アフターコロナにおけるMICE再創造(リイマジン)の取り組み~MICE先進都市シンガポールの最新情報~

小島 規美江

小島 規美江 主席研究員

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目次

1. 2024年には完全回復が見込まれるシンガポールの入国者数

入国制限がなくなって3年ぶりに多くの外国人観光客を目にするようになりました。日本国内におけるMICEも大型の国際会議が開催されるなど、本格的に復活してきています。海外においてはMICEの開催が、さらに活発です。まもなくフランクフルトでIMEXが開催されるのに合わせて、海外から盛んにピーアールのメールが届いています。特に、今年はリゾート地のオールインクルーシブのホテルから積極的なプロモーションが展開されているように思います。

このような勢いを積極的に活用しているのがMICE先進国や先進都市ではないでしょうか。「新たな誘致組織を設立した」とか「新しいホテルがオープンした」などのニュースが続々と入ってきています。その中で、戦略的にMICE誘致を行っていることで世界的に有名なシンガポールについて、政府観光局の方からMICEデスティネーションとして発信しているメッセージをうかがうことができましたので、ご紹介します。

まずシンガポールの入国者数の回復状況ですが、今年第一四半期(1月~3月)は、290万人を超え、コロナ禍前の62%まで回復したそうです。今年1年間の外国人観光客を1200万~1400万人と予測。来年には観光の完全回復が見込まれると発表しています。

2. 「可能性あふれるシンガポールでMICEを再創造(リイマジン)」

シンガポール政府観光局のMICE誘致に関するコアメッセージは「可能性あふれる都市でMICEを再創造(リイマジン)する」。テクノロジー、持続可能性、安全性の高さなどをもとに理想的なデスティネーション・マネジメントの都市としてMICE誘致を行っていくということを意味しているそうです。実現のためのキーワードは、アクセシビリティ(接続性)、イノベーション(革新性)、サステナビリティ(持続可能性)の3つ。
 3つのキーワードの中で、最も印象的なのはイノベーション(革新性)でしょうか。シンガポールのMICE誘致における「イノベーション(革新性)」とは、同国の産業振興策と連動し、金融サービス、都市ソリューション、航空宇宙・ロジスティクス、サステナビリティ、アグリテックなどの業界において、起業家と先進的なパートナーが出会う場所として新境地を開拓し続けていることを意味します。このようなこれまでの実績を活かして、今後もイノベーション、テクノロジー、リサーチのハブであり続けることをMICE誘致の方向性と位置づけています。「シンガポールは新しいアイデアやパートナーシップを生み出す理想的なラウンチパッド(発射台)である」と考えているそうです。

3. シンガポールのサステナビリティ施策

サステナビリティ(持続可能性)もシンガポールが重要視しているテーマの一つです。
 シンガポール政府観光局とSACEOS(Singapore Association of Convention & Exhibition Organisers & Suppliers)は「MICEサステナビリティ・ロードマップ」を昨年12月に発表しました。ここでは3つの具体的な目標を掲げています。

  1. 観光産業界が容易に適用できるサステナビリティ基準を2023年までに策定し、2024年までに国際的に認知される。
  2. 6つのMICE会場とSACEOSのメンバー企業の80%が2025年までに国際的に、またはシンガポール国内で認められた持続可能性認証を取得する。
  3. 「シンガポール・グリーンプラン2030」に沿って廃棄物を削減するために、2023年までに廃棄物と炭素排出量の追跡を開始し、2050年までに二酸化炭素排出量の実質ゼロを達成する。

ロードマップ策定の背景に、シンガポールのMICEの回復が好調であること、持続可能なビジネス旅行の需要が高まっていること、そして何よりMICEイベントが環境に与える影響の大きさとその軽減の必要性についてシンガポールのMICE業界自らが認識している点があります。この点は、私たち日本のMICE業界も見習う必要がありそうです。

国際的なMICEにおいて、最も環境負荷が高いと言われる航空機移動ですが、シンガポール航空も「グループ全体の二酸化炭素排出量を2050年までに実質ゼロ」を目標に、燃費効率の高い最新技術を導入した機材の採用やバイオ燃料の利用、フードロスに配慮した機内食の提供、カーボンオフセットプログラムなども提案しています。

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写真提供:シンガポール政府観光局

4. シンガポールのMICEサポートプログラム

さて、次に具体的なMICE誘致にあたってのサポートプログラムについて触れたいと思います。シンガポール政府観光局の公式サイトに掲載されている内容を一部ご紹介します。

INSPIRE(In Singapore Incentives & Rewards)Global 2.0プログラム
食、ユニークベニュー、アトラクション、テーマ別ツアー、チームビルディングなど80件近いプログラムが用意され、一定の基準を満たしたMICEグループは、その中から体験プログラムを選択することができるようになっています。

適用条件は、20〜250人の外国人代表のグループ、およびシンガポールに3泊以上滞在と大変シンプルです。状況により変わることもあるとのことですが、アウトバウンドのインセンティブを検討している方は問い合わせをしてみてはいかがでしょうか。

シンガポールへのアクセスに大きな役割を担うシンガポール航空もMICEへのキャンペーンを行っています。利用者数により、団体運賃ベストレートの提案に加え、+10kgの超過手荷物免除サービス、特別機内アナウンスやオリジナルヘッドレストカバー、レンタルWiFiルーター割引などのサービスが提供されます。シンガポールへは、成田・羽田の各空港から毎日2便、関空、福岡、セントレアからも飛んでいます。今年の秋には羽田線が1便増える予定もあるそうです。

5. 国としてのポリシーが感じられる多彩なコンテンツ開発

チャンギ国際空港にはさまざまなコンテンツが用意されていますが、空港の敷地内に2019年に新しい複合施設「ジュエル」がオープンしています。施設内に滝や植物園があることで、大変話題になりました。その後、コロナ禍になってしまったので、行く機会を逃していましたが、次回は必ず見てみたいアトラクションです。

MICE誘致に必要なコンテンツは何か?ということがよく話題になります。ユニークベニューなのか、観光施設か、ラグジュアリークラスのホテルか?確かに全て揃っていればその方が良いのですが、全てを自都市にそろえることは難しいのが現実です。しかし、シンガポールは全てを自国に用意し、どんなニーズにも答えようとすることに躊躇が無いと感じます。ロケーションや島国である点などの事情から、広域連携が難しいことが理由として考えられますが、人、モノ、お金、情報が集まるアジアのHUBとしての役割を担うことで国力をつけてきた国ならではの明確なポリシーの現れでしょうか。

MICE参加者も一人の人であり、好みや嗜好、興味の有無などで、その場所で体験したいこと、泊まりたい場所、訪問する観光地を決めています。つまり、MICEに参加している時間以外は観光客となんら変わらない感覚でその都市を楽しみます。受け入れる私たちはそのことを心にとめて、MICEの誘致にチャレンジする必要があると思います。そういったMICE参加者の気持ちや考え方を十分理解しているのが、シンガポールかもしれません。