観光統計2020特別版 ~2020年の旅行予測~
2020年の旅行・観光について、昨年末JTBは「2020年の旅行動向見通し」を発表しました。その内容に基づき、旅行者を起点とした未来につながる注目すべき動きを紹介します。
目次
2020年における日本人の旅行市場
- オリンピックイヤーで、2020年はワーケーション元年になるか
- 個人旅行化が顕著に進む。パッケージツアーは使い分け
- 堅調な雇用環境に支えられた「Z世代」、自分の時間ができ始めた「バブル世代」が海外旅行をけん引
2020年における訪日インバウンド市場
- 世界的な環境意識の高まりで、SDGsへの取り組みなしでは「選ばれない」時代に
- インバウンド市場は量から質へとシフト。「体験」の重要性が増す
最新の観光統計
1.2020年における日本人の消費と旅行
米中貿易摩擦や中東情勢の悪化などから世界的に経済が減速しています。日本経済も例外ではなく、消費増税の影響もあって、2020年の消費は全般的に抑え気味になると考えられます。しかしながら、2014年の増税後の動きをみると、1年程度の期間を経て緩やかに回復基調となりました。また、「東京2020大会」開催に伴う精神的な高揚感や訪日外国人旅行者による経済効果を踏まえると、後半での回復が期待されます。
オリンピックイヤーで、2020年はワーケーション元年になるか
政府は2020年東京オリンピックの開会式にあたる7月24日を「テレワーク・デイ」と位置づけ、2017年から働き方改革の国民運動を展開してきました。2019年には首都圏だけではなく、全国2887の企業や団体、約68万人が参加しました。2020年はいよいよ本番の年となることから、ノマドワーク(場所にとらわれない働き方)が本格的に広がると考えられます。当社の調査結果では、過去1年以内に業務旅行を経験した人のうち、31.5%はワーケーション(休暇中に業務を実施)やブリージャー(業務旅行に休暇を付加)が進めば、より休暇が取りやすくなると考え、特に若い世代(ミレニアル世代、Z世代)は“ワーケーション”に肯定的でした。また、普段から場所にとらわれない働き方をしたいと考える割合も両世代で高い傾向でした。
企業側でも、国が進める“関係人口(定住や観光とは違う形での地域とのかかわり)”の促進、社員の生産性やワークライフバランスの向上などを目指し、柔軟な働き方ができる環境を整備する動きが増えています。ノマドワークが一般的になれば、日本国内に限らない働き方も広がっていきます。イノベーションを促進し、グローバルな競争力を高めるためにも、副業も含めた従業員の柔軟な働き方を支援・推進する動きが活発化しそうです。
「暮らすと旅する」、「オンとオフ」の境界がなくなる日も近いかもしれません。
個人旅行化が顕著に進む。パッケージツアーは使い分け
国内旅行はもとより、海外旅行でも個人旅行化が進んでいます。JTBが経年で実施している旅行に関する調査では、FIT(個人旅行)の割合は年々増加し、2018年における国内旅行では75.8%、海外旅行では47.5%(ダイナミックパッケージも含めると、それぞれ83.6%、62.5%)に達しました。一方、大きく減少をしているのはスケルトンツアー(宿泊施設と交通手段だけの自由行動型パッケージツアー)です。JALとANAは2020年春をめどに、旅行会社のパッケージツアー向け運賃を価格変動型(ダイナミックプライス)に移行するとしました。これにより、一定期間、価格が固定される店頭型のツアー商品は作りづらくなり、存在感が低下すると予想されます。また消費者にとっては、日々価格が変わることで、商品の選択に迷う場面もありそうです。加えて、スマートフォンでの購買が増えたことで、予約の際の検索や入力などの手続きの煩雑さを避け、宿泊や交通手段のそれぞれを単品で購入する人も多くなりました。今後は、いかに商品や価格の透明性を高め、わかりやすく消費者の元へ届けられるかがカギとなりそうです。
一方、前述の調査結果をみると、添乗員付きのエスコートツアーが全体に占める割合は決して大きくはありませんが(国内旅行4.5%、海外旅行12.7%)、ここ4、5年の動きをみても同じようなレベルを維持しています。例えば、「初めて行く」、「個人では移動が難しい」、「ツアーでしか訪問できない場所がある」といった旅行先においては、パッケージツアーの利用意向は根強く、旅行先による使い分けも進むと考えられます。
堅調な雇用環境に支えられた「Z世代」と自分の時間ができ始めた「バブル世代」が海外旅行をけん引
海外旅行は2020年も増加を見込みます。JTBが2019年11月に実施した調査によれば、「今後1年間はこれまでより総旅行支出を増やしたい」という回答が全体平均を超えたのは、20代の男女と50代の女性でした。景気は減速しつつあるとはいえ、人手不足により雇用環境は堅調で、大手企業の2019年冬のボーナスは過去最高となりました(経団連発表による)。若者は雇用環境や所得増が消費に反映されやすい傾向があります。特に20代前半にあたるZ世代はグローバル社会の中で、世界に視点が向いている世代でもあり、2020年も海外旅行をけん引する存在として注目されます。
また、バブル期にモノやコトに対して豊富な消費経験がある50代前後の女性は子育てが終わり、自分の時間ができ始めました。海外旅行への意欲も高まっていると考えられます。この世代はファッションやライフスタイルのお手本として欧州文化に関心が高いことや、人とは少し違うことをしたい、旅行先ではいい宿に泊まりたい、といった意識があることから、旅行先の選択や現地での行動にも変化が生じるかもしれません。
2.2020年における訪日市場
世界的な環境意識の高まりで、SDGsへの取り組みなしでは「選ばれない」時代に
2015年の国連サミットで、持続可能な開発目標(SDGs)が採択され、各国で持続可能な消費や生産、気候変動などへの取り組みが始まっています。アジアでも、2017年の中国による廃プラスチックの輸入規制を皮切りに、プラスチックゴミの規制が進みました。また、スウェーデンなど北欧を中心に環境負荷が高い飛行機の利用を控え、電車などの利用に変えようとする動きも広がっています。2018年にスウェーデンで「飛び恥(flying shame)」が流行語大賞となったのは象徴的な出来事といえます。
BtoBの関係性の中でも変化が見られます。サステイナビリティの認証や基準に準拠したサービス・商品であることがビジネスの条件として求められるようになり、それに呼応するように、環境への取り組み強化を宣言する企業も増えてきました。また、観光はすそ野が広い産業であることから、SDGsが掲げる目標の全てに貢献できることが期待されています。
Booking.comが2019年に実施した「サステイナブル・トラベル」についての調査結果では、世界の旅行者の72%が「次世代のために地球を守るには、人々は今すぐ行動しサステイナブルな選択を行う必要がある」と回答したのに対し、日本は40%に留まり、環境意識の低さが浮き彫りとなりました。このような国内の現状を認識し、それに甘んじることなくグローバルな視点でサステイナビリティへの真摯な取り組みを行わなければ、いつの間にか日本は、世界の旅行者から「選ばれない旅行先」となってしまう可能性もあるのではないでしょうか。
インバウンド市場は量から質へとシフト。「体験」の重要性が増す
観光庁は、「観光ビジョン実現プログラム2019」の中で、「地域の新しい観光コンテンツの開発」を掲げ、国立公園や文化財などの活用を通じて魅力あるコンテンツを提供し、地域への訪日外国人旅行者の誘客・消費拡大の推進につなげるとしました。
当社の調査結果から、訪日富裕層や、何回も日本を訪れるリピーター層は、地域を訪れることに関心が高く、「体験」を通じて日本の自然や文化に触れたいという意識も高い傾向であることがわかっています。
数ある「体験」の一つとして注目したいのは、アドベンチャーツーリズムです。アドベンチャーツーリズムは、「アクティビティ」、「自然」、「異文化体験」の3つを柱とし、地域の持続可能な発展と地域経済の活性化を目指すものです。世界の旅行市場の年平均成長率が3~5%であるのに比べ、アドベンチャーツーリズムは2012年以降、年20%前後の成長率を維持し、アメリカでの経済規模は約6800億ドルに達するともいわれています。日本では、現地の「体験」ツアーといえば「旅行中の空いた時間を埋めるもの」というイメージがありますが、海外では、それ自体が旅行の目的となるような高額な「体験」ツアーも少なくありません。今後は日本においても、本格的な体験型の現地ツアーが求められるでしょう。
訪日外国人旅行者の増加に伴い、各地でオーバーツーリズムの問題も出てきています。前述のサステイナビリティへの取り組みとも関連し、「量(旅行者数)」だけではなく、消費単価の増加など「質」の確保へとシフトが進みそうです。