観光地マーケティングにおいて日本のDMOが注力すべきこととは

日本では、観光協会や観光関連団体のマーケティング予算の「見える化」がされていない場合が多くみられます。マーケティング活動の効果やKPI達成への取り組みの公開など、「見える化」を行っていくにあたり、現在登録が進みつつある日本版DMOはどのようなことに注力すればよいのか?アメリカのDMOやBrand USAの公開情報を元に、デジタルマーケティングに対する取組について紐解いていきます。

渡邉 浩良

渡邉 浩良 主任研究員

印刷する

目次

はじめに

日本では、観光協会や観光関連団体のマーケティング予算の情報開示があまり進んでおらず、他者と比較しようにも、どのようなプロモーションをどの位の費用をかけて行ったかが分からないことが多い。

費用対効果(Return on Investment)や透明性(Accountability)を重んじるアメリカでは、マーケティング活動の効果やKPI達成への取り組みが公開され、「見える化」が進んでいるように感じる。スマートフォン一つで旅行先の情報収集や予約購入、決済まで行えるデジタル時代の今、従来のマーケティングとは異なる取組が必要となっているが、現在登録が進みつつある日本版DMO(1)はどのようなことに注力すればよいのか?

本稿では、アメリカのDMOやBrand USA(2)の公開情報を元に、デジタルマーケティングに対する取組について言及していく。

Brand USAのプロモーション活動におけるオフラインからオンラインへの移行

日本政府観光局(JNTO)に近い組織である米国のBrand USA(公式名称:The corporation for Travel Promotion )をみると、オフラインからオンラインへのシフトが分かる。Brand USAは国別重点14市場に対するプロモーションに関する支出を、2014年度から2015年度 にかけてオンライン関連の支出を45%から63%まで増加させた(図1)。

世界最大のDMO組織であるDestination Marketing Association International(所在地:Washington D.C.)が北米の大小200以上のDMO(State、City単位等)にアンケート調査をした結果をみると、北米のDMOにおいて、プロモーション予算に占めるオンライン比率(ウェブサイト、ウェブ広告等への支出割合)の増加傾向は顕著である(図2)。

なおBrand USAのプロモーション財源は外国人渡航者からの電子渡航認証システム料+民間からの財源で賄っており、国内のDMOでも議題に挙がり、DMOの財源にもヒントとなるであろう(図3)。

さらに、Brand USAのマーケティング予算の決定プロセスが興味深い。マーケティングに関わる予算は市場の重要度や顧客がアメリカへの旅行購入に至るプロセス(カスタマージャーニー)上での位置づけからプロモーションチャネルが選定され、予算が分配されている。幅広く収集したデータをもとに何を測るか?どうやって測るか?どのくらいの頻度で図るか?を規定した上でKPIを設定しており、KPI達成を測る指標はそれぞれ測定内容、手法、データニュースソース、頻度を定めて、定期的な結果検証ができる形となっている(図4・5)。

Brand USAのメディア投資額の構成比

(図1)Brand USAのメディア投資額の構成比

アメリカのDMOのマーケティング活動におけるオンライン・オフライン比率

(図2)アメリカのDMOのマーケティング活動におけるオンライン・オフライン比率

(図3)Brand USAの財源スキーム

(図3)Brand USAの財源スキーム

(図4)Brand USAの予算配分ステップ

(図4)Brand USAの予算配分ステップ

(図5)Brand USAのマーケティング活動に関するKPI

(図5)Brand USAのマーケティング活動に関するKPI

日本のDMOに必要とされるデジタル人財

Brand USAや、アメリカのDMOの観光プロモーションの領域でオンラインへの取組が進んでいることが日本のDMOに示唆するものは何か?

デジタル環境の進化による影響は広告費の削減といったコスト面だけでない。リアルタイムで打ち手への反応を測り、分析することによって、マーケティング活動は大きく変わり得る。従来の紙媒体やテレビといったマス媒体へ向けたプロモーションでは活動に対する反応を知るのに、数カ月単位の時間を要していたが、オンライン上ではよりスピーディーな活動が可能となる。

インバウンドという言葉が市民権を得て地域間競争が激しくなってきている今、DMOには地域や日本に来た旅行者に対する取り組みだけでなく、どうやってターゲットとする市場から旅行者を取りに行くか?という姿勢が一層必要とされると考える。

さらにDMO内部において、販売を担う旅行業界とのB to Bマーケティングに長けた人はもちろん必要だが、猛烈な勢いで進化するデジタルに対する取り組みの強化(人財育成やモバイルへの対応強化)をすることで、地域にいながらも効率的なマーケティング活動を可能とし、競合との競争を優位にするものであると考える。