地域と学生をつなぐ「大学生観光まちづくりコンテスト」

「大学生観光まちづくりコンテスト」*は、大学生がチームを組んで地域活性化のための『観光まちづくりプラン』を作成して競い合うコンテストで、JTB総合研究所が事務局となり、2011年から開催しています。 地域が元気になるためには、人々の交流が大切と言われますが、目に見えてヒトが動くだけでなく、“目には見えにくい”「こころが動く」ような地域への愛着をもつ人々の存在を増やすことも大事です。本コラムでは、「大学生観光まちづくりコンテスト」を通じた地域との関係づくりについて考察します。

斎藤 薫

斎藤 薫 主任研究員

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目次

1.「大学生観光まちづくりコンテスト」

今年で8回目となった「大学生観光まちづくりコンテスト」は、4つのステージ(茨城、北陸、長崎国境離島、多摩川)で行われ、90大学 234チーム、1,225名の学生が参加しました。本コンテストには、学生への実践的教育機会の提供や地域資源の掘り起こし・地域の観光振興への効果が期待されていますが、現場では別の面も見られました。

大会終了後の大学生を交えた懇親会で、ある大学の関係者から「受賞を逃した学生の何人かは、悔しさのあまり懇親会を欠席したんですよ」という話を聞きました。学生は、コンテストに向けて、6月の説明会から8月中旬のプラン提出までの約二か月の間に、情報収集、仮説構築、マーケティング調査、フィールドワークを行います。このフィールドワークで、実際に現地を自分たちの目で見て、地域の方の話を聞き、課題を実感し、解決のためにどんなことが出来るのかと思いをめぐらす日々を体験します。メンバーとプランを考え、実現性の向上やプランの磨き上げのため、再度、地域を訪問するチームもあります。こうして、これまで全く縁のなかった地域の課題に寄り添い、考え続けることで、学生たちはひとつの地域に深く“かかわる(関与する)”ことになり地域に心を寄せていくのです。

2.コンテストに参加した学生の心の変化

 コンテストへの出場による教育効果や学生の変化についてアンケートによる調査を実施してみました。コンテストへの参加前と参加後で比較してみると、「1.アクション」「2.シンキング」「3.チームワーク」等の社会人基礎力の増進といった教育効果とともに、「4.地域愛着」ならびに「6.地域への貢献意識」が特に増していることが注目されます。学生からは「このコンテストを通じて、地元愛媛、大学の東京に次ぐ第三の故郷ができたような気持ちです」といった、新たな地域への愛着が育まれた様子を端的に示す声も聞かれました。
大学生観光まちづくりコンテストへの参加を通じて、これまで関わりのなかった地域の課題に向き合うことで、地域への関心が高まり、その結果、地域への愛着が増すといった形で、学生の「こころが動く」様子が見られる結果となりました(図1)。

N=453
 ・左目盛:7段階評価での自己評価(事前/事後~コンテスト参加前および参加後)
 ・右目盛:事前評価、事後評価の差分

コンテスト出場による教育効果・学生の変化

(図1)コンテスト出場による教育効果・学生の変化
出所:大学生観光まちづくりコンテスト2017運営協議会資料
※調査は第5回コンテスト(2015年)時に実施

3.学びを通じた地域への愛着の育成

では、生まれた時から関係の深い「ふるさと」への愛着は、特別なことがなくても自然に育まれていくものでしょうか。

図2をみると、高校時代までに、ふるさとである出身市町村への理解が深いほど(例えば地元企業をよく知っているなど)、県外に転出した後も出身地への愛着が残ることがわかります。生まれ育った地域である「ふるさと」への想いは、以前は当たり前のものとして情緒的に語られることが多かったのですが、今や意識的に育むことが求められています。
本年6月、「まち・ひと・しごと創生基本方針2018」ならびに「経済財政運営と改革の基本方針2018」が閣議決定され、その中に「地方創生に資する高等学校改革の推進」「地域振興の核としての高等学校の機能強化」が掲げられました。「高等学校が、地元市町村・企業等と連携しながら、高校生に地域課題の解決等を通じた探究的な学びを提供するカリキュラムの構築等を行う取組を推進する」といった内容をみると、「大学生観光まちづくりコンテスト」の取組に近いイメージであることがわかります。

私たちは、これまでは「大学生観光まちづくりコンテスト」のように大学生を中心に観光教育に取り組んできました。「ふるさと」への愛着が当たり前でなくなったいま、進学や就職で故郷を離れる子どもたちの気持ちを生まれ育った地域につなぎとめられるような教育も求められています。今後は高校生やもっと小さなこどもたちへの実践的な教育手法についても開発・提供していきたいと考えています。

出身市町村への愛着

(図2)出身市町村への愛着
出所:文部科学省「地域との協同による高等学校教育改革の推進」HP掲載資料より
※「地方における雇用創出・人材還流の可能性を探る(独立行政法人労働政策研究・研修機構)」
*対象は出身県外居住者

<出典>
* 大学生観光まちづくりコンテスト運営協議会 「大学生観光まちづくりコンテスト2018」 http://gaku-machi.jp/