『関係人口』-観光でも定住でもない地域の新たな戦略-

人口減少が進む地域をいかに活性化させるかという国の政策、すなわち「地方創生」においては、観光振興による「交流人口」の拡大と、生活環境の整備やシティプロモーションなどによる「定住人口」の獲得が中心的な施策になっていますが、昨今、観光でも定住でもない地域外の人々との多様なつながり方を考える『関係人口』という考え方が注目されています。本稿ではまずこの『関係人口』の概要を俯瞰し、昨年から筆者がファシリテーターとして参加している長野県高森町における関係人口づくりの取り組みについて紹介します。

吉口 克利

吉口 克利 主席研究員

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目次

1.「関係人口」とは

そもそも“地域外の人々との多様な交流”は観光が担う領域*1ともいえます。しかし、昨今の観光政策において使われている「交流人口」というワードは、観光入込数×観光消費による直接的な経済効果を求める、すなわち旅行者をたんに消費の単位として考える狭い意味合いが持たされてしまっているようにも見えます。

一方で、地域への移住者を募り「定住人口」の獲得を目的とする取り組みとして、自治体は生活環境の整備やシティプロモーションなど移住促進のための施策を行っていますが、“このまちに骨を埋める覚悟はあるか”という地域側の強い想いが、いずれ地域で暮らしてみたい、地域で自分を活かしてみたいと考えている人にとって非常に高いハードルになっているものと思われます。「関係人口」の取り組みはこの狭義の観光=「交流人口」と心理的なハードルの高い移住=「定住人口」の間、地域外の人々と地域の多様で継続的な関わり方を考える取り組みとして語られています。

明治大学農学部教授の小田切徳美氏は「関係人口」を「農村に対し多様な関心を持ち多様に関わる人の総称」と定義し、(1)地域の特産品の購入⇒(2)地域への寄付⇒(3)頻繁な訪問⇒(4)地域でのボランティア活動⇒(5)準定住(二地域居住など)⇒(6)移住・定住という「関わりの段階」で説明しています。一言でいうと、地域のファン、地域の課題解決にも関わってもらえる地域外の人々とのネットワークを拡げる取り組みといえるのではないでしょうか。

2.「関係人口」の社会的背景 ~地域を志向する若者たちの増加~

では、都市居住者で地域と関係を築きたいと考える人々はどの程度いるのでしょうか。2014年の内閣府による農山漁村に関する世論調査*2の結果を見ると、農山漁村地域への定住願望がある都市居住者は全体で31.6%おり、2009年度の調査結果(20.6%)を大きく上回っています。女性と比べ男性で意向者は多く見られ、特に20代男性では47.4%と多くが意向を示しています。

ローカル・ジャーナリストの田中輝美氏(2017)は、都市の若い世代を中心に関わりたい場所としての地方への関心が高まっており、「ソーシャル」な志向性が若者の特徴となっているとしています。また、雑誌「ソトコト」の編集長である指出一正氏(2016)は、バブル崩壊後に育った世代の価値観について、小さなコミュニティの属性や多様な嗜好性、仲間との共感性などに価値を置き行動する「ソーシャルネイティブ世代」と表現し、このような価値観がリーマンショック以降に顕著に表れたとしています。

【(農山漁村地域に定住してみたいという願望が)ある+どちらかといえばある】
農山漁村地域への定住願望

内閣府「農産漁村に関する世論調査」2014,2009結果/筆者図表化

2014年に出版された伊藤洋志氏&pha氏(2014)の著書、『フルサトをつくる 帰れば喰うに困らない場所を持つ暮らし』は、「地方創生」のタイミングと重なり話題になりました。

京大出の二人が熊野にシェアハウスをつくり二地域居住をした体験から、“拠点がいくつかあった方が思考は柔軟になる”、“都会か田舎かという二者択一を超える住まい方を考えたい”といったように、まさに「関係人口」が語る定住ではない地域との継続的な関係の在り方などについて語っており、都市生活者の「関係人口」の考え方、逆に「関係人口」を模索する地域の在り方など柔軟で示唆的な考え方が提示されています。

3.インキュベーションの場づくりとしての関係人口

総務省は平成30年度「関係人口」創出事業として賛同する自治体を募集し、地域との関わりを持つ人たち(地域にルーツのある者や地域に一定の関心を持つふるさと納税者など)や、これから地域と何等かの関わりを持ちたいと考えている人たちに対し、地域とのつながりの機会づくりや、地域課題の解決等に継続的に関わるきっかけを提供する事業を実施しました。各自治体で様々な取り組みが行われていますが、新たなキーワードが生まれると、話題性の高い事業内容が優良事例として他の自治体にもヨコ展開される中で、「関係人口」という考え方が持つ本来の意味、地域ごとに異なる柔軟な発想が薄れてしまわないよう注意する必要があります。これは観光でも同様ですね。

指出氏(2017)が「大切なのは全体ではなく個としての存在をしっかりと歓迎することです。そろそろ人を数で語る時代とはさよならをして、顔と名前を覚える時代が『地方創生』の次なるステップになるかもしれません」というように、著者も地域内外の多様なキャラクター、人財をどう結び付けていくかを地域ごとに模索していくこと、それにより様々な取り組みが生まれる場を育てていくことが重要ではないかと感じています。これはこれからの地域の観光を考えていく上でも重要なポイントになるのではないでしょうか。

4.長野県高森町での関係人口の取り組み ~地域の取り組みを形骸化しないために~

高森町は長野県の南信エリアの中心都市である飯田市に隣接する町で、天竜川を見下ろす河岸段丘に拡がる緑豊かな町です。現在は新宿バスタから高速バスで3時間40分ほどかかりますが、2027年には隣接する飯田市にリニアの駅が完成し、東京-飯田間は40分で結ばれ、大幅なアクセス向上が見込まれます。柿、リンゴ、桃などの果樹栽培が盛んで、柿は「市田柿」として高級干し柿のブランドにもなっているので聞いたことのある人も多いのではないでしょうか。また、明大野球部で「御大」と呼ばれていた島岡吉郎監督(星野仙一などプロ野球選手を数多く輩出した監督)の故郷ということで、明大野球部の夏の合宿地にもなっている他、天竜川ではカヌーが盛んです。

市田柿

画像提供:高森町

この町で昨年、地域で活躍する30~60代の有志が集められ、『タウンプロモーション計画策定 -この町を愛する町民と、関係人口を増やすために-』というタイトルで、月1回、18時~21時に役場に集まり、町長が掲げた「関係人口」をどうつくり上げていくかを話し合ってきました。筆者はこの会にファシリテーター的位置づけで参加し、そのプロセスを参与観察させていただきました。

マルシェを定期的に出店し、首都圏の観光協会などと相互交流をしている女性、町に1軒だけの温泉宿泊施設の運営に携わる中で、来訪者にもっと町の魅力を伝える方法があるのではと考えている女性、地域に根を張りながら町のあらゆることに精通している商工会青年部長、町の農業に精通している果樹農園の生産者、農業体験などを受け入れている市田柿のイケメン若手生産者、地域の歴史・文化に精通しボランティアガイドのリーダーを務めている60代の男性など、すでに地域外の人々と様々な関係を築いているメンバーが町の産業課の呼びかけで集められました。商工会青年部長の “なんでここに呼ばれたか分からない。面白くなかったら次から来ない”という自己紹介から始まった協議会は、町の居酒屋での親睦会も含め毎月コンスタントに行われ、行政が何をしてくれるかではなく自分たちに何ができるかという発想で話し合いを続け、少しずつ方向性が見えてきました。

最終的には、関係人口の接点となるコンテンツが整理され、タイムリーな情報を集約し情報提供を行う拠点づくりをはじめとしたアクションプランが完成し、メンバー個々人が得意分野の役割を担う形で今年度から取り組みを開始することになり、4月には町長から彼らに委嘱状が渡されました。

関係人口づくりの重要なプレーヤーとしては、地元出身の学生などに町が呼びかけ結成された「高森町わかもの特命係」の取り組みも見逃せません。地元のイベントやPRには欠かせない存在となっており、大学を卒業してからも町の魅力を発信していきたいと意欲を見せています。
https://www.instagram.com/wakamonotokumei/

高森町わかもの特命係

画像提供:高森町

高森町では若手職員を中心に町の課題解決+活性化を考えるプロジェクトが進められています。人の手が入らず荒れてしまった河岸段丘の傾斜地に茂る木々や竹林の問題解決を考える「段丘林プロジェクト」、地域の将来像の見える化(修景デザイン)の取組として滞在型の農業公園を考える「パノラマ農園プロジェクト」、人々で賑わう天竜川の水辺を活かしたまちづくりを考える「かわまちプロジェクト」など、若手職員が先進事例を視察し、検討を重ねていますが、これらのプロジェクトの全てにキーワードとして「関係人口」が掲げられています。多くのプロジェクトが個別に進められている状況を多くの自治体で目にしますが、行政のプロジェクトではこのように様々な取り組みをキーワードでつなぎ、同じビジョンを持つことが非常に重要ではないでしょうか。関係人口、タウンプロモーション(観光施策や地域ブランディングも同じ)は、どれだけ多くの住民の方がプロジェクトに参画されるかが最も重要な指標になると思います。まだまだ始まったばかりのプロジェクトですが、展開が非常に楽しみです。

 

注)

*1 小田切(2018)は、「交流」という言葉は多様で奥行のあるものが想定されていたが、その後の経過の中で短期の観光として語られるようになり、交流人口の持つ本来の意味と、新たな要素を加えて「関係人口」という新しい言葉が登場したとしている。

*2 2014年調査/調査概要:母集団:全国の市区町村に居住する満20歳以上の日本国籍を有する者
   標本数:3,000人/有効回収数:1,880人(回収率62.7%)
   地点数:210市区町村
   抽出方法:層化2段無作為抽出法
   調査手法:調査員による個別面接聴取法

参考文献
  • 田中輝美,2017,『関係人口をつくるー定住でも交流でもないローカルイノベーション』木楽舎
  • 伊藤 洋志,Pha,2018,『フルサトをつくる-帰れば食うに困らない場所を持つ暮らし方』ちくま文庫
  • 指出一正,2016,『ぼくらは地方で幸せを見つける ソトコト流ローカル再生論』ポプラ新書
  • 小田切徳美,2014,『農山村は消滅しない』岩波新書
  • 小田切徳美,2017,『農山村は消滅しない』岩波新書
  • 小田切徳美,2018,「関係人口という未来-背景・意義・政策」『月刊ガバナンス2018.2』ぎょうせい
  • 総務省,2018, 『これからの移住・交流施策のあり方に関する検討会報告書』
    http://www.soumu.go.jp/main_content/000529409.pdf
  • 総務省,2018,「関係人口」創出事業資料
    http://www.soumu.go.jp/main_content/000548030.pdf
    内閣府,2014,「農山村に関する世論調査」
    https://survey.gov-online.go.jp/h26/h26-nousan/2-3.html
  • 農林水産省,2014,「農山村に関する世論調査」分析資料
    http://www.maff.go.jp/j/nousin/nouson/bi21/pdf/sanko1_140926.pdf
  • 総務省 地域への新しい入口『関係人口』ポータルサイト
    http://www.soumu.go.jp/kankeijinkou/discription.html
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