘致の理由

近年、世界陸上競技選手権大会(1991年/東京・2007年/大阪)、世界体操競技選手権大会(1995年/福井県 鯖江市・2011年/東京)、世界水泳選手権大会(2011年/福岡)、ユニバーシアード大会(1985年/神戸・1995年/福岡・1991年冬季/札幌)、アジア競技大会(1994年/広島)など、個別の世界大会や学生の国際大会など多くの競技が日本で開催されている。こうした実績が積み重なって、日本のおけるスポーツ合宿への期待や受入への信頼が高まってきていることも事実である。調査では2007年の世界陸上(大阪)の際に、直前合宿を行った国が再び2008年の北京オリンピックでの直前合宿のために同じ地域を希望したり、逆に市区町村による積極的な誘致活動を行った結果合宿地に選定された例が多かった。

また、変わった例では北京オリンピックで使用される器具をもっていることで、体操競技の合宿地に決まった例もあった(ドイツ・新潟県 加茂市)。また、中東の選手団が、2007年世界陸上(大阪)での事前合宿の際に、現在では一般的なっている「ハラールメニュー」を提供されたことの印象が強く、ベストな状態で臨めるという理由から2008年北京大会直前の合宿地になった例もある(バーレーン・山形県 上山市)。

競技指導者が、日本人のケースもある。日本の選手団ヘッドコーチがギリシャ代表コーチと兼任していたボート競技(岩手県 花巻市)、ブラジルの柔道ナショナルチームの監督(千葉県 勝浦市)等。また、姉妹都市となっていたドイツ・ハイデルベルク市を活かし、またJOCのパートナー協定や世界女性スポーツ会議の誘致など、多方面から誘致活動を行ったドイツ陸上チーム(熊本県 熊本市)。アイルランドの陸上チームは、島根県 松江市で合宿を行った。これは、怪談などで有名な小泉 八雲(ラスカディオ・ハーン)が、幼少時にアイルランドで育ったこともあり、従来からアイルランドとの交流があったため、2007年の世界陸上に続いて北京オリンピックの直前合宿に繋がっている。
誘致が成功する特効薬はないが、合宿地として決定された理由にはさまざまな理由やきっかけがあることが判る。もちろん、今後の動きや体制は不明だが、2020年東京オリンピック・パラリンピック組織委員会への相談やアプローチ等の方法もない訳ではないが、決め手にはならないと思う。

オリンピックと文化・芸術

国際オリンピック委員会(IOC: International Olympic Committee)は、関連機関との連携を強化し、オリンピック教育をさらに推進していくために、2000年に文化・オリンピック教育委員会を設立しました。IOCが、オリンピック・ムーブメントにおける中心的な活動としてオリンピック教育を位置付ける、としている。(出所・IOCホームページ)

オリンピックは、スポーツだけではなくカルチュラル・オリンピアードを推進している。オリンピック・パラリンピックの開催国において文化プログラムの一環として行われているプログラムである。期間は前大会終了後から次の大会開催までの4年間で、文化・芸術に関わるパフォーマンスや展示、舞台公演、伝統的スポーツなどが行われる。

1912年ストックホルム大会から実施された芸術競技は、ミューズの五種競技と呼ばれ、建築、彫刻、絵画、文学、音楽の5部門で、題材が直接スポーツに関係したものであった。1936年 ベルリン大会の芸術競技の絵画部門で、日本人画家の藤田 隆治が『アイス・ホッケー』、水彩画部門で鈴木 朱雀が『日本古典競馬』という作品で、それぞれ銅メダルを獲得している。(出所・冬季オリンピック大会におけるオリンピック教育の実践に関する調査)

スポーツのみならず、オリンピックには文化芸術活動も求められている。2012年ロンドン大会では、「London 2012 Festival」が開催され、前後約三ヵ月に渡り、多様な文化芸術イベントがロンドンを中心に開催された。また、開催までの4年間に渡り、イギリス全土でオリンピックにからめた文化・芸術イベントが各地で開催されていたという。

まとめ

2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックへの期待は大きい。開催は東京が中心であるが、サッカー予選(横浜、埼玉、仙台、札幌)や、射撃(埼玉県 朝霞市)、ルフ(埼玉県 川越市)と他地域でも開催される。

さらには、上記で述べたようにスポーツだけではなくオリンピックレガシーとして、オリンピック・パラリンピックを開催する都市には文化・芸術分野も行うカルチュラル・オリンピアードを推進することとなっている。

スポーツ合宿のみならず、こうしたカルチュラル・オリンピアードにも目を向けて、MICEの「E・Event」も推進して頂きたい。スポーツには、「するスポーツ」、「観るスポーツ」、「支えるスポーツ」と三つあるが、併せてカルチュラル・オリンピアードにも参加することをお勧めする。

参考