観光系専門学校の留学生、卒業生に聞いた 留学生活の中で、日本で働くために役立ったこととは

日本を訪れる外国人が増加し、観光業とりわけ宿泊業においては外国から訪れるお客様を応対する人材として外国人留学生や卒業生をアルバイトや正社員として採用する企業が増えています。では実際、日本の観光業や宿泊業に採用された留学生や卒業生は学生時代に何を学び、アルバイトとして何を経験し、日本で働くために何が役立ったと考えているのでしょうか。

仲田 耕太郎

仲田 耕太郎 観光教育事業部 マネージャー

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目次

日本を訪れる外国人が増加し、観光業とりわけ宿泊業においては外国から訪れるお客様を応対する人材として外国人留学生や卒業生をアルバイトや正社員として採用する企業が増えています。

独立法人日本学生支援機構(JASSO)の調査によると2018年5月1日現在の留学生は298,980人、うち専門学校で学ぶ留学生は67,475名と全体の22.6%で、国別では1位中国、2位ベトナム、3位ネパールとアジアからの留学が多くを占めています。このように多くのアジアの学生が日本を留学先に選ぶ理由として欧米と比較して学費が比較的安いこと、治安がいいこと、1週間に28時間までアルバイトとして働くことが認められている(*)ことなどがあげられています。では実際、日本の観光業や宿泊業に採用された留学生や卒業生は学生時代に何を学び、アルバイトとして何を経験し、日本で働くために何が役立ったと考えているのでしょうか。本コラムではJTBグループの専門学校「JTBトラベル&ホテルカレッジ(以下カレッジ)」の留学生へのアンケートおよび卒業生のインタビューをもとに、考察します

(*)外国人留学生が日本でアルバイトするためには、「資格外活動許可」を申請し、許可を得た上で、1週間に28時間以内の労働が認められています。また、風俗関連業界(バー、クラブ、パチンコなど)でアルバイトをする事は禁止されています。(入管法第19条(資格外労働の許可)より)

1.観光系専門学校の留学生へのアンケートからみえる日本を留学先に選んだ理由

アンケートは2018年6月、カレッジで学ぶ留学生2年生54名に実施し、52名の回答をいただきました(回数率96.3%)。国・地域の内訳は中国32名、ベトナム8名、韓国5名、ミャンマー3名、台湾、ネパール、インドネシア、マレーシア各1名です。

(1)日本留学の目的は、「学ぶこと」「働くこと」「暮らすこと」

はじめに「なぜ彼ら(留学生)は日本来たのか」について聞いてみました。図1からわかるように、彼らは日本のことや自分の興味のあることを勉強したいという「学ぶこと」、日本の企業で就職したいという「働くこと」、そして日本で生活したいという「暮らすこと」の大きく3つを理由に、日本の留学を決意していました。ドラえもんやONE PIECEなどのマンガによって日本に憧れを持った留学生も複数名いました。

【図1】「日本に留学しようと思った理由」

日本に留学しようと思った理由

(複数回答)単位:人

(2)専門学校を選んだ理由と選んで良かったことの変化

留学生は、来日後1年半から2年の日本語学校を経て、大学へ進学するか専門学校へ進学するか自らのキャリアを選択します。カレッジの留学生は図2の通り、自らの成長や自分の就職先を意識して、進学先を決定しています。しかしながら専門学校で学び、学校生活を送る中で、留学生の専門学校に対する評価に変化が表れてきます。2年次の6月時点で「この学校を選んでよかったこと」として回答したものは、図3の通りです。

2位の「専門知識やスキルが身についた」を除き、1位および3位から5位は進学時には想定しておらず、入学後に「よかった」と評価している項目です。

1位の「日本人のマナーや社会人になるための基礎力が身についた」は「遅刻をしないこと」、「約束、ルールを守ること」、「挨拶を礼儀正しくすること」などでカレッジではこれを繰り返し指導しています。留学生にとって先生に叱れること、注意されることは決して気持ちのいいことではないでしょう。それにも関わらずこの項目が一番良かったと評価されるのは、「アルバイトの店長に認めてもらえた」、「ゴミ出しのルールが理解できた」など日本での生活やアルバイトに役立ったからと思われます。

3位の「日本語が上達した」については、単に日本語検定の2級、1級(N2、N1)が取得できたという結果だけではありません。日常生活の日本語からビジネスに必要な日本語、そして観光業など接客で必要とされる日本語を学んだことで、「アルバイト先での(日本人の)お客様との会話、コミュニケーションがスムーズになった」と、「働くこと」とのつながりを実感できていることが大きいと考えられます。

すなわち留学生は日本のマナーや文化、アルバイトに役立つ正しい日本語など日本で「暮らすこと」、「働くこと」につながる「学び」を高く評価していると言えるのではないでしょうか。

担任の先生は留学生のアルバイトについて以下のように語っています。「留学生には法定時間の週28時間を厳守させるだけでなく、仕事内容にもアドバイスをしています。コンビニはオペレーションを覚えるだけで、日本語の上達にはあまりつながらないので、ファミリーレストランのアルバイトを推奨しています。逆にアルバイトをしていない留学生にもアルバイトで接客を経験することをすすめています。」

カレッジでは学校で学んだ日本語を働く場で使うことができるよう、留学生のアルバイトについてもアドバイスをし、留学生が「学んだこと」を「働くこと」につなげられるよう支援していました。

【図2】「この学校を選んだ理由」

この学校を選んだ理由

(複数回答)単位:人

【図3】「この学校を選んでよかったこと」

この学校を選んでよかったこと

(複数回答)単位:人

2.卒業生(元留学生)Iさんのインタビューから

次に現在日本企業(具体的にはホテル)で働く元留学生(卒業生)Iさんのインタビューから日本企業で働くうえで必要な能力は何かを考えてみます。

Iさんはカレッジを卒業し、都内のホテルで勤務2年目(インタビュー当時)、客室・ロビーサービスを担当しています。Iさんは「今の職場で自分が頑張れるのはカレッジで学んだおかげです」と学校での学びを高く評価しています。Iさんが評価している学びは以下の通りです。

(1)日本のルールとマナーの習得~「学ぶこと」を「暮らすこと」、「働くこと」につなげる~

Iさんは専門学校時代に学んだ日本のルール、マナーを以下のように語ってくれました。「時間を守ることはカレッジで教わりました。この習慣が身についたおかげで今の仕事がきちんとできています。『郷に入れば郷に従え』、この言葉は担任の先生から教わりましたが、今でも意識している言葉です。日本には日本のルールがあり、職場には職場のルールがあります。個人情報の取り扱いについても、これがこの職場のルールだと理解して仕事をしています。」またIさんは社会人になってはじめて学校で学んだ意味がわかったと以下の様に語ってくれました。「社会人になって『あいさつ』の大切さを実感しました。出退勤時のあいさつと笑顔は働く上で必要なことですね。学校であいさつ、笑顔を繰り返しする意味が社会人になって改めてわかりました。」

(2)「正しい」日本語の学び~「学んだこと」を「暮らすこと」、「働くこと」につなげる~

Iさんは「カレッジでは日本語が上手になったと言うより、『正しい』日本語を学びました」と「正しい」を強調していました。カレッジの日本語の授業では「です」「ます」「はい」の丁寧語や敬語を徹底して教えています。観光業やサービス業で働くためには、お客様に満足していただかないといけないため、通じる日本語ではなく、「正しい」日本語を身につけるよう指導しています。

Iさんは専門学校時代に日本語のレベルが上がるごとにアルバイトの仕事内容を変えていました。最初は飲食店の調理から始め、次にホールへと仕事を変え、さらにコンビニのレジからスーパーのレジに仕事を変えて、週末にはビジネスホテルのフロントの仕事もしていました。カレッジで学んだ「正しい」日本語をスーパーやビジネスホテルのフロントで実際に使うことで、日本語によるコミュニケーションに自信をつけていきました。まさに専門学校で「学んだ」日本語をアルバイトで実際に使うことで、自ら「学ぶこと」を「働くこと」につなげていきました。

(3)日本の文化や他国の文化を知る授業や学校行事の大切さ

Iさんは教師の指導のみならず文化祭など学校行事を高く評価しています。「専門学校時代にベトナム、ロシア、ミュンマー、台湾、ネパールなどいろいろな国の人と知り合いになれて、みんなと日本語で話せた経験は非常に良かったです。特に文化祭や国際交流文化の授業で、各国の人がその国の物産を展示したり、踊りを披露したり、お国自慢をしてくれて、こんな国もあるんだと驚いたのを思い出します。今、ホテルで働いているので専門学校時代にいろいろな国の文化に触れたことはものすごく役立っています。」また日本の文化については、学校で直接触れる機会を作ってくれたことがホテルで働く上で役立っていると以下のように語ってくれました。「学校の近くでやっている盆踊りに参加したりして、日本文化に直接触れられたことは、日本のお客様の接客に生きています。」Iさんの場合、日本企業で働く上で大切なことは、日本のルールやマナー、そしてその企業のルールを守ることと捉えています。だからこそ、専門学校で日本のマナーを身につけ、学校のルールを守る習慣が身につけられたことは、日本企業に馴染むのに役立ったと認識しています。また正しい日本語など専門学校で「学んだこと」を「暮らすこと」、「働くこと」につなげていくことで、よりレベルの高い仕事や生活ができていると実感しています。

3.まとめ

以上留学生や卒業生の調査から、カレッジでは外国人留学生が日本企業に就職し、働き続けるために、単に専門的な知識やスキルだけではなく、日本のルールやマナーや文化、「正しい」日本語を身につけることを重視しています。留学生や卒業生にとっては、このことが日本の宿泊業、観光業で働くうえで役に立っていたことがわかりました。

今年(2019年)4月「特定技能」という新たな在留資格が導入され、宿泊業においては4月14日に第1回宿泊技能測定検定が実施されました。全国7会場で391名が受験し、合格者は280名、合格率は71.6%でした。今後「特定技能」の在留資格で働く外国人に対しても、単に「労働者」として「働く」だけでなく、「生活者」として日本で「暮らす」ために、日本のマナーや文化、「正しい」日本語を「学ぶ」機会をつくることが必要ではないでしょうか。