観光BuyLocalについて考える

観光消費が地元事業者に経済効果をもたらすために必要なことは何か。宮古島市との連携で行った調査から考察します。※本コラムは、株式会社不動産経済研究所発行「不動産経済FAX-LINE」(2019年9月18日号)に掲載された原稿を、許可を得て再掲するものです。

篠崎 宏

篠崎 宏 フェロー

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目次

観光は日本を代表する産業に

訪日外国人観光客が3000万人を超え、21世紀のリーディング産業として観光産業への期待が高まっている。その一方で入込客の増加による観光消費が地元事業者にまで十分に波及せず、その効果が一部の業種に限定されているという課題が出ている。オーバーツーリズムと言われている地域でさえ、農業、漁業、加工業、小売業のデータが減少している例が散見され、観光が総合産業としてのポテンシャルを発揮できていないという声も聞こえている。

観光政策推進の目的は、観光消費が地元事業者へ経済効果を及ぼすことであり、地元事業者間の域内調達率を高めることである。2017年に改訂された観光立国推進基本計画の基本方針では下記が述べられている。

【観光立国推進基本計画】

この基本計画においては、特に以下の方針に基づいて、政府を挙げて観光立国の実現に向けた施策を推進することとする。

  1. 国民経済の発展 ―観光が、日本経済を牽引し、地域を再生する―
  2. 国際相互理解の増進 ―観光が、真に開かれた国をつくる―
  3. 国民生活の安定向上 ―観光が、明日への活力を生む―
  4. 災害、事故等のリスクへの備え

「観光客急増=地域経済発展」になっていない

つまり観光は地域経済に寄与することを目的のひとつに行うものであり、当然ながら地元住民および事業者の経済的なメリットが大前提である。

私が観光計画策定をサポートした沖縄県宮古島市は、2015年1月に宮古島と伊良部島を結ぶ伊良部大橋が開通、これを機に観光客が急増し、開通前年度の2013年度は40万391人だった観光客が2018年度には114万3031人に達している。2019年3月にはパイロット訓練用空港であった下地島空港が、LCCおよびチャーター機専用の空港として運用を開始、2020年度には新たなクルーズターミナルもオープンする予定である。これに伴い、島外資本による宿泊施設を中心とする観光施設への投資が促進され、まるでバブル期の日本のような様相を呈している。

順風満帆なように見えるが、観光政策の根幹を揺るがす大きな課題が見えてきている。観光入域客、観光消費額の伸びに対して、製造業出荷額や小売業年間商品販売額はほぼ横ばいが続いているのである。つまり観光客の増加が地域経済への波及効果を十分に及ぼしていないのである。

オーバーツーリズムとさえ言われている宮古島市の観光が抱える深刻な課題をまとめると、下記になる。

  • 域内調達率が低く、地元事業者に経済効果が波及していない。住民所得が増えていない。
  • 人手不足から営業時間を短縮している店が多く出ている。
  • 住宅&土地が高騰しており、新築だと1Kでも賃料10万円を超える。この1年で賃料が15%上昇している。
  • 観光客の季節波動と第1次産業の季節波動によるミスマッチに対して設備投資等の対策が遅れている。大型ホテルは食材の通年安定供給を地元の第一次産業に条件提示しており性能が高い冷凍冷蔵設備への投資が必要である。現状は島外の卸業者から県外島外食材を多く購入している。
  • クルーズ寄港が大幅に増えているがバス会社、タクシー会社以外は売上が増えていない。
  • 地元住民の観光事業者への好感度は17%しかない。

(2018年度JTB総合研究所調査)

宮古島経済指標

地元経済をも発展させる観光BuyLocal

観光による健全な経済発展を促すためにも、「観光BuyLocal」を国を挙げて浸透させる時期にきていると考えている。BuyLocalとは、アメリカの各地に大型スーパーが進出する際に、地元商店街等がスクラムを組んで、「地元の商店で買うことが良質な商いを育て、地域の魅力を増すことにつながる」という運動を展開した際に使ったフレーズである。私が提唱する「観光BuyLocal」 は、観光客の基本的なニーズが地元でとれたものを地元で加工して地元で販売することにあると捉え、観光消費の域内調達率を高める取り組みを官民が連携して行うことである。その際には、従前のプロダクトアウト的なやり方ではなく、観光客の需要と地元事業者による供給の差を数字化して、その差をビジネスチャンスとして地元資本による投資や地域金融機関の融資の基準とする必要がある。

JTB総合研究所は宮古島市と連携して、「宮古島食材の需要供給調査」を実施、観光客の需要と地元事業者による供給ギャップの数字化を行い、地元の事業者への波及効果を最大化する「観光BuyLocal」を推進していく。

観光BuyLocal