観光マーケティングにペルソナマーケティングは有効か?

最近、「ペルソナ」という言葉をマーケティング関連の記事やネットニュースなどで見かけることが多くなったように感じます。「ペルソナ」自体は、以前から使われてきたマーケティングツールの一つですが、今、改めて注目されているのは何故なのでしょうか?本コラムでは、時代に応じたマーケティングの変遷とともに、観光にペルソナマーケティングはどのように活用できるのかを考えてみたいと思います。

早野 陽子

早野 陽子 主任研究員

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目次

マーケティング分野では、従前より、「ペルソナ」は商品やサービスのターゲットを明確に定めるために作られていました。そしてコロナ禍の今、改めて注目されています。なぜ今「ペルソナ」が注目されているのでしょうか。そして「ペルソナ」に近い概念として「セグメント」がありますが、これらはどのように使い分けられているのでしょうか。

1.マーケティングリサーチ(マーケティングデータ)の活用は無駄なコストを抑え、生産性を上げることにつながる

マーケティングは、もともと、マスマーケットに対して求められるモノを効率的に提供するために、製造業などで始まった活動(マーケティング1.0)です。
 マーケットの成熟化やICTの進展などに伴い、顧客志向、価値志向、共創志向など、時代とともにマーケティング自体も進化を遂げてきましたが、マーケティングリサーチ(マーケティングデータ)はマーケティングの定義(*1)の中でも最初の部分である「顧客の欲求と満足を探る」にあたり、効率的に商品やサービスを提供するための活動の核として、現在でも重要な位置を占めています。
 要するに、適切なマーケティングリサーチの実施やマーケティングデータの活用から、「自分たちの強みや弱みは何か?」「どんな人が自分たちの商品を求めているか?」「どんな商品やサービスを提供するべきか?」「どれくらいの価格設定にするべきか?」「商品やサービスの改善点はどこか?」など、顧客の求めることを知り、顧客にあった商品・サービスをつくることで、効率性をあげ、無駄なコストの発生をおさえることにつなげることができるのです。
 このようにサービスや商品づくりのベースとなる情報として欠かせないマーケティングリサーチ(マーケティングデータ)ですが、利用される種類や目的は時代によって変化してきたように感じます。

(*1)【マーケティングの定義とフロー】(定義はマーケティングリサーチ協会による)
(1)顧客の欲求と満足を探り⇒マーケティングリサーチ(マーケティングデータ)
(2)創造し⇒サービス・商品開発
(3)伝え⇒プロモーション
(4)提供する⇒販売

2.最近よく聞く、ペルソナマーケティングとは

時代を追って、活用されてきたマーケティングリサーチ(マーケティングデータ)をみてみると、高度成長期、提供すればするだけ物が売れる、という状況下においては、複雑な消費者ニーズを把握する必要性はあまり高くなく、「どの程度売れるか」という量の把握のための、いわゆるアンケート調査などが主流でした。
 しかしながら、バブル崩壊後は、日本市場の成熟化に伴って、消費者のニーズが多様化し、量から質の時代に転換したことや、経済の低迷により物が売れない時代となったことで、より消費者のニーズを深掘りする必要が生じ、インタビュー調査などが広がりました。
 その後、スマートフォンの普及やICTの進化などにより、消費者が意識しない動きなどをとらえる、位置情報データなど各種ビッグデータの活用が進んだのが、ここ10年ほどの動きです。
 そして、昨年ごろから増えてきたと感じるのが、「ペルソナ」づくりの動きです。ペルソナは、文字通り、個々の消費者の姿を、より具体的に、より詳細に浮き彫りにすることを指しますが、なぜ今、改めて「ペルソナ」が注目されているのでしょうか。個人的には、コロナ禍によってスケールメリットを活かした大量集客が難しくなり、「少人数でも利益を得ることができる層はどこか?」、「自分たちの商品やサービスに、より高い価値を認めてくれるのは誰か?」を知るために、マーケットをより詳細にとらえる必要が出てきたためではないかと考えています。

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求められるマーケティングリサーチ・マーケティングデータの変遷

3.「セグメント」と「ペルソナ」の違い

ペルソナと似たような役割を果たすものとして、もう一つ、「セグメント」がありますが、では、セグメントとペルソナはどのように違うのでしょうか。セグメントとペルソナは、どちらも消費者の姿をより具体的に想像し、商品戦略におけるターゲットの設定や、サービス・商品開発の川上から川下まで、関わるメンバー間で認識合わせをする、といった目的で用いられることが多いツールですが、主な違いはその粒度です。
 セグメントは、あくまでも「グループ」であることが前提で、マーケットをいくつかのグループに分け、グループ毎の特徴を明らかにするものです。
(ペルソナを作成する前段階として、ペルソナが含まれそうなグループに当たりをつける、といった活用方法もあり、当社でも、旅行やライフスタイルに関わる価値観から、旅行者像を5つのグループに分けた「旅ライフセグメント5(TLS5)」を作成しています。)
 一方、ペルソナは、グループではなく、ある仮定された一人の消費者について、家族構成や居住地、経済状況、趣味、交友関係など詳細なライフスタイルについて想像(創造)し、サービスや商品のターゲット像とするものです。
 セグメントではなく、ペルソナまで深掘りしてユーザー像を作りあげるメリットは、担当者間で共有するターゲット認識にぶれが少ない、より具体的に必要となるサービスや商品をイメージできる、など様々ありますが、個人的に最も大きな効果だと考えるのは、「ターゲットとする人にとって、不要なサービスや機能は何か」を意思決定しやすくなる、という点です。ユーザー像が曖昧なままでは、「あれもこれも必要かもしれない」と、なかなか切り捨てる判断が難しいですが、ユーザー像が明確になればなるほど、「ああ、この人なら、さすがにこのサービスや機能はいらないね」と考えることができ、過剰なサービスや機能を省くことで、より生産性の向上につなげることができるからです。

4.観光におけるサービスマーケティングにペルソナは活用可能か?

モノづくりのマーケティングと違い、観光などのサービスに関わるサービスマーケティングにおいては、サービスの対象となる範囲が広く、なかなかターゲットの範囲を絞ることが難しいと感じられるかもしれません。そのような場合、ペルソナを一人の「インフルエンサー」と考えてみるのはどうでしょうか。インフルエンサーは一人の個人ですが、そこからSNSなどを通じて情報が波及していき、ひいては多くの人々の関心を惹きつけることにつながります。
 欧米のインフルエンサーマーケティングにおける最近のトレンドは、フォロワー数の多い芸能人やユーチューバー(メガインフルエンサー)から、フォロワー数が少なくても、フォロワーと価値観を共有し、影響力が高い個人(マイクロインフルエンサー、ナノインフルエンサー)へシフトしていると言われています。このことからも、よりターゲットを絞ったマーケティング活動が求められるようになっていることがわかります。
 例えば、バンで日本一周をしながら地域の魅力をYoutubeで発信して人気となった「わたなべ夫婦」は、地域を訪れることや、田舎暮らしに関心の高いフォロワーを多く持っていますが、「わたなべ夫婦」と三重県大紀町の農泊体験のプロモーション事例なども、ターゲットを絞ったアプローチの一つと考えられます。

とはいえ、インフルエンサーの活用にしても、自分たちのサービスや商品のターゲットやアイコンの設定にしても、どんな人物像が適切なのかを選択するのは、なかなか難しい作業でもあります。いわゆる「ゆるキャラ」もアイコンの一つと言えますが、必ずしもそのキャラが自分たちの魅力を具現化するものになっている場合だけではなさそうです。適切な具現化のためには、どのような要素が必要なのか?ということを考える場合にも「ペルソナ」は有効と考えられます。自分たちの商品やサービスを理解し、価値を見出してくれる人物像を明確にし、ピンポイントでアプローチすることで、より共感を得られやすくなるからです。ブランドイメージに合わないインフルエンサーやアイコンを採用してしまうことによるブランドイメージ棄損などのリスク軽減も期待できます。

自分たちの価値観を体現し、ターゲットとなる人々の共感を惹きつけてくれる「ペルソナ」とはどんな人物像なのか?考えてみるのも面白いのではないでしょうか。

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ペルソナ像を構成する要素(一例)と波及効果