【発達障害の人たちの外出意欲や環境の実状についての調査結果】
「発達障害を手掛かりとして考える心のバリアフリーシンポジウム」におけるアンケート調査より

JTB総合研究所 ユニバーサルツーリズム推進チーム

JTB総合研究所は、株式会社ジェイティービー(現:株式会社JTB)主催、川崎市・川崎市教育委員会の共催により2017年12月12日に開催された「発達障害を手掛かりとして考える心のバリアフリーシンポジウム」において、「発達障害関連アンケート報告」を行いました。その中から発達障害の人たちの外出意欲や環境の実状についての調査結果を抜粋し、まとめましたので報告します。

発達障害は2005年に「発達障害支援法」の制定によって定義されました。発達障害は、分類が多岐に渡っており(資料1参照)、その特性や、脳機能の障害であるという認知は低く、また診断をめぐっても「発達障害」の境界が明確ではないため正確な人数が把握できていません。しかしながら、公立小・中学校の通常学級に在籍するうち、発達障害の特性を持つ児童生徒数は、年々大幅に増加しています(資料2参照)。
 発達障害の人達には独特の考え方や行動様式があるため、周囲から理解されない場合が多く社会生活に困りごとを抱えている人が多いと言われています。
 JTB総合研究所では、発達障害のあるご本人及び関係者にアンケート形式で調査を行い外出環境における困りごとを抽出し、その解決に向けての取り組みについて考えてみました。

【アンケートの概要】

<目的>外出に関わる発達障害の人達の実状を知る
 <期間>2017年11月15日~12月6日
 <対象者>発達障害のある本人及び関係者
 <手法>インターネットによる無記名回答
 <回答数>126名

【アンケート結果】
  • 回答者は75%が母親からであった。
  • 外出時は、57%の人に母親が同行し本人のみは31%。母親が同行できない場合は父親が同行している。
  • アンケート結果1

  • 外出頻度は高いものの、「通勤・通学」など必要性があることが目的の場合が多く、「旅行」などの余暇目的による外出頻度は非常に低い。
  • 「今後、どのくらいの割合で外出したいか?」という問いに対しても「外出したくない」「旅行などの外出はできないと感じる」という回答が多く、余暇を目的とした外出環境は整っていないことが見えた。
  • アンケート結果2

  • 外出時の不安については「人に迷惑をかけないか」、という対人的な要素が最も高い。
  • 初めて行く場所については「人に迷惑をかけないか」という心配とともに、パニックになってしまった場合落ち着ける場所があるか、トイレの場所などのハード面が整備されているか、など発達障害特有の不安を抱く人が多い。
  • アンケート結果3

  • 外出を控えたい理由としては、「本人が出かけることを嫌がる」というと回答を1位に挙げた人が多いものの、トータルでは「同行者が疲れる」という回答が1番多い。
  • 次いで「他人に注意された」「他人に心ない言葉や批判された」という理由が多く、対人的要素が外出を妨げる要因になっていることが推測される。
  • アンケート結果4

  • 事前に本人に行く場所などを予習するための写真や情報を準備するという点は、発達障害特有の準備である。
  • その他、トイレの設備や特性に応じたサービスなど、発達障害の特性について事業者や一般の人々の理解が進んでいくことが外出の機会創出に繋がる可能性が見えてきた。

アンケート結果5

以上が、アンケートの回答ですが、フリーアンサーにもたくさんの声をいただき、そのキーワード及びアンケート結果を整理した中から、発達障害の人達がもっと気兼ねなく外出できる環境を整備するため、私達にできる取組を下記3点にまとめました。

1.一般の人々の発達障害への理解の促進

「人に迷惑をかけるのではないか」「心ない言葉をかけられないか」といった不安などで、外出しにくい環境を社会が作らない取り組みをする必要があります。
 取り組み例として「心のバリアフリー」の推進があります。「心のバリアフリー」とは発達障害の方を例にしていうと「心ない言葉をなげかけるなど、社会に出にくい環境、つまりバリアを作っているのは社会の側である」という社会モデルのバリアに気付き、そのバリア取り除くことです。

2.障害特性を理解した合理的配慮

障害特性を理解し、その対応について各事業者が「障害者差別解消法」に基づいた合理的配慮の努力義務をしていくことが期待されます。
 例えば、パニックになってしまった際に落ち着ける場所を案内したり、慣れない場所でもスムーズに次の行動に移せるためのサービスを考えたりするなどです。

3.詳細かつわかりやすい情報提供

安心感をもって外出できるよう、事前に移動時間やトイレなど、施設のハード面のバリア情報をわかりやすくかつ明確に提供することです。
 ソフト面においても「心のバリアフリー」の普及および「障害者差別解消法」に基づいた共生社会への行政や事業者の様々な取り組み、支援制度についてなども含め情報提供をしていく必要があります。

外出の際の環境整備を考える際、発達障害のある多くの人が外出時に「誰か」と同行しており、その大多数が「母親」、次いで「父親」であるということに注目すると、家族への支援も念頭におく必要がありそうです。
 また、外出は移動・行動が連続し様々な事業者が関係するためスムーズな外出に関する環境整備をするには1事業者だけでなく、社会全体で取組んでいかなければなりません。
 発達障害をはじめ、様々な心身の特性や考え方を理解することで誰もが外出しやすい環境が整備され、ひいては共生社会の実現が期待されます。

発達障害の主な分類と主な種類

資料1 内閣大臣官房政府広報室資料よりJTB総研作成

通級による指導を受けている児童生徒数の推移

資料2 文部科学省 特別支援教育資料(平成28年度)よりJTB総研作成

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