日本版DMOの運営の在り方

2017年11月、41の日本版DMO候補法人が正式な日本版DMOとして登録されました。 日本版DMO登録制度が2015年11月に創設され2年を経て、いよいよDMOは新たな段階へと進んでいます。今後、DMOは新しい観光地経営組織としてどのような運営を行っていくのでしょうか。

中野 文彦

中野 文彦 主任研究員

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目次

1.41の第1弾日本版DMO

2017年11月末に、41の日本版DMO候補法人が正式な日本版DMOとして登録されました。これにより、日本版DMO登録制度に登録されている法人は、日本版DMO法人が41、日本版DMO候補法人が133、合わせて174法人という状況になります(図1)。
今後の日本版DMOの潮流は、DMOとしての役割・機能を担おうとする法人の候補登録の拡大と、DMO候補法人として活動実績を積み重ねてDMO登録を目指すといった質的な充実の双方が図られていくと思われます。

日本版DMO登録数の推移

図1 日本版DMO登録数の推移

出所:観光庁資料よりJTB総合研究所作成

2.正式登録のポイントは?

ここで、DMOが、候補を外した正式なDMO法人となるために、何が重視されるのかを考えてみたいと思います。
これらは観光庁が「日本版DMO登録要件」「日本版DMO登録要件の充足状況に係る判断基準」として明示しています (図2)。
候補法人申請の段階でも、この要件と判断基準は全く同じです。ただし、候補法人の段階では登録要件の中に「今後該当予定」の項目が存在しても良い、とされていますが、正式登録の際には全ての要件、基準を満たしていることが求められます。

日本版DMO登録要件

図2 日本版DMO登録要件
出所:観光庁日本版DMOウェブサイト


※より詳細な基準は「日本版DMO登録要件の充足状況に係る判断基準」に示されています。観光庁HPを参照ください。(http://www.mlit.go.jp/common/001203030.pdf)」

しかし、正式登録の際に重視されるのは要件や基準を満たしているかどうかだけではありません。要件や基準に対して、実際に何をしたのかという「プロセスの実績」も非常に重視されます。
 筆者が関わったDMO(正式登録)の例をご紹介しましょう
 このDMOでは、国内・訪日外国人双方の宿泊客増・滞在日数増等の目標を掲げ、ターゲットを絞って様々な取り組みを行っています。以下に一部をご紹介します。

  • 戦略の進捗状況の確認・見直し(PDCA)等を行うために、宿泊、商店街、森林管理業、漁業、交通、金融など地域の多様な関係者によって構成されたボードメンバー(理事)を中心に、総会、理事会、第三者会議(有識者会議)といった、議論・意思決定の会議を頻繁に開催している。
  • 目標達成に向け、これまでの誘客宣伝手法を見直す議論を行っている。これまでの手法からWeb等のデジタルマーケティングの方向にシフトする。さらに高付加価値の体験プログラムづくりにチャレンジする等、新しい取り組みに意欲的に取り組む機運が地域の中で生まれている。
  • 地域で取り組まれているまちづくり、観光事業開発、誘客宣伝、新規施設整備等のほとんど全てにDMOが関わる等、多様な関係者との合意形成、理解促進に向けた取り組みを実施している。

こうした「プロセスの実績」は、DMOが年1回観光庁に提出する「事業報告書」に記載されます。地域のマネジメントをしっかりと果たす取り組みを丁寧に行っているかどうかも、登録要件の状況とともに、正式登録の際に求められるのです。

3.DMOの安定的な財源確保の在り方は?

DMOの運営にとって、もう一つ重要な項目として「日本版DMOが自律的・継続的に活動するための安定的な運営資金が確保される見通しがあること」があります。
 ここで、DMOの収入源の実態を見てみます。観光庁のHPで公開されている日本版DMOの形成・確立計画を基に、情報が公開されている39件のDMOについて整理しました(図3)。
 39件のDMOの中で平成29年度の段階で行政財源比率が50%未満のDMOは12件(31%)、行政財源比率が50%以上のDMOは27件(69%)と、行政財源をDMO運営の基盤としているDMOが多いことがわかります。

単位:件
図3 日本版DMOの収入源(平成29年度実績)
出所:日本版DMOの形成・確立計画より筆者作成

しかし、この状況が認められないかといえば、決してそうではありません。行政予算を運営の基盤とするDMOも、行政の予算にただ依存しているというわけではない点に着目する必要があります。DMOでは、これまでの実績や地域の実態に合わせ、様々な方策で安定的な財源確保が検討されているからです。
具体的な例をいくつかあげてみましょう。

  • 宿泊税や入湯税の観光財源化を、行政とともに検討する((公財)大阪観光局、(特非)阿寒観光協会まちづくり推進機構、(一社)下呂温泉観光協会等)
  • DMOの成果(広域観光の取り組み等)が深く地域に浸透したことにより、一定の支援を継続することが市・市議会で検討されている((一社)秋田犬ツーリズム等))
  • 行政の中長期ビジョンにDMO必要性が明記され、継続的な予算が確保される((一社)山陰インバウンド機構等)
  • 長期的に行政関連施設の運営をDMO委ねる方向で検討を進めている((一財)神戸国際観光コンベンション協会、(一社)大雪カムイミンタラDMO)等)。

観光庁も指摘しているように「DMOの主たる役割は、地域のマネジメント・マーケティング活動を通じて、観光誘客により地域全体の利益を向上させ、地域を活性化させることであり、DMO自身が収益を上げることではない」という点が重要です。
 このように、DMOの運営に求められる運営の姿とは、決して自立した運営というわけではなく、「自律した運営」と言えるのではないでしょうか。

4.次のステップは、自立ではなく「自律」

「自律」とは難しい言葉ですが、法政大学教授で社会活動家として知られる湯浅誠氏は次のように述べています(湯浅先生は「自律」という語は用いていません)。
 「強すぎる「自立」幻想はかえってもろもろに支えられている自分のあり方を見えなくさせ、自分やそして周囲をも生きづらくさせる。そしてこれは、一個人にとどまらず、地域の自立にも、国家の自立にも通じることではないか」(NHK視点・論点「“自立”について」2015年12月10日 (木)よりhttp://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/233703.html)。
 上記に沿ってDMOにとっての「自律」を考えると、「自主財源の創出」にばかりとらわれるのではなく、まずDMOとしての役割をしっかりと見据え、それを果たすための行動を行い、住民を含めた多様な地域の関係者の中でDMOの必要性や役割・立ち位置をしっかりと構築することではないでしょうか。上述の地域の理解(特に行政、議会等)のDMOの役割と実績に対する理解・認識が深まることが、安定的な財源確保につながっている例もあります。
経済的に自立的運営を指向することは、DMOが自らの意思・ビジョンをしっかり持ち、時には自ら主導するために重要であることはもちろんなのですが、行政等の財源がある程度を占める枠組みでもDMOとしての役割を果たすことは可能です。「地域のマネジメント・マーケティング活動を通じて、観光誘客により地域全体の利益を向上させ、地域を活性化させる」というDMO本来の役割を継続的に果たすために「自律的な運営」について考えることも重要ではないでしょうか。