「地方創生」の成否を担う大学の可能性

昨年から巻き起こった「地方創生」の波を受け、全国各地で観光振興を通じて交流人口を増やし、新規産業を創出、さらにはインバウンドを迎い入れる環境整備の推進によって地域活性化を果そうという様々な動きが生まれています。こうした一連の地方創生政策の成果を生み出すには、地域内外の様々な智慧を取り入れ、それらを融合させ新たな「知」を生み出し、さらには地域を担う「地域経営人財」が活躍するための具体的な「場」と「ノウハウ」が必要となります。地方創生の実現に向けて、筆者は教育研究を通じて「ノウハウ」を開発するとともに、新たな知を生み出す具体的な「場」として大学をはじめとした高等教育機関の存在を改めて見直す必要があると考えます。本稿では、地方創生の成否を担う大学の可能性について考察します。

吉田 賢一

吉田 賢一 主席研究員

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目次

1.大学を取り巻く現状

これまで、改革が叫ばれながらも、大きく変動することがなかった大学業界を取り巻く環境は、平成17(2005)年1月の中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」がターニングポイントになったといえます。この答申では、「1.世界的研究・教育拠点、2.高度専門職業人養成、3.幅広い職業人養成、4.総合的教養教育、5.特定の専門的分野(芸術、体育等)の教育・研究、6.地域の生涯学習機会の拠点、7.社会貢献機能(地域貢献、産学官連携、国際交流等)」のいずれかの機能の整備が迫られ、各大学は一気に改革の潮流に翻弄されることになったのです。
 現在780ある大学のうち、法人格を問わず経営難の大学は市場から退場せざるを得ない状況が年ごとに強まっています。大学業界という法制度で仕切られた市場では体質的に情報公開が遅れざるを得ないことから、官民を問わず注入できる資金の種別や金額が限られ、再生できるチャンスを失する懸念が高まっています。

少子化の影響で18歳人口の減少は平成18(2006)年以降に加速化しており、平成14(2002)年の118万人が、平成30(2018)年以降は100万人の大台を割り込む可能性が高まっています。こうした状況の中で、国立大学ではCOC+など「文理融合」と「地域貢献」による再編を見通した新学部設置等学部再編が進みんでいます。一方で、東京23区内では大学の定員抑制など、これまでとは明らかに異なる、外部環境の変動による新たな動きがみられます。既に私立大学では募集停止や最悪の場合、廃止に至った例も出て来ています。
 こうした中、観光分野を含めた「地域指向の大学・大学院」は平成28(2016)年度で321あり、フィールドワーク等の現場での教育を重視するタイプや、地域づくり・リーダーの育成するタイプが大半を占めているということからも、もはや地域とのつながりは、大学にとって必然の要素ともなっているのです。

「地方創生期における地域経営のあり方に関する調査研究」(2017年度)

出典:株式会社ジェイティービー経営企画部「地方創生期における地域経営のあり方に関する調査研究」(2017年度)

2.「機能的資産」としての大学の可能性

大学は長きにわたり「知の拠点」として、さまざまな地域発展の取組について地元自治体と連携・協働を図りながら、研究教育の成果を地元に還元することをその使命としてきました。ところが総論において自治体と大学とが協定を締結し共同事業を実施し得たとしても、各論では連携するに足る政策課題が見つからなかったり、あるいは対応すべき大学側のリソースが不足していたりなど、その評価は必ずしも芳しいものではありませんでした。
 そうした中で、地方創生期に入り、地域活性化に向けて自治体がまとめる「総合戦略」の策定や、ビッグデータの利活用に向けた教育プログラムの提供、地域起こしを担う人材育成などに大学が関与するケースが増えています。大学側としては、地域経済の衰退や人口減少といった課題に挑むことで、大学のブランド力を高め、厳しさを増す経営環境に対応するポジショニングに意義があるのです。一方で地域にとっては、大学の関与の仕方により、限られた資源の選択と集中的な投下が可能となることで、その結果、よりいっそう地方創生の確度が高まることとなります。

ここで重要なことは、これまで「象牙の塔」に籠っている大学に振り回されてきた感のある地域側が、地方創生を好機として、改めて大学を地域の資源としていかに有効活用し得るかという視点です。
 そこで大学を資源として捉えるにあたり、3つのタイプがあることを示しておきます。
 第一に、※1「人的資源」です。いうまでもなく全国の大学には優れた約307.6 万人の研究者・教育者、学生たちが日々研鑽しており、さらには彼らを支えるバックオフィス機能を担う約24 万人の大学職員がいます。彼らの中には高度職業人教育を受けた優れた人材が増えており、その資源としての可能性は極めて大きいのです。
 第二に、「物的資源」です。これは、キャンパスと、そこに配置された実験棟、図書館、博物館、各種施設等のことであり、建物面積で約7482 万平方メートル、土地面積約15 億平方メートルの規模があります。※2本来の目的とは異なっていても、例えば使用されなくなった実験棟を起業支援のラボとして利用するなどそのハード面での利活用の可能性は極めて高いのです。
 第三に「情報資産」です。これは財務諸表等では反映されてこなかった知的財産等※3の無形財産であり、適切なUSR( University Stakeholder Relations + University Social Responsibility)戦略の展開こそが、情報を「資産」として生かせることを意味しているのです。例えば大学が保有する研究成果や特許等の既存データに加え、検討中の研究シーズも含めたあらゆる大学内部の情報・データが重要な「情報資産」として活用できる可能性があるのです。欧米ではデータに基づく政策立案/EBPM(Evidence Based Policy Making)が主流となりつつあり、データ解析から地域のステークホルダー間の調整まで大学が果たせる役割はますます増えているのです。そのためには学内情報を収集し数値化、可視化して、それらを評価指標として把握し、さらにその分析結果を教育研究、学生支援から法人の経営管理まで広範に活用するIR(Institutional Research)の機能が重要となります。

筆者はこれらのこと上を踏まえた上で、第四の類型としてとして、新たに「機能的資産」という捉え方を提起したいと考えます。これまでは上記3つの資源を個別に捉えるのみでしたが、これらを複合的に組成し一定の課題に対するソリューションを導き出していくことが、「機能的資産」の考え方なのです。すなわち「機能的資産」は、大学における人材や研究シーズの組成による新たな学際的研究体制、地域社会との連携体制など多様な資源の合成による取組活動として作用するのです。
 しかしながら、こうした資源を解析し、合成していくためには、極めて鋭敏で大局的な目利き力が必須となります。そのためには大学を活用する地域側においてこそ、多様な人材を登用し彼らをネットワーク化してつなげ、そのパワーを引出す行政のエンパワーメント力がより重要となってくるのです。
 政策経営や地域経営といった言葉が多く語られ始めたのは2000年の地方分権化後のことであり、その流れの中で、主として政策立案を担う地方自治体職員像の転換が求められてきました。地方分権化の進展に伴い、地域の課題解決は「統治」によるのではなく、行政、民間そして市民が「協働」して解決をする「ネットワークガバナンス」の時代を迎えたといえるのです。そこで地方創生では、行政や民間の枠を超えて地域の潜在力を引き出していくような経営を担う人材としての位置づけが求められているのです。観光振興で焦点となっているDMOにおける人材も、まさにこの文脈で位置づけられているといえます。

※1 出典:『学校基本統計調査29年度(速報)』
 ※2 出典:『第64回 日本統計年鑑(平成28年)』「第25章教育」(なお、国立大学の建物面積は大学のみの数値であり、教育・研究施設、図書館、体育施設、支援施設、宿泊施設、附属学校、附属病院、管理施設、設備室等としている。(文部科学省大臣官房文教施設企画部『平成26 年度 国立大学法人等施設実態報告書』p.15)
 ※3 2010 年度以降の大学等における特許権実施等件数は堅調な伸びを示し、2015 年度までの5 年間で約2.4 倍に増加し、2015 年度は前年度比9.9%増の11,872 件であり、特許権実施等収入額も同様に伸び、同5 年間で約1.9 倍に増加している など、大学の知的財産は着実に新たな収入源として大学財政に寄与している(特許行政年次報告書2017 年版」p.77)

3.地方創生に相応しい地域と大学の連携のあり方

地域と大学とが向き合う具体的なパターンは、「個別事業」と「協定締結」とに大きく分けられます。
 現在、地方創生を境に、従前からある個別事業での連携にとどまらず、幅広い分野に係る包括的連携を模索する「協定型」の連携が増加傾向にあります。協定は明文化されることで対外的な説明責任や、行政の内部での意思決定の根拠としての役割を果たし、連携推進を後押しする効果が期待されています。大学のパートナーとなる「地域」も自治体だけではなく、地方銀行や有力企業等へとその幅が広がっています。しかしながら「協定型」の連携は総論になりがちとなり、具体的なレベルでは明確な成果が見出し難くなっていることも事実です。このようにこれまで自治体や企業等と大学との連携は、個別であれ協定であれ、それぞれが互いに「One to One」で、対等な関係の構築を基本としてきました。
 これからの地域連携や産学連携は、自治体や企業等地域の側で、様々な大学の研究成果や教育プログラム等を組織的かつ体系的に検討し、自身の課題解決に相応しい大学の組み合わせを生み出していく「One to Multi」の関係が重要となります。※4まさにこうした関係にあってこそ、「機能的資産」としての大学の意義があるといえるのです。例えば神戸大学では科学技術イノベーション研究科を立ち上げ、文理融合を図るべく科学技術のシーズを社会実装するところまで文系の教員と連携し取り組むスタンスを取っています。また、「One to Multi」を効率的に実現するために、大学側も機能統合を図る動きがあります。指定国立大学法人の認定による「京大モデル」は、関西ティー・エル・オーと、京都大学イノベーションキャピタル、京大オリジナルの3つの会社を束ねるホールディングス(HD)を立ち上げることとしています。※5
 平成31(2019)年度に向けて、国では在学中や卒業後に地方に住む機会を増やし、人口の東京一極集中の是正につなげるために、政府は地方の大学の活性化に向け、30(2018)年度から新たな交付金を導入する方針を示しています。※6まさに地方創生の次の段階において、ブーストアップするための具体的な「ロケットエンジン」として、この政策を位置づけることができます。
 従って地方創生の努力を結実させるためには、地域の側が自主的に、大学の持つ各種「資源」を総合的に評価した上で、自らに合った形でコーディネイトし、利活用を図っていく仕組みの構築を実践することにおいてこそ、新たな地域活性化の可能性を見出すことができるのではないでしょうか。

地域と大学との連携

※4 参考:白井達郎, 平成29年度産学連携サービス経営人材育成事業・シンポジウム・セミナー基調講演「産学連携による経営サービス人材育成の可能性」(平成29年9月22日)配布資料
 ※5 日経新聞電子版(平成29年9月5日)
 ※6 日経新聞電子版(平成29年8月22日)