実践の段階に移行するDMOのマネジメント

「DMO(Destination Management /Marketing Organization/ディスティネーション・マネジメント/マーケティング・オーガニゼーション)」は、地域の観光振興の中心的な役割を果たす組織として、現在注目を集めています。本稿では、特にDMOに求められる「地域の観光振興のマネジメント」について、考察したいと思います。
*本コラムは、株式会社九州経済研究所が発行する「KER経済情報2017年8月号」に掲載された原稿を、許可を得て再掲するものです。

中野 文彦

中野 文彦 主任研究員

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目次

1. 地域の観光振興を担うDMO

皆さんは「DMO」という用語をお聞きになったことはあるでしょうか?
DMOの事例は欧米豪等の海外には多くあるのですが、我が国では観光庁が「日本版DMO」の登録制度を2015年11月にスタートさせました。2017年7月の時点で、日本版DMO候補法人」としては、全国に145の法人が登録され、九州地方では19法人が登録されています。
「日本版DMO」には、複数の都道府県に跨がる「広域連携DMO」、複数の市町村に跨がる区域を一体とした観光地域とする「地域連携DMO」、単独市町村の区域を対象とした「地域DMO」の3種があります。鹿児島県では、地域連携DMOとして大隅広域観光協会(仮称)、(一社)あまみ大島観光物産連盟、(株)やさしいまち、地域DMOとして(株)薩摩川内市観光物産協会の4団体が登録されています。

図:九州地方における日本版DMO候補法人(2017年7月現在)
※赤枠…地域連携DMO(複数市町村),青枠…地域DMO(単独市町村)
出典:観光庁資料より筆者作成

2. DMO候補から、正式なDMOを目指して

我が国のDMO制度は、「候補法人登録」という名称が示す通り、現在は「候補法人の登録」にとどまっています。「2020年までに世界水準のDMOを全国100法人形成する(明日の日本を支える観光ビジョン(平成28年3月)」という目標に示される通り、現在の「日本版DMO」は形成段階として位置付けられ、2020年までの期間の取り組みを通して着実に成果を創出し、正式な「日本版DMO」として認定されることを目指しています。
正式な「日本版DMO」として認定されるために、登録段階において作成した「日本版DMO形成・確立計画」に基づいた確実なマネジメント(取り組むべき事項の進捗と成果を示すこと)が求められます。
特に、初期段階に形成されたDMOは、形成から1年半以上を経て、計画に示した事項が進捗できているかチェックし、成果はもちろんのこと、反省点や改善点を整理・分析し、次の展開へと地域の観光振興の舵を取る、もしくは先導することが重要になります。

3. DMOがマネジメントする対象とは?

では、DMOがマネジメントする対象とはどのようなものでしょうか。
世界観光機関(UNWTO)の観光のテキストである「A Practical Guide to Tourism Destination Management」に示されている「VICEモデル」を用いると、マネジメントすべき対象は以下の4点に整理されます。

  1. Visitor=観光客、それ以外にも出張やMICE目的来訪者
  2. Industry=観光産業をはじめ農林漁業、伝統工芸等のその地域の産業
  3. Community=住民、行政組織
  4. Environment and Culture=自然及び歴史的な環境や文化

出典:「A Practical Guide to Tourism Destination Management」UNWTO(2007)

マネジメントというと漠然としますが、DMOが取り組むべき事項と考えると、より分かりやすくなります。もちろん、その地域がこれまでどのように観光に取り組んできたのかによって、将来像(GOAL)や解決すべき課題は様々です。例えば、宿泊客が中心の温泉地、観光客ばかりでなく出張等で多くの方々が訪れる地方都市、これまで観光客が訪れることは少なかった農村部等によって、取り組むべき内容は異なります。
地域の観光振興は、こうした地域の特色を踏まえながら、観光振興の在り方をそれぞれの地域が主体的に考えていくことが重要になります。DMOはそうした計画づくりとその実践の中心的な役割を果たすことを期待されています。

現在、初期に登録された「日本版DMO候補法人」は、既に形成・確立段階から実践の段階に移行していきます。この実践の段階においては、DMOは他者を巻き込まないと進展しない成果のマネジメントという、難しい舵取りを求められます。
例えば、前述のVICEモデルの内容を見ても、DMO自身が主体的に実践できることばかりではなく、地域の観光産業や行政、時には住民等へのマネジメント力を発揮しなければならないことが分かります。
観光庁が日本版DMOに求める「多様な関係者と協同しながら、明確なコンセプトに基づいた観光地域づくりを実現するための戦略を策定するとともに、戦略を着実に実施するための調整機能」(観光庁Webサイトより)とは、こうしたマネジメント機能を指しているのです。

表:VICEモデルによるDMOのマネジメント対象の整理例

4. 事業計画と事業報告づくりのススメ

DMOに期待されている、他者をも巻き込んだマネジメント力を発揮するために、筆者が重要と考えるのは、インプットとアウトプットをしっかりと把握・整理すること、具体的には「事業計画(インプット)と事業報告(アウトプット)」です。
DMOのマネジメントは、限られた予算、要員、時間の中で、理想(目標)に向けて、どのように歩を進めていくのか(事業計画)であり、また、どれくらいの予算と時間をかけた結果、何が進んだのか・進まなかったのかを整理し、次の展開に向けた取り組みを明らかにすること((事業報告)にあります。
DMOは、形成・確立計画の中で年度ごとの目標数値を設定していますが、DMOのマネジメントはともすればこの目標数値の達成・未達成によって評価されてしまいます。しかし、達成・未達成の評価だけでは理想ばかり追いかけて進捗していなのと同じで、マネジメントとは言えません。
DMOは、観光による地域振興の中心となる組織として、マネジメントの対象とそれに対して行った取り組みをしっかりと把握・整理し、公開することが重要であり、そうしたプロセスをしっかりと継続することによって、理想(目標)に対して着実に役割を果たす組織となりえるのではないかと考えます。

また、事業計画と事業報告を外部に公開することも重要です。これは、地域内の関係者への情報共有(特に課題の共有)といったコミュニケーションの一つとして重要であるばかりではありません。DMOの事業計画と事業報告がWeb等で公開すれば、政府関係者、DMOの実践者、研究者等は必ず目にします。さらに、地域の課題解決を共に考えるようになることも期待できます。
これは、地域の課題を地域だけで抱えるのではなく、全国の専門家達とつながりながら課題解決していくといった、新しい展開につながるのではないかと考えます。