災害時の外国人旅行者への情報提供 ~正確な情報を確実に伝えることが、安心につながる~

外国人旅行者への災害時の情報提供で、大切となるポイントを考察する。

高松 正人

高松 正人 エグゼクティブフェロー

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目次

2018年、多くの外国人旅行者が日本で災害に直面した

昨年は一年を表す漢字として「災」が選ばれるほど、自然災害が続きました。6月の大阪府北部地震、7月の西日本豪雨災害、9月の台風21号、24号と北海道胆振中部地震など、日本各地で自然災害が発生しました。台風21号の際は、関西国際空港の連絡橋にタンカーが衝突したことにより、空港内に数千名の旅客と空港職員が長時間にわたって取り残されました。また、北海道胆振東部地震の際は、震源地周辺だけでなく北海道全域での停電(ブラックアウト)が発生し、住民や観光客に大きな影響がでました。

これらの災害では、被災地の住民や事業者だけでなく、訪日外国人旅行者も大きな影響を受けました。災害の恐怖に怯え、どうしたらよいかわからずに困惑する外国人旅行者の様子が、さまざまなメディアで取り上げられました。北海道運輸局による北海道胆振東部地震後の実態調査(注1)でも、「多くの外国人観光客が驚きや不安から、真っ先に宿泊施設のロビーへ降りてくるなど、地震や停電への対処、自分がいる建物の強度等への不安を、日本人よりも強く感じながら地震発生直後の時間を過ごしていた。」と報告されています。

注1)国土交通省北海道運輸局「大規模地震等に備えた外国人観光客への情報集約・提供方法に関するガイドライン」(p.7)

外国人旅行者は必要な情報がなかなか入手できず困っていた

北海道胆振東部地震の直後に株式会社サーベイリサーチセンターが実施した、滞在中の訪日外国人旅行者に対するアンケート調査(図1)からは、災害発生後、外国人旅行者がどのようなことに困ったのかが具体的に見えてきます。

アンケート結果では、地震発生時に困ったこととして、「停電でスマートフォンの充電などが困難だった」「停電で情報が得られなかった」を回答者の3人に2人が挙げています。地震発生後に道内全域が停電したため、スマートフォンを使って必要な情報を入手しようにも、停電のために充電できずに苦慮する多くの外国人観光客の姿が浮かび上がります。次いで、「すべての日程が狂い多額の負担が生じた」、「今後の旅行日程がどうなるのか想定できなかった」、「交通機関・空港などの情報などがわからなかった」が多く挙げられました。地震で交通機関の運休やダイヤ乱れなどが生じたため、予定していた旅行日程が狂ってしまい、今後どうしたらよいかわからず、さらに行程を変更しようにも交通機関の運行状況等、必要な最新情報が入手できず途方に暮れている外国人旅行者の様子が窺えます。「スーパーやコンビニでの物資不足」、「食料飲料の配給が受けられなかった」以外の主な回答は、ほとんどが情報の入手にかかわるものでした。

台風21号通過後の関西国際空港では、帰国予定だった1,000名を上回る外国人旅行者が、浸水による空港閉鎖で帰国便の運航のめどが立たず、連絡橋の通行止めのため空港島から出ることもできず、文字通り「前にも後ろにも進めない」状況に陥っていました。空港内の掲示やアナウンスはほとんどが日本語のため状況が理解できず、空港島内の滞留者を神戸に脱出させるシャトル船の運航が始まっても、どのようにしたらその船に乗れるのか理解できず、力なく長い列の最後尾に並ぶ外国人旅行者がありました。ここでも外国人旅行者への情報提供が大きな課題となりました。

地震発生時に困ったこと

出典:株式会社サーベイリサーチセンター自主調査レポート「北海道胆振東部地震における訪日外国人旅行者の避難行動に関する調査」(2018年)をもとに作成

役立ったのは、宿泊先の従業員からの情報と英語や自国語で提供される情報

そのような状況で外国人旅行者に役立った情報源は、どのようなものだったのでしょうか?サーベイリサーチセンターの調査では、多くの外国人旅行者が「宿泊先の従業員」からの情報が役立ったと回答しています(図2)。北海道の地震は未明に発生したため、最も身近にいた宿泊先の従業員への依存度が高かったと考えられますが、日中に発災した場合、訪問先の観光施設・商業施設、交通機関、観光案内所、観光ガイドや添乗員なども重要な情報源となるでしょう。

それ以外の役立った情報源は、「日本のテレビ・ラジオ」、「日本のウェブサイト」を除くほとんどが自国語または英語での情報を提供しているものです。災害等の緊急時には、「日本にいる外国人のSNSなどへの書き込み」のようなインフォーマルなものも含めて、自分の理解できる言語で提供される災害関連情報や交通機関の運行情報であることがカギとなります。

避難や旅行行程で役立った情報

非常時の外国人旅行者への情報提供が重要なワケ

こうした状況を受けて、政府は昨年9月に開かれた観光戦略実行推進会議で「非常時の外国人旅行者の安全・安心確保のための緊急対策」を取りまとめました。27の対策のうち20は外国人旅行者に対する情報提供に関する具体策でした。これらの対策は、担当する府省庁と実施スケジュールが明記され、そのうちのほとんどは直ちに着手・実施、または平成30年度中に実施することとなっています。

非常時の外国人旅行者への外国語による情報提供が、なぜそれほど重要なのでしょうか?災害時における外国人旅行者のわかる言語での情報ニーズが高いことは前にも述べましたが、もうひとつの理由があります。それは、一般的に土地勘がなく、日本語のわからない外国人旅行者は、災害時に配慮すべき人たちとされていますが、彼らに理解できる言語で必要な情報をタイムリーに提供することができれば、配慮の対象となる障壁はかなり低くなるのです。災害の状況や交通機関の運行状況などを把握できれば、外国人旅行者の多くは自分で判断し、行動ができるようになります。ありていに言えば、災害時に必要な情報がしっかり提供でき、それが正確に理解されてさえいれば、外国人旅行者の対応にそれほど手がかからなくなるのです。

行政機関や民間ではじまった災害時の外国人旅行者への対応に関する取組み

来年に迫った2020年東京オリンピック・パラリンピックに備えて、国土交通省は「首都圏直下地震対策計画」[第2版]を策定しました。この計画に新たに加えられた項「外国人を含む多数の滞在者の安全をどう確保する」では、(1)外国人を含む旅行者の安全確保のための情報提供や避難誘導等、(2)外国人旅行者等の帰国支援に関する具体的なアクションプランが記載されていますが、その多くが外国人旅行者に対する情報提供にかかわる内容となっています。

また、北海道胆振東部地震の際、外国人旅行者対応でさまざまな課題が顕在化した北海道では、北海道運輸局が「大規模地震等に備えた外国人観光客への情報集約・提供方法に関するガイドライン」を取りまとめました(注2)。このガイドラインの中心は、災害時に外国人観光客に迅速かつ正確に情報提供するための「災害情報伝達システム」(図3)です。従来、国の機関や自治体、DMO、交通機関、駅や空港などの交通拠点、宿泊事業者、旅行会社は、災害時にそれぞれ個別に情報発信していましたが、それでは、現地の旅行者が必要な情報を収集するのに手間がかかりますし、外国語対応も不十分でした。このシステムでは、基本的な情報を北海道運輸局に集約し、予め準備した日・英・韓・中(繁体・簡体字)の多国語テンプレート(図4)に載せて、多様な情報メディアに発信する仕組みです。

(注2)筆者は、検討委員として本ガイドライン策定に参画しました。

災害情報伝達システム(関係機関等の体制・位置づけ)

このガイドラインは北海道での運用を前提に策定され、「災害情報伝達システム」も現時点では、札幌市と新千歳空港を中心としたパイロット版の域を出ていませんが、実証実験やそれにもとづく改修を経て、近い将来、北海道の主要観光地を含む全道の仕組みになっていくでしょう。また、これは全国どこでも導入できる仕組みですので、北海道以外の地域でも導入し、最終的には全国の情報ネットワークがつながることを期待しています。

民間事業者も非常時の外国人旅行者への情報提供に積極的に取り組んでいます。JR東海では、東海道新幹線の駅や列車内で遅延案内や非常時の英語での案内放送を開始しました。国際線の就航する主要空港では、多言語対応の可能な職員の採用や研修、ICT等を活用した多言語による案内に取り組んでいます。また、JNTO認定観光案内所での非常時の多言語による情報提供も強化されてきました。

このような官民の取組が進むことにより、たとえ今後起こることが予想されている大規模災害が発生しても、観光客の安全を守り、安心を提供できる「観光先進国」日本になることを願っています。

各種情報から取りまとめる「集約テンプレート」(イメージ)