世界中の若者が熱狂する「eスポーツ」の魅力について

今、世界中の若者が「eスポーツ」に熱狂しています。日本でも急速に知名度をあげ、昨年ユーキャン新語・流行語大賞のトップテン入りを果たしました。eスポーツとは電子上で行われるゲームの対戦をスポーツ競技として捉えたものですが、競技大会はオンライン中継されているにも関わらず、会場には多くの若者が観戦に来ています。eスポーツの競技会場にわざわざ足を運ぶ魅力とは何なのでしょうか、どんな人が来ているのでしょうか。本文ではeスポーツの大会観戦を題材に、アンケートデータなどを用いて実際に大会観戦へ行く人々の心理を考察します。

中川 拓也

中川 拓也 研究員

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目次

1.世界が熱狂するeスポーツ

ポーランド南部の都市カトヴィツェ。人口30万人の地方都市が、年に1度3月に世界中の若者から最も注目される都市となります。eスポーツの世界大会であるIntel Extreme Masters World Championshipが開催されるのです。Intel Extreme Masters(以下IEM)とは2007年に始まったeスポーツの国際トーナメントですが、その年間優勝者を決める決勝戦が2014年からカトヴィツェで開催されています。

2019年3月に行われたIEM Katowice 2019の「カウンターストライク:グローバルオフェンシブ」を用いた試合は、ESL Gamingの発表によると全世界より約1億9,500万人の人々が視聴し、合計視聴時間も1億2,600万時間を越えました。また隣接されているIEM EXPOと合わせた実際の会場来場者は期間中174,000人を越え、世界で最も大きなeスポーツのトレードショーとなっています(注1)。会場へ訪れてもリアルスポーツである野球やサッカーのように選手が駆け回る姿を見るのとは違い、大スクリーンで選手のプレイ映像を見るという大会であるにも関わらず、これだけ多くの人々が会場で観戦をしているのです。

日本ではまだ注目され始めた程度で多くの人が理解しがたいことかもしれませんが、世界では既にeスポーツに対しかっこいいというイメージが出来つつあり、若者は将来の夢としてeスポーツのプロプレイヤーをあげるようになってきました。世界におけるそのイメージは、既にスケートボードやサーフィンなどに代表されるエクストリームスポーツと同様の地位を確立しつつあるのです。実際eスポーツ先進国と言われている韓国では、トッププレイヤーの年俸がリアルスポーツ選手より高額となってきており、プロプレイヤーそれぞれに多くのファンコミュニティが存在するなど芸能人や歌手と同等の扱いを受けています。

2.日本におけるeスポーツ

では日本におけるeスポーツ事情はどうなっているのでしょうか。Gzブレインによると日本におけるeスポーツファン数(試合観戦・動画視聴経験者)は2017年には230万人でしたが、翌年2018年には383万人まで増加し、2022年には786万人まで拡大するとされています。またその国内市場規模(放映権、スポンサー、チケット、アイテム課金・賞金、グッズ、著作権許諾を含む)は2017年にはわずか3.7億円でしたが、2018年には48.3億円、2022年には99.4億円へとこちらも拡大を続けていくと推計されています(注2)。一昨年まではあまり知られていなかった“eスポーツ”という言葉が、2018年に一般社団法人日本eスポーツ連合の発足、茨城国体、アジア競技大会など様々な話題でメディアに登場する機会も増え、知名度をあげてきた状況を踏まえると、より一層成長速度はあがるのではないかと考えられます。ちなみにそんな2018年をeスポーツ業界では“eスポーツ元年”と表現しています。

さて、このファン数と市場規模を見ていると、皆さんも1つの疑問点が浮かぶかと思います。それは「eスポーツファン数に対して、市場規模が小さすぎないか」ということです。2018年段階でeスポーツファン数は383万人いるにも関わらず、その市場規模が48.3億円というのはあまりにも小さいように感じます。このファン数と市場規模の乖離は、国内スポーツファンが海外コンテンツへ流れているということを示しています。オンラインによって手軽に世界と繋がることが出来るようになった世の中で、冒頭でも触れたIntel Extreme Masters World Championshipのような世界大会に、日本の若者達も熱狂しているということになります。実際以前インタビューをさせていただいた日本人eスポーツプレイヤーの中には「eスポーツの海外試合が見たかったので、最低限必要な分の英語の勉強をした」と答えている人もいました。このように世界へ流れてしまっている層を取り込むことが出来れば、国内市場の成長速度をより一層速くすることができるというわけです。成長市場であるが故、多くの企業が関わり方を模索している段階ではありますが、先ずは国内市場を盛り上げるという1つの目標を持って協力していければ良いと思います。

3.eスポーツ観戦の魅力とは

前章で述べたように、国内でeスポーツが話題となっていることは理解できても、観戦経験が無い多くの人にとってみると、なぜそこまで魅力的であるのかということは理解できていないと思います。急速に増え続けるeスポーツファンの中で現在実際にeスポーツ大会の観戦を行っている人々の意向理解を目的として、弊社では2019年3月に15歳以上-60歳未満を対象としたインターネットリサーチを実施しました。

(1)eスポーツ大会の会場観戦経験者割合と観戦目的

年代別人口構成比に合わせ1万名を対象にアンケートを実施したところ、会場観戦経験者があると回答した人は259名おり、経験者の男女別割合は図1の通りでした。現状のeスポーツ大会においては会場観戦経験者全体のうち男性が3分の2を占めており、特に男性の10代・20代・30代の合計は経験者全体の半分を超えている状況です。一方女性に関しては最も多い層は20代ですが、その後は50代、40代が続き、観戦を希望する子供の保護者として付き添っている状況があることがわかります。なお現代における30代前半までの世代はデジタルネイティブであるとも言え、幼少期よりインターネットを介した対戦ゲームに慣れ親しんでいる世代でもあります。

なお昨年度弊社で実施した「スマートフォンの利用と旅行消費に関する調査」では、eスポーツに関する関心は男性 29 歳以下が最も高くプレイ経験者が14.6%、オンラインを含む観戦経験者(合算)は 26.2%、今後の観戦意向者(合算)は39.8%であり、男性の若い世代が牽引している流行であることは間違いないかと思います。

eスポーツ会場観戦経験者割合

図1 出典:「eスポーツ市場性調査2018年度」JTB総合研究所より

次にeスポーツ大会の会場観戦経験者における観戦目的(図2)を男女別に見てみると、男性は上位にゲーム自体への興味が占めており、ゲームに普段から慣れ親しんでいるファン層が中心となっていることがわかります。一方で女性の目的を見てみると、会場での応援やファン同士の交流など非ゲーム関連項目が上位となっています。また女性は“家族や知人がeスポーツを好きだから”、“家族や知人に誘われたから”というような項目も上位となっており、eスポーツのファンではないものの興味がある家族や知人の同行者として来場している人も一定層いるようです。

eスポーツ大会観戦目的

図2 出典:「eスポーツ市場性調査2018年度」JTB総合研究所より

(2)eスポーツ大会の観戦満足度と再来訪意向

大会観戦者の観戦満足度(図3)を観戦前の想定に対してどうだったのかを聞いてみたところ、「思っていたよりもかなり良かった」「思っていたよりも良かった」という評価をした人の合計が男性の84.5%、女性の76.8%と非常に高い結果となりました。特に「思っていたよりもかなり良かった」を選択した人は男女共に3割を越え、多くの来場観戦経験者にとって、eスポーツ大会が予想以上に面白かったということがわかります。

またもう一度観戦をしてみたいかという問いに対しては、「大会会場へ観戦しに行きたい」「機会があれば大会会場へ観戦しに行きたい」の合計が、男性の84.9%、女性の85.2%とどちらも8割を越えており、eスポーツやゲームに対して興味が無かった層であっても、一度観戦するとまた行ってみたいと思うようになることがわかります。

eスポーツ大会観戦満足度

eスポーツ大会再来訪意向

図3 出典:「eスポーツ市場性調査2018年度」JTB総合研究所より

4.まとめ

2019年現在の日本におけるeスポーツ観戦で最も多かった理由は「ゲーム全般が好きだから」でした。その回答を見るとeスポーツはゲーム好きの人だけが熱狂できるものであるように見えてしまいます。しかしこのeスポーツブームの本当の理由は、偶然参加した層を取り込んでいく力の強さにあると思います。今回のアンケートの回答の中には「たかがゲームと思っていたけど、会場で見ると臨場感やプレイヤーの凄さと盛り上がりがあり、テンションが上がった(20代女性)」、「子供が行きたがるので連れて行ったが、考え方がずいぶんかわった(40代男性)」、「思ったより自分も興奮して歓声をあげたりして終始楽しかった(40代女性)」など、一度の観戦経験をきっかけにそれまでゲームにあまり興味が無かった人々が、eスポーツに対する見方を大きく変えているということがわかりました。“eスポーツはスポーツなのか”という議論がなされている中ではありますが、eスポーツ観戦という軸で考えれば、会場の盛り上がり方や臨場感はリアルスポーツと全く同じ世界が広がっており、プレイヤーを応援するという会場の一体感を求めて観戦を続けていく人々が増えているのだろうと思います。現状はまだまだ黎明期ではありますが、今後は観戦経験者の口コミを通じて益々盛り上がっていき、「ゲームはしないけれど応援しているeスポーツ選手はいる」という人々が日本でも増えていくはずです。

5.終わりに

「令和」を迎えた2019年は、「スペースインベーダー(1978)」の発売から41年、「ファミリーコンピュータ(1983)」の発売から36年が経過し、かつてテレビゲームに熱中していた世代もすっかり親となり、ゲームから離れてしまった人も多いかと思います。前章のアンケートにて「大会会場へ観戦しに行きたい」という回答を選んだ40代男性の方が、その理由として「子供には、新しい時代を見せておきたい」という回答をされていました。初めての観戦はハードルが高いと思いますが、一度会場へ足を運んでみると新しい時代を感じることができるのではないかと思います。

 

出典
(注1)ESL Gaming, The Katowice Recap,
https://www.eslgaming.com/article/katowice-recap-4220
(注2)Gzブレイン, 新着情報「2018年日本国内eスポーツ市場規模は48.3億円と推定。前年比13倍の急成長。」http://gzbrain.jp/pdf/release181211.pdf