限られた条件下における、最適な施策の組み合わせを考える ~訪れたくなる「歴史的な建築物がある街並み」を事例としたコンジョイント分析の試み~

プロモーションを始めとする種々の観光施策を考える際、限られた予算の中で、まず何を優先すべきなのか取捨選択に迷うことがあります。そのようなとき、消費者はどんな条件を重視するのか、あるいはどんな内容の施策にどれくらいの効果が見込まれるのか、がある程度分かれば、着手すべき優先順位も明らかになるでしょう。本文では“コンジョイント分析”という手法を用い、限られた条件下で、最大の効果を得る施策の組み合わせを知るための分析を試みます。

早野 陽子

早野 陽子 主任研究員

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プロモーションを始めとする種々の観光施策を考える際、限られた予算の中で、まず何を優先すべきなのか取捨選択に迷うことがあります。そのようなとき、消費者はどんな条件を重視するのか、あるいはどんな内容の施策にどれくらいの効果が見込まれるのか、がある程度分かれば、着手すべき優先順位も明らかになるでしょう。本文では“コンジョイント分析”という手法を用い、限られた条件下で、最大の効果を得る施策の組み合わせを知るための分析を試みます。

なお、分析には当社が5月に実施した「歴史的な建築物がある集落や町並み (重要伝統的建造物群保存地区)」での観光に関する調査のデータを使用しています。

コンジョイント分析とは

コンジョイント分析とは、ある限られた条件下で何が優先的に選択されるかを分析する方法です。

例えばアンケートを取る際に、想定している商品やサービスに対する受容性(商品やサービスを提示し、あったらよいと思うか、利用してみたいか、など)について知りたいと思うことがあります。実際に質問してみると、答える側の心理としては、提示された商品やサービスが魅力的であればあるほど、「それはまあ、全部あった方がいいよね、利用してみたいよね」となり、どの選択肢についても高得点がつけられがちで、結局のところ、何が一番消費者にとって重要なものなのか、判別がつかないことも少なくありません。ところが現実的には、消費者は全ての商品やサービスを手に入れられるわけではなく、例えば旅行者が宿泊先を決める際、「瀟洒な一戸建ての古民家に泊まってみたいが、温泉がないようだ。それなら温泉付き露天風呂が付いている旅館にするか?」といった2つの両立しない条件のうち、どちらを取るかを天秤にかけ、どちらかをあきらめなければならない場合も多いのではないでしょうか。

そこで、このような現実に近い評価を得るため、いくつかの条件の組み合わせを作成し、ある条件は希望に沿っているものの、他の条件は希望に沿っていない、というトレードオフの関係性を人工的に作り、それぞれの好ましさを評価してもらうことで、すべての希望が叶わない中で、何が優先されるのかを見ていくのがコンジョイント分析です。

「歴史的な建築物がある集落や町並み」を事例に、訪れたくなるために重要な要因を考える

ここでは、当社が6月に実施した「歴史的な建築物がある集落や町並み」調査の中で、旅行者が訪れたいと思うためには何が優先されるか、以下の4つの項目(1.滞在に適した時間 2.他地域との連携(アクセス) 3.ガイドや案内の種類 4.食や文化などの体験)毎に含まれる3つの条件による組み合わせ(表1)を用意し、回答を得ました。「歴史的な建築物がある集落や町並み」一つ一つを考えると、建築物の種類や立地条件などによって重要である項目は異なりますが、今回の分析にあたっては、多くの地区に関わると考えた上記の4項目を選定しました。

また調査にあたり、すべての組み合わせについて評価をしてもらおうとすると、膨大な数となり、アンケートの回答者は悲鳴を上げてしまいます。そこで、分析に必要最低限の組み合わせを得ることができる、実験計画法の「直交表」を用いた組み合わせを作成し、少ない組み合わせでの調査設計としました。

表1 直交表から得られる組み合わせ

直交表から得られる組み合わせ

それぞれの項目の影響度合いを知る

まず4つの各項目がどれだけ消費者に影響を与えるかを知るために、「効用値」と呼ばれる効果の度合いを算出しました(図1)。効用値の差分が大きい(傾斜が大きい)項目ほど、消費者への影響度合いも大きいと解釈できます。よってここでは「食や文化の体験」、「他地域との連携・アクセス」についての差分が大きく、重要な要素であることがわかりました。その1つの「食や文化の体験」の中身を見てみましょう。条件が「高級料理や食材を楽しめる」以外になると、大きく効用値が下がります。つまり、「高級料理や食材を楽しめる」という条件は代替えが効きづらく、“訪れたい”と感じるために必須な要素であるのだと考えられます。一方、「滞在に適した時間」を見てみると、「数時間未満で楽しめる」場所であっても、「複数日楽しめる」場所であっても、あまり差がありません。訪れたさの度合いには、短時間の時と、長時間の時との条件の違いは、影響が少ないということです。

以上を踏まえ、全体として歴史的な建築物がある集落や街並みの訪問に、どう楽しめることが条件として優先されるのかを項目毎に見てみました。「食や文化の体験」については、「高級料理や食材を楽しめること」、「他地域との連携・アクセス」については、「その場所だけで楽しめること」こと、「ガイドや案内」は「専門ガイドによる案内サービス」、「滞在に適した時間」では、「日帰り(数時間以上)で楽しめること」が分かりました(図1)。

図1 効用値

効用値

性年齢などの属性による違いにも留意する

各項目の効用値は、性年齢別などの属性によっても、優先される条件が大きく異なることには留意が必要です(図2)。

例えば、「食や文化の体験」については、全体では前述のとおり「高級料理や食材を楽しめること」が最も高い影響力が見られましたが、性年齢別では29歳以下の男性や60歳以上の男性では「高級料理や食材を楽しめること」が重視されるものの、女性や40~50代男性は「カジュアルに食べ歩きを楽しめること」が重視される結果となりました。

「他地域との連携・アクセス」については、男女共に、29歳以下、30代の若い世代は「近隣都市や交通の要所とのアクセスが良いこと」を重視していますが、40代以上になると「近隣の観光地とのアクセスが良いこと」が重視されるようになります。

「ガイドや案内」に関しては、男女の差が大きく、男性は若いほど「VRや音声など機械による案内サービス」を好み、年齢が上になると「専門ガイドによる案内サービス」を好む傾向がありますが、女性は30代を除き、老いも若きも「VRや音声など機械による案内サービス」を好むことがわかりました。

図2 1~8 性年齢別 項目別効用値




最大の効果を発揮する施策の組み合わせとは何かをシミュレーションする

では、これまでに得られた結果を、施策にどのように活かしたらよいのでしょうか。コンジョイント分析の最も大きな特徴は、効用値を元に、最適な組み合わせとその効果をシミュレーションできることです。条件毎に効用値が算出されていますので、それぞれ最大のものを以下のように足しあげていくと、組み合わせ全体での効果の大きさ(全体効用値)を計算することができます。

全体としては、最も効果が大きくなる組み合わせは以下のようになりました。

(全体で効果が最大となる組み合わせ)
日帰り(数時間以上)で楽しめる + 高級料理や食材を楽しめる + 専門ガイドによる案内 + その場所だけで楽しめる = 全体効用値(0.25)

一方、最も効果が小さい組み合わせは以下でした。

(全体で効果が最少である組み合わせ)
複数日で楽しめる + カジュアルに食べ歩きを楽しめる + VRや音声など機械による案内サービス + 近隣の都市や交通の要所とのアクセスがよい = 全体効用値(-0.28)

属性別にみると、例えば30代女性で最大の効果となる組み合わせは以下でした。

数時間未満で楽しめる、または、複数日で楽しめる + カジュアルに食べ歩きを楽しめる + 専門ガイドによる案内 + 近隣の都市や交通の要所とのアクセスがよい = 全体効用値(0.56)

すべての組み合わせで同様に全体効用値を算出することができますので、もし仮に最も効果が大きくなる組み合わせがコストなどの制約によってできないとしても、実現しうる手段の中で、いくつかのシミュレーションをし、予算に応じた検討や、ターゲットに応じた効果を知ることができます。

ただし、どのような項目や条件で調査を行うかによっても得られる結果は異なってきますので、地域ごとの特性や、誘引したいターゲット層などをふまえ、事前に十分に項目や条件の設定に関する検討を行うことが不可欠です。

コンジョイント分析に限らず、統計分析は何でも解決してくれる魔法のツールではありませんが、これまで何となく頭の中で考えていたことを客観的な数値として表し、共通のモノサシとすることで、関係する人々の中での議論をしやすくしてくれるという面でも、マーケティング活動の中では重要なものです。またそれだけではなく、戦略づくりや現場で活用できる分析を行うために、改めて自分たちの提供する商品やサービスの特徴や重要になる要件などを整理し、何が本当に必要なのかを考えるきっかけとすることが、実際にはデータを見ること以上に大切なのかもしれません。