地域観光振興は継続こそ力 ~ニューツーリズムを地域と事業化する~

「継続は力なり」と言われますが、テーマを問わず、ニューツーリズムがマーケットに浸透するには、ブームとかヒット商品を狙うのでなく、勿論本物であることは必要条件ですが、続けることが問われていると思います。 (この文章は、トラベルジャーナル誌 2009年3月30日号に掲載されたものです)

中根 裕

中根 裕 主席研究員

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昨年7月から18回にわたり「ニューツーリズム」を資源、地域、組織、マーケット、そして旅行ビジネスの立場から述べてきました。ニューツーリズムは「着地型旅行商品」とか「地域主導型旅行商品」とも表現されるように、地域の人々が主役となることが基本です。そして地域の人々とは、農家や漁家であったり、商店街の店主であったり、あるいはまちづくりのNPOの人々だったりと、既存の観光関係者や事業者だけに留まらない範囲の方々です。従来の観光協会や旅館組合とすれば、これまでの限られたメンバーだけでニューツーリズムを創り出し、支えることが困難であり、地域をあげた観光の体制づくりが求められています。まさに「観光まちづくり」が問われているのです。

一方、旅行会社の立場からすると、従来のネットワークやビジネスパートナーを拡げ、ビジネスモデルも変えねばならない時代となっているのです。

大胆な分類ですが、多くの地域が「観光まちづくり」を目指そうとしているのには、大きく2つのタイプがあると私は考えます。ひとつは地域の基幹産業であった第一次産業や商業活性化、あるいは自然環境や伝統的な街並みの保全などといった、地域が抱える様々な地域振興上の課題を解決する方策として観光に注目し、それによる地域への経済的、社会的効果を期待している地域です。それらの地域は観光地として実績も認知もされていなかった所が多く、改めて地域の資源や価値を再認識し、内外から注目され始めた地域です。有名な長野県の小布施や飯田市の南信州観光公社なども、根底にはまちづくりや第一次産業の振興という地域目標があったからと思われます。言うなれば「まちづくりや地域資源の交流産業化」に取り組む地域です。

もう一つのタイプは、「成熟型観光地の再興」としてニューツーリズムに取り組む地域です。典型で言えば熱海、別府など観光地として一時代を築いた地域ですが、旅行者の志向変化に、かつての観光地成功モデルが通用しない時代となり、観光地として正に構造改革が問われています。地域内に一定の観光産業やノウハウは根付いているのですが、ニューツーリズムという新しい視点で、地域資源や他分野の人材とのネットワークを拡げることが課題とされています。

別府温泉を起点としながら全国展開が図られている「ハットウ・オンパク」等がよい例で、著名な温泉観光地でありながら、市民の視点で地域の価値を見直すことが原点にあります。今後、こうしたまちづくりや地域資源を宿泊商品や旅行商品として新しい別府観光のブランドに飛躍することが次の課題であり、これらの地域は「観光の地域総合産業化」に取り組んでいると言えます。

旅行会社を含めて外部民間企業が地域で観光事業を取り組むもうとするときに、地域と民間企業の意識で最も大きい違いは『事業評価の時間幅』だと私は思います。民間ビジネスは、グローバル化やデジタル化など目まぐるしく変化する時代にあって、今まで以上に即効性や判断スピードが問われています。
しかし地域の中で新しい価値や魅力を再発見しニューツーリズムとして事業化に取り組む方々は、ビジネスとして成立させることは勿論大切ですが、地域に長年住まい、次世代に繋げられる事業と元気な地域を残したいのです。
そこには2年3年は我慢しても10年先のわが地域のためなら、という事業判断や行動価値判断が根底にあり、結果として表れているのです。

「継続は力なり」と言われますが、テーマを問わず、ニューツーリズムがマーケットに浸透するには、ブームとかヒット商品を狙うのでなく、勿論本物であることは必要条件ですが、続けることが問われていると思います。旅行会社がそうした地域の時間的持続にすべて付き合うべき、とは言えません。
しかし、地域とパートナーとしてニューツーリズムを開発し、流通させようと考えるならば、地域のそうした行動の根底にある思いやこだわりを理解した上で、新しい時代のビジネスモデルを開拓していただきたいものです。