2019年版観光競争力レポート(Travel & Tourism Competitiveness Report 2019)に見る日本の観光競争力と世界の変化

9月4日、ダボス会議で知られる世界経済フォーラム(WEF)の観光競争力レポート(Travel & Tourism Competitiveness Report)2019年版が発表されました。このレポートは、隔年で発表される世界の旅行・観光業に関する報告書です。本コラムでは、2017年と比較した日本の観光競争力や世界の国々の変化などを考察します。

三ツ橋 明子

三ツ橋 明子 主任研究員

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目次

1.世界140か国の観光競争力ランキング

日本は4位。大きくランキングを下げたのはシンガポール

2019年版で日本の観光競争力は4位となりました。1位はスペイン、以下フランス、ドイツ、と続き、10位までの顔ぶれは2017年と同じです。シンガポールは、旅行・観光業において競争力のある国ですが、今回は13位から17位に順位を下げました。国別のレポートによると、シンガポールはグローバルなビジネス環境や豊富な人材・労働力、観光政策などの項目においては評価が高かったものの、入国ビザの必要性に起因する国際的な開放度や自然・文化資源の保護に関する評価が前回より低くなったことが総合順位に影響したとされています(表1)。

観光競争力ランキング

(表1)

2.評価の算出基準となる14の項目にみる日本の評価の変化と世界での位置づけ

本競争力の評価は、世界経済フォーラムが設定した「4つの領域」「14の項目」、各項目を構成する「90の指標」を算出の基準としています。以下、14の項目のうち日本が評価を上げた項目・下げた項目についてみてみます。

(1)14の項目についての日本の評価の変化

日本が17年より順位をあげたのは14項目中の7項目でした(図1)。

  1. 評価を上げた(および変化がなかった)項目
    • 旅行・観光関連に効果的な環境:「ビジネス環境」「安全・安心」「保険・衛生」「ICTの普及」
    • 旅行・観光関連の政策と状況:「国際的な開放度」
    • インフラ(社会基盤):「陸上・港湾インフラ」「旅行者サービス関連インフラ」
    • 自然・文化資源:「自然資源」
  2. 評価を下げた項目
    • 旅行・観光関連に効果的な環境:「人材と労働力市場」
    • 旅行・観光関連の政策と状況:「旅行・観光の優先度」「価格競争力」「環境の維持」
    • インフラ(社会基盤):「航空インフラ」
    • 自然・文化資源:「文化資源とビジネス旅行」
観光競争力指標

(図1)

(2)評価を下げた2項目「旅行・観光の優先度」、「環境の維持」について

上記の中で、日本が大きく評価を下げた「旅行・観光の優先度」、「環境の維持」の2つの項目についてそれぞれを構成する「指標」について見てみました。

「旅行・観光の優先度」

この項目には7つの指標がありますが、中でも「国のブランド戦略」が日本は68.4点で、前回の42位から108位となりました。「国のブランド戦略」とは、「宿泊」、「旅行商品や情報」、「マーケットとアクティビティ」の3つのカテゴリーの47の項目(表2)について世界中の旅行者が検索を行った2,574万のキーワードの結果の分析を得点化したものです(Bloom Consulting, Digital Demandより)。総合順位が高い国のこの指標の点数は、スペイン79.3点、フランス74.5点、ドイツ82.5点でした。70点前後に多くの国々が集まっています。

2017年は、上記のカテゴリーは、「文化」「旅行商品や情報」「アクティビティ」の3つで項目は45でした。2019年は日本の強みである「文化」がはずれ、日本の良さが出にくかったことも得点に影響したのではないかと考えられます。また、2017年の検索ワードの数は1,288万で、2019年は2倍になっています。世界の旅行者の増加とともに旅行に求めるものも多種多様になり、自国の魅力とどうマッチングさせるかは今後ますます重要となるでしょう(表2)。

(表2)

「環境の維持」

日本はこの項目の10の指標の一つ「絶滅危惧種の数」が132位で、「自然資源」の中の「自然保護区の広さ」(76位)、「魅力的な自然遺産」(59位)とあわせて、国別レポートの中で、日本が特に「改善の余地あり」とされた指標となりました。今日本では環境省が推進する「国立公園満喫プロジェクト」や、国立公園の魅力を民間企業・団体と連携して世界に発信する「国立公園オフィシャルパートナーシップ」など国立公園として自然・文化の環境を守りながら日本の魅力を発信していく取り組みが進んでいます。

一方世界では、自然や環境の保護についてさらに踏み込んだ企業による取り組みも進んでいることも忘れてはなりません。例えば、トリップアドバイザーは、2016年から旅行者が捕獲された野生動物に直接接触するアクティビティを提供している施設のチケット販売を止めています。2017年にはエクスペディアも同社予約サイトで特定の野生動物と触れ合うアクティビティの予約を取り止める発表をしています。

3.多くの国で旅行・観光の競争力が飛躍

地球全体の問題への取り組みも評価に大きく影響する時代へ

世界経済フォーラムの運輸・観光関連の部門長であるクリストフ・ウォルフ氏は、今回のレポート全般について以下のように述べています。「2019年は、旅行への障壁が減少するとともに旅行にかかる費用が低下したことから、多くの国で旅行・観光競争力が飛躍した。これをチャンスと捉えれば経済と開発の両面で利益を生み出せるが、長期的に利益を得るためにはインフラ整備や環境保護とのバランスを取ることが欠かせない。」

前回のレポートから2年、世界の国や地域の間で旅行・観光の競争は激しくなり、各国がしのぎを削る中、多種多様な旅行者のニーズに対して自国の魅力をアピールしながら、環境保護やサスティナビリティへの取り組みなど、地球全体の課題に向き合いっていく姿勢が評価に大きく影響する時代となったといえるでしょう。